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僕の偏見紀行
133 ベトナムの風の中で(5)サヨナラ ホイアン!
2012年3月31日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホイアン市場にて。漁師の妻と仲買人の女の交渉、売り手と買い手どちらも譲らない。川の小船には成り行きを見守る旦那の姿。
▲ ホイアン市場にて。路上まで並ぶ豊かな食材の山。豊饒な大地のパワーに圧倒される。
▲ ダナン駅にて。ようやく到着したフエ行きに殺到する乗客たち。なぜか列車はホームから離れて停車している。右手のホーム奥に土産や弁当の売店が並んでいる。
フエへの移動日、早朝のホイアン市場へ行った。河口に近い市場は、果物や野菜に加えて豊富な水産物で溢れ、活気に満ちていた。

市場の裏手は川に面し、その岸壁には漁を終えた漁師達が小船で集まってくる。小船には夫婦らしい二人が乗り、水揚げ作業に忙しく働いている。コイやフナに似た淡水魚、巨大なナマズなど魚種は豊富だ。かたわらのザルには、上海蟹と同じようにワラで括られたカニがびっしりと並び食欲をそそられる。

岸壁では水揚げされた魚を前にした漁師と仲買人の商談が始まっている。売り手買い手ともに女性が多く、奥さんが仲買人の女と激しくやり合うのを、旦那が心配そうに小船から眺めている。まるでケンカのような商談は延々と続く。

ここでは女性が主役のようだ。ゴム長を履いた勇ましいオバサン達がトロ箱を運び、カニをザルに広げ、大声で客を呼ぶ。その隣りではフォーの屋台が大がまで麺をゆでている。狭い通路の両脇には海産物、野菜や果物、ブタの頭や腿肉、さらに日用雑貨やお菓子までが山積みされ、歩き回るだけで楽しい。

こんなアジアの市場に出会う度に、計り知れない大地の力に圧倒される。ベトナムが他国の侵略を受けながらも長い戦いに耐え、ついにはフランス、アメリカといった大国に勝利できたのは、国民の愛国心や強靭な精神力とともにこの豊饒な大地の力があったおかげだろう。

ホテルに戻りフエへの移動の準備をする。朝食のレストランから、昼飯用のバナナとパンを持ち帰るのも忘れなかった。これまで予定が読めない移動日に何度もこれに助けられた。

先日12ドルで先日予約したタクシーでダナンへ向かう。来るときはローカルバスだったが、今日はダナンからお昼のフエ行きの列車で乗らねばならない。列車に乗り遅れると予定が狂ってしまう。

ダナン駅は雑然としていた。待合室はほぼ満席、キップ売り場にも人だかりしている。前もってキップを買っておいてよかった。もっとも実際の運賃は僕が払った8ドルよりかなり安かった。旅行社の手数料が高かった。

早めに着いたので時間はたっぷりある。空いたイスに座り駅の構内を眺める。大声で話す地元の若い女、バックパックを背負った旅行者たち、白人の老夫婦など、様々な旅行者で賑やかだ。

待合室の入り口に若い女二人の座る案内デスクがあったので列車の運行状況を尋ねた。しかし言葉がよく通じず要領を得ない。しかも余計なことを訊くな、仕事が増えて迷惑千万といわんばかりの態度だ。この女達、態度も悪いが器量も悪い。意地悪な心根が顔に出ている。

よく見るとデスクに手書きの案内板があり、1時間遅れとなっている。折角早めに来たのだが仕方ない、諦めて待つしかない。トイレに行くとその入り口にもデスクがあってやはり若い女二人が座っている。トイレ利用者から1回1000ドン(約5円)の使用料をとっているのだ。

二人も人手をかけて5円でペイするのだろうか、他人事ながら心配になる。やがて昼時になると彼女達はその場で肉入り野菜炒めをのせた弁当を旨そうに食い始めた。それに刺激され僕の腹が鳴りだす。

それにしてもこの駅は客数の割には売店が少ない。一軒の売店をのぞいたが水とスナック菓子・インスタント麺くらいしか置いていない。こうなったらホテルから持ってきたバナナとパンが頼りだ。ボゾボソとパンを食いバナナを頬張り水を飲む。

結局2時間近く遅れて列車が到着した。それまで改札口は大勢の客が待っているのに固く閉ざされたままで、列車がホームに進入してようやく開かれた。荷物を抱えた客たちが入ってきた列車に殺到する。しかも列車はホームから線路を1本越えた次の車線に停まっている。そのためホームを降りて線路を越えないと列車にたどり着かない。

ふと気づくとホームにはズラリと売店が並び、いろんな土産物や湯気の立つ旨そうな弁当まで売っている。なんでもっと早く改札を開けて中に入れてくれないのか、僕には理解できない。遅れた列車がいつ動き出すか見当もつかない僕は売店に寄る余裕は無かった。売店も早く客が入れば売り上げも増えるだろうに、ぎりぎりまで改札口を閉ざす神経が分からない。

古びた車内は混雑していた。一応指定席なのだが、大きな荷物を抱えた客がてんでに空いた席に殺到している。苦労して僕の席にたどり着くと百戦錬磨の不敵な面構えの女二人がふんぞり返っている。雰囲気からしてカツギ屋のようだ。僕はキップを見せながら、そこを空けるよう身振りで示したが女達は無視する。

そこへ地元の学生風の若い女が来て、僕と同じくキップを片手に女達に文句をいった。彼女は僕の隣りの席のようだ。同国人に責められ女達はようやく席を立った。僕と並んで席に着いた女学生は、いきなり僕に荷物を見ていてほしい、というジェスチャーをしてどこかへ消えてしまった。

暫くして戻った彼女の手には旨そうな弁当があった。ホームの売店まで弁当を買いに行っていたのだ。様子の分かった地元の人はこうして弁当を買うのだろう。僕も行きたかったが列車がいつ動き出すか分からないため動けなかった。

結局列車は30分以上停車した後ゆっくりと動き始めた。停車中エアコンが止まっていた車内は蒸し暑い。カーテンや座席も古びて快適な乗り心地とはいえなかったが、生まれて初めてベトナムの列車に乗った僕は嬉しかった。

ダナンを出れば約2時間で目的地フエだ。老朽化した列車はのんびりと走り、峠に差し掛かると喘ぎながら登った。峠のあたりからは右手に遠く東シナ海が青く広がっているのが見えた。のどかな風景は日本のローカル線と変わりなかった。

隣りの女学生がテキストを開いて勉強を始めた。何を勉強しているのか、好奇心にかられつい覗き込む。ベトナム語らしい文字の合間に写真やイラストが混じっている。よく見るとケガ人の救急処置のようだ。看護師のタマゴなのだろうか。

言葉は通じなかったが、身振り手振りの結果、彼女はフエにある看護学校の学生と分かった。しかし英語がよく通じないのはどうしてだろう。考えてみるとホテルのフロントでもこんな経験をした。勿論僕の英語がお粗末なのが第一の原因だが、彼らの言葉もなまりが強く聞き取り難い。

ところが英語圏では僕の言葉もなんとか通じる。これはつまるところ、言語能力の高い人は多少いい加減な言葉も理解できるが、僕も含めてそうでない能力の低い人間は、正しい言葉しか理解できないのだろう。

フエに到着したのは予定から2時間遅れ、もう冬の日差しが傾き始めた頃だった。駅前には閑散とした広場がひろがり、その向こうに小さな売店が数軒見える他は人影もまばらだ。とても世界遺産の駅前とは思えない。

ホテルまでどうやって行こうか、荷物を引きずりながら思案していたらタクシーの客引きが寄ってきた。達者な英語を話すが顔つきが良くない。この手合いには何度も嫌な思いをさせられた。ホテルまで5ドルだというのを無視するがしつこくつきまとう。ホテルまで1kちょっとしかないはずなのに、5ドルとはべらぼうだ。

流しのタクシーを待って交渉する。実直そうなな運転者だが全く言葉が通じない。仕方なくガイドブックでホテルの写真を見せ、あとは身振り手振りでなんとか2ドルで話をつけた。

ホイアンからダナンを経て1日かけてようやくフエのホテルに到着。フロントの日本語が達者な女マネージャーが勧めてくれた地元のお茶が旨かった。そのほのかな甘みに僕はホッと一息ついた。

お昼にバナナとパンしか食べなかった僕はその女マネージャーに付近の食堂を尋ねた。当然そのホテルのレストランを勧める彼女に、僕はかさねて訊いた。君たちがランチに行く手軽な食堂が知りたいのだ。

彼女は声をひそめ、そんなことを教えると上司に怒られるといいながらも、すぐそばの安ホテルの食堂を教えてくれた。これはいい人に出会った、この人はきっとホテルマンとして成功するだろう、と僕は思った。

勿論その食堂は安くて旨かった。牛肉入りヌードルスープ、チキンサテ、スチームライス(白ご飯)、ビール、しめて400円ちょっと。とくにチキンサテは香辛料のきいたタレにつけたチキンを香ばしく焼き上げてあり、僕には未経験の美味だった。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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