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葉山日記
32 龍志の遺稿
2003年12月9日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
▲ 研究会で仲間に囲まれ談笑する鈴木龍志君(2003年3月20日)
鈴木龍志が逝った。冒された病のことをだれにも語らず、その死さえ、ひと月のあいだ伏せた友のことを語るには少し時間がかかりそうだ。

以下はちょうど1年前研究会サイトに寄せられた彼のエッセイ「クリスマスの贈り物」である。これが研究会への遺稿となってしまった。

故人への失礼をかえりみずあえて書くが、僕はこの文章を読んだとき「さいきんの龍志の文は抹香くさいなあ」と感じ、愚かにもごく親しい友人にそういう印象を語った。いま「なぜ彼の内部の異変に気がつかなかったのか」と忸怩たる思いだ。

このエッセイのあと、僕は彼になんども連載執筆をすすめた。以下はことし1月13日付けの彼からのメール。これを読むと、彼はいずれなにかを書く気でいたような気がする。そのテーマはいったいなんだったのか。いまとなっては確かめようがない…。

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「クリスマス…」はとりあえず、消去しておいてください。連載が可能になったら、スタイル一新でスタートしたいと思います。そのときは、多分、まったく別のテーマになると思います。で、古いエッセイはないほうがかえっていいかと思います。サイトの連載、どれも面白いですね。「アボカド」は、単に果物や果樹農業の話にとどまらず、文化や生活、人生の話に広がるとかなり面白くなると思います。「ドバイ」は馴染みのない話だけに大いに期待がもてます。「フィジー」はエキゾチックな環境における極めて身近な話というアングルがとても新鮮です。よくこれだけの執筆陣をそろえられたと感嘆しています。
では〜。鈴木龍志
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●クリスマスの贈り物

我が家にはちょっと変わったブランケットがある。縦1.6メートル、横1メートルほどの大きさで、ひざ掛けに使ったり、うたたねのときに被ったりするのにちょうどいい。エリザベス・ワグナーさんという老人が25年前のクリスマスにカミさんにプレゼントしたものだ。
ワグナーさんは僕がアメリカに留学したとき、暫く住んだアパートの家主だった。アパートといっても普通の住宅で、一人暮らしのワグナーさんが屋根裏部屋と地下室を学生に貸していた。僕は屋根裏の一番狭く、日のあたらない部屋を格安の月70ドルという家賃で借りていた。
暫くして、日本からカミさんがやって来た。カミさんは僕が帰国するまで東京で一人暮らしするはずだったが、「自分だけ日本に残されるのは割に合わない」と考えたらしい。それで、僕はワグナーさんのアパートを出て、大学が運営する世帯者向けのアパートに移った。
しかし、ワグナーさんとの縁はその後も続いた。アメリカ暮らしを始めたばかりのカミさんが、「英会話の上達には、ヒマがたっぷりある老人と親しくなるのが一番」と言い出し、僕がカミさんを彼女に紹介したためだ。
その後、2人は毎週曜日を決めて会うようになった。やがてただ話をするだけでなく、カミさんがワグナーの部屋の掃除やシーツの交換をするようになった。我々の苦しい懐具合を知ったワグナーさんがカミさんに仕事を与えてくれたらしい。
ワグナーさんの仕事は週に2時間だけで、時給3ドルだった。たいした収入にはならなかったが、ぎりぎりの資金で私費留学していた我々には有り難かった。
やがて、ワグナーさんは自分の部屋の掃除だけでなく、いろいろな仕事をカミさんに与えるようになった。仕事は庭のフェンスのペンキ塗りだったり、庭の芝生刈りだったり、学生が休暇で空になった貸し部屋の掃除だったりした。時にカミさんを連れて、ランチに出かけるようなこともあった。
ワグナーさんは右半身が不自由で、外出のとき化粧をすると、いつも唇から口紅が大きくはみ出してしまうほどだった。そんなワグナーさんが、カミさんが訪ねると玄関近くの大きなチェアに座り、不自由な手でいつも編物をしているようになった。編物はカミさんが帰る時間になっても続いていた。何を編んでいるのかはカミさんにもわからなかった。

ワグナーさんは寡黙な人で、特に自分のことは話したがらなかった。それで、僕はワグナーさんの過去を長い間まったく知らなかったが、あるときワグナーさんがオーストリアの出身であることを誰かから聞いた。また、ナチスの迫害を受けアメリカに逃れたこと、その後も経済的にかなり苦労したことなども知った。
カミさんがワグナーさんのところに通うようになった年の翌年の秋に彼女が入院した。何の病気なのかは知らなかったが、2人でお見舞いにいくと、ベッドのワグナーさんはかなり疲れたような様子だった。僕は何と言っていいかわからず、「暫くすれば、きっと良くなりますよ」とありきたりな言葉をかけた。すると、ワグナーさんは我々によく理解させるためか、ゆっくりとした口調で“I lived too long.”(長く生きすぎたよ)と言った。まだ若く、彼女の真意を測りかねた僕はただ沈黙するしかなかった。

やがてクリスマスが近づき、地元の高校の校長をしているワグナーさんの長男、トムさんカミさんを訪ねてきた。トムさんは「母からのクリスマスギフトです」と言って、カミさんにリボンのついた包みを手渡した。中を開けると、手編みのブランケットとやはり手編みのベビー用のガウンが入っていて、同封のカードには、「ベビー用のガウンは子供ができたら着せるように」と書かれていた。
残念ながら、我々には子供ができなかったので、ベビー用ガウンは今も熊のぬいぐるみに着せたままだ。しかし、ブランケットは毎年冬になると愛用させてもらっている。

帰国後暫くしてワグナーさんが亡くなったという連絡があった。享年82歳だった。
僕は当時ワグナーさんがカミさんに親切にしてくれたのは、一人暮らしの老人がカミさんを気に入ってくれたためだと思っていた。
しかし、この冬、ワグナーさんのブランケットをまた使うようになり、ふとワグナーさんのカミさんへの思い遣りはそれだけでないような気がした。
『ワグナーさんは、遠い国からやってきて苦労しているカミさんに自分の若い頃の姿を見たのかも知れない。ワグナーさんの優しさには、自分と同じマイノリティへの思いが込められていたのかも知れない』
と思った。
今年もまた、クリスマスシーズンがやってきた。あれから25年。僕も大分歳をとった。ワグナーさんのプレゼントが宝物のように思えるのはそのせいかも知れない。
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