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僕の偏見紀行
141 韓のくに迷走記(4)仁寺洞、路地裏ホテル
2012年10月14日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 仁寺洞の路地裏で見つけたホテルの部屋。少々古びていたが安くて快適、僕のお気に入りホテルになった。またソウルへ行ったらここに泊りたい。
▲ 仁寺洞通りの屋台。アンコの入ったマンジュウを焼いていた。かなり小ぶりだが日本と同じ味だった。
▲ なじみになった食堂での夕食。煮えたぎるナベには牛らしき骨付き肉が入っている。昼飯も似たようなナベだったが、白濁したスープだった。このスープをご飯にかけて食うのが僕は好き。本当はご飯をナベに投入するらしい。
4日目の朝、B&Bの朝食はギョウザ入りスープだった。薄味のスープに具が詰まったギョウザが浮いている。口に入れると見た目よりボリュームがある。付け合せは山菜の煮付けとお漬物、そしてデザートには緑茶とチョコレート。朝食にチョコレートは驚いたが、食事が済んでみると特に違和感はなかった。

韓国料理には全くの門外漢の僕だが、ここの奥さんの料理は大したものだと思う。器、盛り付け、分量、すべてにおいて無駄がなく、簡素に見えながらその味わいは奥深い。このことは、この国の伝統家屋の造りにも通じるのではないか。いずれも外観は極めて簡素だが、吟味された素材と手間による贅が尽くされている。これはこの国の文化の特徴だろうか。

朝食後、奥さんは自慢の骨董コレクションを見せてくれた。一番目を引いたのは、「ポジャギ」という小さな端布をぬい合わせた風呂敷大の布。残り物の切れ端の再利用から始まったらしい。古いものは相当の骨董価値があるということだ。由緒ありげな布が丁寧に縫いつながれ、凝った刺繍が施されているものもある。その他には真鍮の食器類、王朝ドラマで見かけたような枕等が、広い居間一杯に飾られていた。

B&Bをチェックアウトした僕は先日予約した仁寺洞の安ホテルへ向かった。ホテルに着くとチェックインは昼ごろからという。荷物を預け、明日からの旅にそなえ情報収集に出かけた。次は全州、慶州あたりを歩くつもりだ。

訪ね歩いてたどり着いた韓国観光公社は豪華なビルにあった。地下の案内カウンターへ行くと、英語・中国語・日本語それぞれの窓口が揃っている。この充実振りは他の国では経験したことがない。

早速いろいろと相談する。さすが観光公社本部、担当者の仕事ぶりは的確で無駄がなかった。ソウルから全州、さらに慶州への移動手段について尋ねると、たちどころにパソコンから的確な情報を打ち出してくれた。

日本語担当の女性は有能かつ親切だった。カウンター越しに相談していたのだが、そのうち僕をパソコンの前に呼んで画面を見せながら説明するのだった。

お陰で明日からの全州・慶州行きのめどがついた。地下鉄でソウルの高速バスターミナルーへ行けば、そこから全州へは10分おきに高速バスが出ている。所要時間2時間45分、ノンストップの直行便だ。韓国内の移動はバスが便利と聞いていたが実際そのようだ。

全州から慶州へは、中央の山岳地帯を迂回するため、ちょっと時間がかかりそうだ。バスと鉄道を乗り継ぐのが便利だと教えられた。

次に宿泊情報について尋ねた。僕は今のところ、全州では初日の宿しか押さえていないが、3日くらいは滞在したい。それを聞いた彼女は、またもやパソコンから素早くホテルリストを打ち出した。韓国には公社認定の「G00D STAY」マークを持ったお勧めの宿があって、全州にも手ごろな宿があるという。

僕がそこを頼むと彼女はすぐに電話で手配してくれた。ツインのシングルユースで55000W、ただし振込みによる前払いが必要だった。どうやって振り込んだらいいのか、僕は一瞬不安になった。しかし彼女はこともなげに、ホテルの銀行口座と最寄の振込銀行窓口の場所をプリントして僕に渡した。

慶州の宿については、有名な観光地であることから宿も多い、現地で自分の目で見た上で決めたらどうか、と彼女はアドバイスしてくれた。市内のバスターミナル付近のゲストハウスから郊外にある湖のほとりのリゾートホテルまでたくさんあるらしい。

最後に僕は気になっていたことを尋ねた。先日、僕が全州の宿を予約した際に、電話に出た男性から聞いた「特別なイベント」のことだ。そのため全州のホテルはとても混んでいるらしい。特別なイベントは何だろう、僕の目的であるパンソリの定期公演はどうなったのだろう。

僕の話を聞いた彼女はすぐに全州市役所へ電話を入れ、事情を聞いてくれた。その結果全州では、僕の滞在予定の3日間を含めた数日間に、「全州国際ソリフェスティバル」という催しが開かれることが分かった。ソリとは音・音楽を意味する、従ってこれは「国際音楽フェスティバル」ということだろう。

もともと全州周辺は伝統音楽の本場といわれ、特にその郊外の南原という町は「パンソリの聖地」として名高い。ある時偶然に、このパンソリをテレビで見た僕は大きな衝撃を受けた。それ以来僕は、なんとかその本場でパンソリに直接触れてみたい、と思い続けてきた。

パンソリは朝鮮伝統芸能のひとつであり、口承文芸といわれている。パンは人々が集う場所を、ソリは音楽を意味する。歌い手は一人、素朴な太鼓一つが伴奏だ。悲痛な叫びにも似た歌は、聞くものの心を激しく揺さぶる。

市役所によると、フェスティバルは伝統音楽からニューミュージックまで幅広くプログラムが組まれ、パンソリもその中に含まれている。そのため通常のパンソリ公演は中止だった。

事情が分かった僕は一安心し、日本語担当に礼をいい、銀行振り込みに向かった。途中で振込案内を確認したところ、口座番号の記載がない。載っているのはホテル名とそこの携帯電話らしい番号のみ。ただでさえ振込は手間がかかり面倒なのにどうしようか。僕は煩雑な手間で混雑する日本の銀行を思い出してユウウツになった。

ところが、である。大きなビルの豪華な銀行窓口は人影もも少なく、アッという間に手続完了。窓口の韓国美人は満面の笑みを浮かべながら「あんにょんはせよー」といって書類とお金を受け取るや、たちどころに手続きを終え「かむさみだー」と軽やかにいいながら僕にバウチャーを渡してくれた。何だこの手軽さは、とても銀行とは思えないサービス振りだ。この実態を分かっているのか、わが国の金融当局は。

懸案事項の解決を見た僕は機嫌よくホテルへ戻りチェックインした。この小さなホテルは、入り口そばに狭いフロントがあるのみ、洒落たロビーなど無い。フロントを過ぎるとすぐに客室が並んでいる。このフロントの係りはいつもひとりだけ、オバサンや若者達が交代で立っている。

見ているといろんな客が出入りする。韓国人、中国人、そして日本人の中年女性グループなど。彼女等はエレベーターを待つ間も、互いに買ってきたお土産の品定めに余念がない。

晩飯は近くの食堂で牛骨スープ鍋とご飯、それにビール。歩き回って渇いたのどにビールが旨い。今日の昼飯もここで食ったので、店のオヤジとは顔見知りになった。帰り際に、あしたも来てくれ、というので、明日から全州から慶州だ、と応えた。するとオヤジは、いいご身分だね、と僕を冷やかす。

食堂を出て、暮れかけた仁寺洞をぶらつく。小さな店がびっしりと連なり、合間に屋台がいくつか立っている。焼き饅頭やソフトクリームが旨そうだ。土産物屋に入り込み、ポジャギをあれこれ見る、路地奥の食堂を覗き込む。見知らぬ国の雑踏を気ままに歩くのは心弾む楽しさだ。

ホテルに戻り、荷物の整理をする。少々古びた部屋はお世辞にも広いとはいえない。しかしバスルームはじめ、必要な設備に不足はなく、部屋は清潔だ。ノリの利いた白いシーツのベッドに寝転ぶと、高い窓から隣りのビルの壁しか見えない。ビルの谷間の安宿に一人たれこめ、憧れのバックパッカーらしくなってきた。しみじみと喜ばしい気持ちが湧いてくる。

明日に備え早めにベッドに入る。エレベーターホールのざわめきが遠くに聞こえていたが、疲れた僕はいつの間にか眠り込んでいた。。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
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52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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