1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
老舗の店頭から
76 ラス・メニーナス (Las Meninas)
2007年7月9日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
























ラス・メニーナス (Las Meninas)


Las Meninas (宮廷の女官達)と題されたこの名画は、17世紀スペイン絵画の巨匠、ディエゴ・ベラスケス (Diego Velazquez 1599 - 1660) の代表作のひとつで、現在は、マドリッドのプラド美術館に展示されております。(ここには残念ながら、まだ私は訪れたことはありません。長年行きたいと願ってはいるのですが・・・)

この絵のモデルは、ベラスケスが宮廷画家として仕えたスペイン国王、フェリペ4世の娘で、後にオーストリア、ハプスブルグ王朝のレオポルド1世と結婚してウィーンに嫁いだマルガリータ王女(5歳の時)です。

ベラスケスは、これ以外にも彼女の絵を何枚か描いていますが、そのうち3歳から8歳までのマルガリータ王女を描いた3枚が、ウィーンの美術史美術館にあるのだそうです。これらは本人が嫁ぐ時に持参したわけではないのだそうで、ではなぜかと言うと、見合い写真として幾度かに分けて嫁ぐ前に送られたというのです。写真技術がなかった時代、王女の肖像画はしばしば見合い用として使われた、というからおもしろいですね。

それにしてもこれは不思議な絵ですね。実際の主役は5歳の王女でありながら、「宮廷の女官達」と名付けられています。また奥正面の鏡の中に、王女の両親、フェリペ4世夫妻が写っています。おまけに画面の左側には王女を描いているはずの画家自身が登場していて、まるでこちらを見ているような視線で、この絵を見ている人を虜にします。

ということは、画家が国王夫妻の肖像画を描いている部屋に、マルガリータ王女が侍女達を連れてやってきたと考えればよいのでしょうか?

私は実は、この絵の中の画家の視線がすごく気になります。鑑賞者をじっと見据えて、まるで鑑賞している私達をも絵の中に取り込んでしまっているような・・・。

重層的な人物配置、小人や犬も含めた多彩な登場人物の群像。そして画家自身が大きく登場していること。この画の特徴はいくつもありますが、でもやはりこの構図全体を引き締め、まとめているのは、5歳の王女、マルガリータですね。

彼女は1666年、15歳の時にウィーンに嫁ぎ、ハプスブルグ王朝の国王レオポルド1世の王妃となりました。不幸なことに国王との仲むつまじい生活は数年しか続かず、22歳の誕生日を前にして、気管支炎で急逝してしまいました。短かったけれども、結婚生活そのものは幸せであった、と多くの資料には記されているといいます。

そう言えば私も見たことがあるのですが、ウィーンの王宮 (Hofburg) の中に、スペイン乗馬学校 (Spanische Reitschule)という施設があり、毎週日曜日にはそこで多くの白馬が音楽に合わせて行う華麗な演技を見ることができます。なぜウィーンにある乗馬学校がスペインという名前を持っているのか、不思議に思われるかもしれませんが、これは実はマルガリータの結婚と関係があるのでだそうです。

マドリードからウィーンまで、今なら飛行機でせいぜい3時間もあれば行ける距離ですが、当時のことですから、マドリッドから陸路バルセロナまで行き、そこから海路イタリアに渡り(多分ジェノヴァ)、そしてミラノからアルプスを越えるという、数ヶ月がかりの大旅行だったのです。

それだけに花嫁を迎えた祝典は、延々3ヶ月間も続いたといいます。ミサ、接見、パーティ、花火、演劇、バレエ、狩り等々が延々と繰り広げられたわけです。そしてその時の催しもののひとつとして、スペイン原産のイタリア・リピッツァ産の馬を訓練して、オーケストラに合わせて演技をさせるという初めての試みがあったというのです。歴史上で馬が音楽に合わせて演技したのはこれが初めてとスペイン乗馬学校の解説書にはあるくらいですから、以来すっかりウィーンの名物になり、それから340年以上経った今でも、それが残っているわけです。

スペイン原産の馬、それもほとんどが美しい白馬を使うことから、Spanische Reitschule の名がついているのだそうで、第2次大戦末期には、戦火の中からこの馬達を救うためにアメリカ軍が救出作戦を展開した、というのですからたいしたものですね。

早逝した王女は、このすばらしい名画の他にも数々のものを残しましたが、スペイン乗馬学校もそのひとつだったのです。メディチ家からフランスに嫁いだ王妃のおかげで、フランスの食文化が大きく発展した、と言われているように語り継ぐべき文化を持った女性が移動すると影響は大きいなあ、と思ってしまいますね。

ちなみにベラスケスは、1660年に61歳で亡くなっておりますので、マルガリータの結婚には残念ながら立ち会うことができなかったのです。そしてまた、たいへん残念ながら、私はまだプラド美術館には行ったことがないのですが、いつか必ずしっかりと見に行こうと思っています。あのゴヤの作品も数多くありますしね。


最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
166 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 2
165 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 1
164 優れた作家の感受性のすごさ
163 「アウトドア般若心経」
162 紫紺の闇 (しこんのやみ)
161 言論を奪われ、異論を排除した時、戦争は止められなくなる。
160 法の精神(8月15日に際して)
159 戦争は、防衛を名目に始まる。
158 平泉 澄(きよし)
157 アンビグラム (Ambigram)
156 白虹事件
155 山崎と大山崎 その4 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 後編)
154 山崎と大山崎 その3 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 前編)
153 山崎と大山崎 その2 (大山崎山荘の誕生)
152 山崎と大山崎 その1
151 修学院離宮 Part 2
150 修学院離宮 Part 1
149 「漢詩のリズム」
148 最澄と空海 その3 (まとめ) 両雄並び立たず
147 最澄と空海 その2 薬子の変
146 最澄と空海 その1 還学生と留学生
145 桂離宮と豊臣秀吉
144 「漱石枕流」
143 忘れられない写真
142 松方コレクションと国立西洋美術館
141 カタロニア讃歌 (Homage to Catalonia)
140 「乱」と「変」
139 パナマ運河疑獄事件
138 水晶栓 (Le bouchon de cristal)
137 シュール・リー (sur lie)
136 「斉藤」、「斎藤」、「齊藤」、「齋藤」
135 宋靄齢・宋慶齢・宋美齢
134 マカオ今昔 その4 (最終回)
133 マカオ今昔 その3
132 マカオ今昔 その2
131 マカオ今昔 その1
130 四神(しじん)
129 森 恪 (読みにくい名前を、もう1件)
128 大給 恒
127 ローマの休日 (Roman Holiday)
126 ラファエル前派
125 京都名刹めぐり その29 大覚寺
124 京都名刹めぐり その28 金戒光明寺
123 京都名刹めぐり その27 清閑寺
122 京都名刹めぐり その26 山科の毘沙門堂
121 京都名刹めぐり その25  正伝寺と圓通寺の借景
120 BYO ワインクラブ
119 「懐石料理」と「会席料理」
118 ナイト・ホークス
117 景徳鎮・有田・マイセン
116 瑠璃光院の不思議
115 葭と葦 (永源寺にて)
114 「プラハの春」、「ベルリンの秋」、「ウィーンの冬」
113 アルクイユ (Arcueil)
112 カンパリ (CAMPARI)
111 耕論 「ミシュラン、おいでやす」
110 美術展作品の輸送について
109 エトルタの針は空洞か? 
108 「無縁社会」
107 秋艸道人
106 白毫寺(びゃくごうじ)
105 2人のラ・トゥール
104 ブラジリアン・マジック
102 ジュール・シュレ美術館の盗難事件
101 シャントルイユの「空」
100 白凛居へ行って参りました。
99 イコン異聞 (日本人イコン画家 山下りん)
98 新たな気持で
97 セザンヌ、その光と陰
96 「マキシミリアン」の謎解き
95 マキシミリアン (Maximilian)
94 土佐派
93 カトリーヌ & マリー
92 真珠の 「耳飾り」 と 「首飾り」
91 ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル
90 私と絵画
89 八点鐘 (はちてんしょう)
88 五山の送り火クイズ
87 白い送り火
86 春 (La Primavera)
85 カラバッジオ (Caravaggio)
84 一度は消えた画家
83 マニュエル・ゴドイ (Manuel Godoy)
82 フリーダ・カーロ (Frida Kahlo)
81 ジョージア・オキーフ (Georgia O’Keeffe)
80 ラ・リュッシュ (La Ruche)
79 マルディ・グラ (Mardi Gras)
78 接吻 (Der Kuss)
77 ワイエス
76 ラス・メニーナス (Las Meninas)
75 オールドホーム (The Old Home)
74 私と村 (Moi et le village)
73 メデューズの筏
72 破戒僧と尼僧
71 遠近法とパオロ・ウッチェルロ
70 オシュデ (The Hoschede)
69 アプサント (L’absinthe)
68 草上の昼食 (Le dejeuner sur l’herbe)
67 オランピア (Olympia)
66 ジオットとEU
65 オルナンの埋葬
64 フェルメールの魅力
63 レカミエ夫人の肖像
62 コタン小路
61 上七軒(かみひちけん)
60 祇園のお座敷便り その1
59 サント・ヴィクトワール山 (La Montagne Sainte-Victoire)
58 ワインのホワイト・ホース、シュヴァル・ブラン
57 京都花街概論
56 ネゴーシアン (negociant)
55 オノレ・ドーミエ (Honore Daumier) のカリカチュア
54 AOC
53 世田谷美術館へ出かけませんか?
52 シャトー・ラトゥール
51 セーヌ川をはさんで
50 グランド・ジャット島の日曜日の午後
49 ムートン・ロートシルト
48 ポール・デュラン−リュエル (Paul Durand-Ruel)
47 イケーム (Yquem)
46 タリスマン (Le talisman)
45 アリスカン (Les Alyscamps)
44 月と六ペンス (The Moon and Sixpence)
43 京都名刹めぐり その24 古知谷 阿弥陀寺
42 オルセー美術館にある方が模写なのです (ガシェ医師の肖像)
41 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 本編
40 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 前置き編
39 パリ市民とバリケード (barricade)
38 シャトー・ペトリュス (Chateau Petrus)
37 返却されなかった名画 <アルルの寝室>
36 真夏の夜のワインの夢 in ロンドン   
35 ヴィンセント・ファン・ゴッホとオーヴェールの教会
34 Ullage (アリッジ)
33 複雑な素朴派、アンリ・ルソー
32 フランス・ワイン通史 その2
31 フランス・ワイン通史 その1
30 風の花嫁
29 カナの婚礼
28 切り分けられた名画、ショパンとジョルジュ・サンド
27 「都会の踊り」 と 「田舎の踊り」
26 京都名刹めぐり その23 高台寺
25 京都名刹めぐり その22 法然院
24 京都名刹めぐり その21 平等院(宇治)
23 京都名刹めぐり その20 東福寺
22 京都名刹めぐり その19 泉涌寺
21 京都名刹めぐり その18 智積院
20 (突然ですが・・・)ドレフュス事件とエミール・ガレ
19 京都名刹めぐり その17 六波羅蜜寺
18 京都名刹めぐり その16 実相院
17 賀茂一族
16 京都名刹めぐり その15 正伝寺
15 京都名刹めぐり その14 六道珍皇寺
14 閑話休題 「I have a reservation.」 
13 京都名刹めぐり その13 狸谷山不動院
12 京都名刹めぐり その12 安井金比羅宮
11 京都名刹めぐり その11 圓光寺 (えんこうじ)
10 京都名刹めぐり その10 金福寺 (こんぷくじ)
9 京都名刹めぐり その9 東山大文字の火床はこうなっておりました。
8 京都名刹めぐり その8 五山の送り火異聞
7 京都名刹めぐり その7 大河内山荘
6 京都名刹めぐり その6 京都五山の送り火(大文字焼き)体験記
5 京都名刹めぐり その5 上賀茂神社の斎王代
4 京都名刹めぐり その4 祇王寺
3 京都名刹めぐり その3 光悦寺
2 京都名刹めぐり その2 善峯寺
1 京都名刹めぐり その1 西山光明寺
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 4 6 7 0
昨日の訪問者数0 3 6 6 2 本日の現在までの訪問者数0 3 2 4 8