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2007年10月11日 |
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 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。 |
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▲ サンタクララのゲバラ記念公園 |
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▲ キューバ南東の古い町バラコア(Baracoa)の民家の壁に描かれたゲバラの肖像 |
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今年はエルネスト“チェ”ゲバラ(Ernesto “Che” Guevara)がボリビアで暗殺されてからちょうど40年目になります。ゲバラは10月8日にラ・イゲラ(La Higuera)というちっぽけな村でボリビア軍に捕まり、その翌日の9日にはボリビア軍の軍曹に銃殺されてしまいました。ボリビアでは今年の10月8日、ラ・イゲラの近くのバイェグランデ(Vallegrande)という町で40周年を記念する儀式が開かれました。ゲバラの遺体は最初、バイェグランデの空港の滑走路の下に秘かに埋められ、それを指揮した司令官が1995年に告白するまで、ゲバラの遺体の在処は知られていなかったのです。
ゲバラ追悼40周年記念集会には外国から来賓も含めて3000人が集まり、エボ・モラレス(Evo Morales)大統領も出席して追悼の辞を述べたそうです。これまでのボリビア大統領だったら、そんな儀式に出席はもちろん、開催すらしなかったでしょうね。このことはアメリカのマスメディアには無視されましたが、現在の南米の政治の動きのうねりを感じさせる意味深いできごとだと思います。
キューバでは島の中部にあるサンタクララ(Santa Clara)という町で記念集会が開かれ、ゲバラの未亡人と子どもたちも出席しました。サンタクララはゲバラがキューバ革命遂行に決定的な戦闘に成功した町です。その郊外には大規模なゲバラ記念公園があって、ゲバラの銅像、レリーフ、記念博物館のほかに、1997年にボリビアから送られてきたゲバラの遺骨が他の革命戦士たちのとともに安置されています。集会には病気療養中のカストロは出席しませんでしたが、弟のラウル・カストロ(Raul Castro)が代理を務め、ゲバラは「咲き切らないうちに茎からもぎ取られてしまった花だ。この稀有な戦士に私は敬服と感謝を込めて頭を下げる」というカストロの言葉を読み上げました。
キューバでの集会はアメリカでも報道されました。でもそのほとんどは、現在世界中に広がっているゲバラのイメージが商業化されたものだという内容に占められました。たしかに、キューバの写真家、アルベルト・コルダ(Alberto Diaz Gutierrez Korda)が撮ったゲバラの有名な写真*は、世界中でTシャツやペンダントや帽子にプリントされ、ゲバラがどういう人物で何をしたのかすら全く知らずにイメージを身に付けている若者も多いそうです。それを大目に見てきたコルダですが、イギリスの広告会社がウォッカの宣伝に使わったのはさすがに許せなくて裁判に持ち込み、彼の写真の使用を止めさせたことがあります。
ゲバラのイメージが商業化された「世界」には、もちろんラテンアメリカも含まれているのですが、ラテンアメリカではゲバラが何をしたかは忘れられていないでしょう。むしろ、ゲバラは彼の理想理念とともにラテンアメリカの人々の間でますます高く評価されているのではないかと思います。ベネズエラのウゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領が、ラテンアメリカをスペイン支配から解放しようとしたシモン・ボリバー(Simon Bolivar)の理念を蘇させようと訴え、それに沿って社会改革を進めているのと平行してキューバと協力体制を組んで、アメリカの軍事力やネオリベラリズムに対抗しているし、ボリビアでは建国初の先住民大統領が生まれてチャベスと足並みを揃えているので、死後40年経ったいま、ゲバラは社会正義のための闘いの象徴として生き続けているのでしょう。
国家資本主義を押し進めている現在の中国でも、毛沢東の「為人民服務」[人民に奉仕する]という言葉が街角のあちこちに見られますが、それと同じように、キューバではゲバラのイメージと言葉があらゆる所に溢れています。それが政府の政策なのでしょうが、住民が自発的にゲバラのイメージを描いたらしいのもいっぱいあったし、彼を偲ぶ歌もあって、ゲバラは一般キューバ人にも敬愛され続けているのを感じました。ゲバラに比べると、カストロの銅像は一切ありませんでしたし、イメージもほとんど見かけませんでした。彼の没後にはその事情は変わることは大いに考えられますけど、若くしてハンサムのままこの世を去ったゲバラには、イメージの面ではかなわないでしょうね。
以前のキューバ報告でもちょっと触れましたが、キューバでは階級差のない社会を目指して、教育や医療は全部無料です。それだけでなく、ベネズエラやボリビアに医師をどんどん送り出して両国の貧困層の医療を施しています。皮肉なことには、ゲバラを銃殺した軍曹は2年前、キューバから派遣された医師に白内障手術をしてもらったそうです。ゲバラがカストロとともに勝ち取ったキューバ革命のおかげでそんなことが可能になったわけですが、軍曹はどんな思いで手術を受けたのでしょうかねぇ。
*コルダが撮ったゲバラの写真は以下のサイトに↓ http://www.artnet.com/artwork/425111468/169989/alberto-diaz-gutierrez-korda-guerrillero-heroico-cropped.html
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