1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
ボーダーを越えて
102 キューバ:近過ぎて遠い国
2007年2月6日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ キューバへ行くために揃えた書類。
▲ ハバナの革命広場に向かったホセ・マルティーの銅像と記念碑。この前の壇上で、カストロはことあるたびに数時間も演説をぶったのだ。が、彼がそういう姿を見せることはもうないでしょう。
キューバへ行ってみたい、とずうっと思っていた。しかもカストロ生存中に。が、フロリダ南端キーウェストから90マイルちょっと(150km)しか離れていないキューバなのに、なかなか望みを果たせずにいた。アメリカからは気軽に出かけることが許されていないからだ。

キューバへ行くには、限られた目的の範囲内で渡航許可を申請しなければならない。アメリカ政府がその申請をどう審査するのか知らないが、ブッシュが政権を握ってから締め付けが厳しくなり、渡航許可申請を却下される人が毎年何百人といるという。第三国経由で無許可で行くことはもちろん可能だ。実際、メキシコからキューバへ渡るアメリカ人はかなりいる。キューバ政府の報告によると、毎年10万人近くのアメリカ人がキューバを訪れるそうな。そのほとんどは無許可に違いない。そのことをアメリカ政府もちゃんと知っていて、去年だったか、一昨年だったか、無許可で行った年配のおばさんに2万5千ドルの罰金を科した。明らかに見せしめのためだ。

アメリカ市民は罰金で済むけれど、我が連れ合いのように永住権居住者の場合は居住権剥奪ともなりかねない。9・11以来、国家安全保障の名の下に、それ以前は問題にもならなかったような些細なことで国外退去にされた永住権居住者が無数にいることを考えると、用心に用心を重ねた方がいい。と考えていたところ、カリフォルニア大学バークレイー校同窓会が「人道的援助目的」のキューバ旅行を企画したのを知り、去年の夏に申し込んだ。

渡航と旅行の実際の手続きは、イスラエル人経営の旅行社だった。穿った見方をすれば、イスラエル人だからブッシュ政権から厳しい目で見られないのかもしれない。この旅行社は、シナゴーグ(synagogue=ユダヤ教礼拝堂)に医療品などの援助物資を支給するというキューバ市民社会救援会の「人道的援助」の名目で渡航許可をとってはアメリカ人のキューバ旅行を組んでいる。

私たちはその救援会の会員となり、会員証を発行してもらい、それからアメリカ政府にキューバ渡航許可申請書を公証人の認可付きで提出するという手続きを踏んだ。渡航許可が下りるまで、正直いって少々緊張していた。それには少々事情がある。

マイアミに陣取る反カストロのテロ組織の活動をモニターしていた5人のキューバ人が、アメリカの国家安全保障を脅かすスパイ活動をしていたとして1998年に逮捕され、不当な裁判で有罪判決を受けるというできごとがあった。5人はアメリカ全国の刑務所にばらばらに拘束され、家族との面会も許されず、世界の著名人やアムネスティ・インタナショナルなどから正当な再裁判と釈放を求める声が上がり、「キューバン・ファイブ」(Cuban Five)と呼ばれる彼らを釈放を求める運動が起こった。また、彼らを支援するために、獄中の彼らに手紙を書こうという運動もあって、実は私はそれに参加したのだ。きちんと差出人の名前と住所を書いて出したので、5人全員から返事が来たのだが、それはともかく、アメリカ政府のどこかのファイルに「キューバン・ファイブ」の支援者として私の名前と住所が載っていることだろう。そのことで私はキューバ渡航を拒否されるかもしれないと思ったりしたのだ。(「キューバン・ファイブ」については以下のサイトに説明されていますので、是非ご覧になってみてください↓
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/latin_america/cubanfive.htm)

考え過ぎ? いや、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)のミュージシャンたちを再発見して世界中に広めたライ・クーダー(Ry Cooder)が最近の渡航申請が却下されたのだから、それよりもっと政治的な「キューバン・ファイブ」にちょっとでも関わったら、どんないやがらせをされるかわからない。そう思ったのだ。それでも、私にも渡航許可が出て、ホッとした。

キューバへの渡航禁止は経済封鎖の一環として施行されている。外貨獲得の道を封じれば、民衆は不満を爆発させてカストロ政権を倒すだろうという計算なのだ。経済封鎖は冷戦の真っ最中の1963年(といえば、キューバのミサイル危機の翌年だ)に、ケネディー政権によって始められ、渡航許可申請申請制度はレーガン政権が1981年にそれまで行われていたキューバへの自由渡航を制限する目的で設定したものだ。

ソ連が崩壊して冷戦が終わった1990年代初頭に、キューバはアメリカの国家安全保障には影響がないという判断をアメリカ国防省が出した後は、渡航禁止は原則として残ったものの、施行されず、キューバに出かけるアメリカ人の数は増えていったという。クリントン政権は、キューバの経済封鎖を緩和し、渡航禁止の解除も考えたようだが、マイアミの反カストロ勢力の猛反対を押し切るだけの政治的意志に欠けていた。そうして経済封鎖と渡航禁止の原則はブッシュ政権に引き継がれていったのだ。

ブッシュ政権はキューバ封鎖を緩和させるどころが、かえって締め付けを強めた。それだけではない。締め付けは国内にとどまらず、キューバと関係を持つビジネスはアメリカでの活動禁止という形で外国企業にも拡張されるようになってしまった。禁止とされた外国企業の多くは旅行業である。(その他、もっと重大な締め付けが外国企業にかけられているのですが、その話は次回にしましょう。)

共和党にとっても大統領選挙にとってもきわめて重大なフロリダ州に、反カストロ勢力が陣取って多大な政治的圧力を振るっているのは、アメリカ市民にとってもキューバ人にとっても不幸なことだ。また、アメリカ指導層の心の奥底では、キューバはアメリカ勢力下にあって当然という考えが潜んでいる。それをはね除け続けてきたカストロ政権だから、中国やベトナムのような社会主義国家は許せても、キューバの社会主義政権は許せないのだろう。同時に、中国での人権無視には目をつむれても、キューバの政治犯の存在はことさら声高に糾弾して、カストロ政権打倒の手段に利用しようとするのだろう。もちろん、いまのアメリカに、他国の人権無視や政治犯の存在を糾弾する資格はないのですが。

メキシコの悲劇は、神様からあまりにも遠過ぎ、アメリカにあまりにも近過ぎることだと言われるが、そのことはキューバにもっとぴったりする。そのキューバに、私はメキシコのカンクンから1月13日の夜、到着した。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
199 お葬式
198 とうとうやって来た日、そして雨
197 思い切り生きる
196 一夜が明けて
195 ヘザーと私の日本旅行記(6 下)文楽とフグ
194 ヘザーと私の日本旅行記(6 上)ショッピング
193 ヘザーと私の日本旅行記(5)多様な日本
192 ヘザーと私の日本旅行記(4 下)河津桜と温泉
191 ヘザーと私の日本旅行記(4 上)伊豆へ向かう
190 ヘザーと私の日本旅行記(3)葉山・鎌倉
189 ヘザーと私の日本旅行記(2)江戸・かっぱ橋・オフ会
188 ヘザーと私の日本旅行記(1) 日本到着
187 生ある日々を
186 花嫁の父
185 プラチナの裏地
184 家族をつなぐ指輪
183 「血の月」を追いかけて
182 ママハハだった母
181 アジア人(下)固定観念を越えて
180 ジプシーの目
179 選挙に映ったアメリカの顔
178 とうとう、きょう
177 アジア人(上)その概念
176 海軍出身
175 特攻志願
174 お祭り
173 ありがとう、で1年を
172 クリスマスプレゼントが今年もまた
171 スージー・ウォンの世界
170 秩序の秘訣
169 黒い雲の行方
168 ドアを開けたら
167 今年もまた
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
165 ボリビア(6)パクーの登場
164 ボリビア(5)卵の力、女性の力
163 ボリビア(4)小麦の都
162 ボリビア(3)米の都
161 ボリビア(2)2つの日系移住地
160 ボリビア(1)サンタクルス
159 闇の中で
158 みんなの宝物
157 新語の中身
156 年末のご挨拶
155 ピッチピッチチャップチャップ
154 神の仕業
153 ラタトゥイユ(2)レシピ
152 ラタトゥイユ(1)
151 プティ・タ・プティの最後の1片
150 ジプシーとの知恵競争は続く
149 豊かな粗食
148 中絶抗争
147 スーザン・ボイルの勝利
146 黄昏の親子関係
145 子ども好き
144 言葉雑感(8)regift
143 言葉雑感(7)「ん」の音
142 アメリカの理想
141 ときめく日の足音
140 言葉雑感(6)ミルクとは
139 ミルクの教訓
138 年末の独り言
137 投票日日誌
136 あと3日
135 ペイリンから見えるアメリカ
134 訴訟顛末記(1)まず弁護士を
133 園遊会で
132 柔の姿勢
131 言葉雑感(5)4文字言葉
130 豪邸の住人
129 言葉雑感(4)カミはカミでも
128 言葉雑感(3)ブタ年生まれ
127 言葉雑感(2)子年のネズミ
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
125 やって来た山火事(最終回)これから
124 やって来た山火事(9)いとおしい木々
123 やって来た山火事(8)現実に直面して
122 やって来た山火事(7)焦燥の2日間
121 やって来た山火事(6)私の方舟
120 やって来た山火事(5)避難準備
119 やって来た山火事(4)止まない風
118 やって来た山火事(3)第1日目の夜
117 やって来た山火事(2)第1日目の夕方
116 やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり
115 しあわせな1日
114 チェ
113 メキシコの息づかい
112 「石の家」
111 「バッキンガム宮殿」での晩餐会
110 ケーキ1切れ
109 「豊かさ」の中身
108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
106 キューバ:アメリカの恥
105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
101 ホンジュラス(最終回)去る者,残る者
100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
66 「ニューオーリーンズ」に見えたもの
65 思わぬ道草(17)一歩後退の教訓
64 思わぬ道草(16)日没症候群
63 甦生の兆し
62 ニューオーリーンズとクリスチャン
61 思わぬ道草(15)もつれた糸
60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
59 思わぬ道草(13)彼の青い目(上)
58 思わぬ道草(12)ローマ鎧
57 思わぬ道草(11)看護師騒動
56 思わぬ道草(10)近くの他人
55 思わぬ道草(9)ロールバー
54 思わぬ道草(8)楽観の2日間
53 思わぬ道草(7)一人三脚
52 思わぬ道草(6)長い夜
51 思わぬ道草(5)OR
50 思わぬ道草(4)ER
49 思わぬ道草(3)常習犯
48 思わぬ道草(2)目撃者
47 思わぬ道草(1)3月14日の夕方
46 訛った英語
45 イギリスの英語
44 英語とアメリカ
43 海の中に(下)
42 海の中に(上)
41 姓というマーカー(下)
40 姓というマーカー(上)
39 国籍あれこれ:選択肢
38 国籍あれこれ:彼の場合
37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
14 鶏より馬
13 働く人々
12 花婿の父
11 シンコ・デ・マヨ
10 「奇跡の3月」
9 アボカド形の穴
8 父親不明
7 女性花・男性花
6 トーマスのギャンブル(2)
5 トーマスのギャンブル(1)
4 成熟と完熟
3 グァカモーレ
2 アボカドさまざま
1 メックスフライ
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 6 6 7 0
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 1 1 8 5