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79 マルディ・グラ (Mardi Gras)
2007年8月4日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。























マルディ・グラ (Mardi Gras)

マルディ・グラって、なんのこと? とあなたが疑問に思われたとすれば、それはごく普通のことでして、こんな言葉を知っておられるのは、特定の分野について、かなりマニアックな知識をお持ちの方だと思います。仮にあなたがご存じなかったとしても、決して焦る必要はありませんので、どうぞご安心ください。

Mardi はフランス語で火曜日のこと。そして Gras は、「脂肪質の」とか、「でぶでぶ太った」とかいう意味で、要するに「フォアグラ = foie gras」のグラのことです。ちなみに foie は肝臓のことですから、「フォアグラ」とは、「脂肪で肥大した肝臓」という意味で、フランス語表現の妙な厳密性を証明しています。

ということは、マルディ・グラとは、太った火曜日という意味になるわけで、これはなんのこっちゃ? というテーマのおしゃべりをちょっといたします。 実はこれ、キリスト教の復活祭とその直前の謝肉祭に関係がある言葉なのです。

それではここに持ち出した「マルディ・グラ」をよりよく理解するためにも、この際ついでですから、「復活祭」の流れをおさらいしてしまいましょうか。私のようなキリスト教の部外者にとっては、なかなか体系的には知る機会がないものですから。

まず復活祭(イースター)のことですが、これはイエス・キリストがゴルゴダの丘で十字架に架けられて処刑された後、復活したことを祝う、キリスト教最大の行事です。そしてその一連の行事の日程は次のように決められます。

まず復活祭の日は、春分の後の最初の満月後の最初の日曜日となります。お判りですか? 春分後の最初の満月、そして満月後の最初の日曜日です。ですからこれは年によってかなり時期がずれてきます。なにせ太陽暦と太陰暦の両方がからんでいるのですから。

さらに時差がありますので、春分と満月の前後関係について各国ごとに計算させると、復活祭の日がへたをすると約1ヶ月もずれてしまうことがありえますので、世界中のキリスト教徒が一緒にお祝いできるよう、春分は3月21日と固定して計算しているということも蛇足ながら付け加えさせていただきます。

ちなみに21世紀の最初の年、2001年の復活祭前後のスケジュールが手元にありましたのでご紹介させていただきますが、次の通りでした。なお、これはカトリックの決め方です。正教(オーソドックス)はこれとは違いますし、プロテスタントは宗派によって異なるようです。(詳しくは知りませんが・・・) いずれにしても、私のような部外者にはとても一度では覚えられないくらい複雑なものです。

1)2月21日〜27日頃  謝肉祭(カーニバル)
復活祭前の40日間を四旬節 (Quaresma) とします。これはイエス・キリストが荒野で断食をした40日間を偲ぶもので、本来はこの間、肉食を断つ、一種の断食期間なのです。そして、この四旬節が始まる前の3〜8日間は、断食を始める直前だから、肉でもなんでもたくさん食べて楽しんでおこう、という <名残惜しさのやけ食い祭> みたいなものです。あの有名なリオのカーニバルも、実は本来はこの宗教的な行事だったのです。今はとてもそうは思えませんけど・・・。

2)2月28日(水)  灰の水曜日
復活祭の日から46日間遡って数えた四旬節開始の日です。四旬節というのに、なぜピッタリ40日間ではないのかと申しますと、その間にある安息日(日曜日)を6日間抜いて数えるからです。このあたりが、なんとも面白い数え方ですね。ですから、日曜日から46日遡るので、毎年水曜日に四旬節はスタートするということになるわけです。

3)4月 8日(日)  受難の主日(枝の主日) 
復活祭1週間前の日曜日。イエス・キリストのエルサレム入城を記念するもので、この時民衆がイエスを歓迎して、葉のついた枝を持ち寄り、道を作ってあげたという話にもとづいています。

4)4月12日(木)  聖木曜日(主の晩餐)
復活祭直前の木曜日。イエス・キリストが十字架に架けられる前の日。つまり、最後の晩餐が催された日です。

5)4月13日(金)  聖金曜日(主の受難)
復活祭直前の金曜日。イエス・キリストが処刑された日。

6)4月14日(土)  復活徹夜祭
復活祭の前日を徹夜で祝う日。聖堂内に復活のロウソクを点火した後、聖堂の扉の外に十字を描き、扉が開いて光にあふれた聖堂内が輝く、という形で復活祭当日の大祭へと入っていくのだそうです。それじゃあ、あの復活祭の朝の大ミサに参加している人々は、前の晩眠らないで来ているってことなのでしょうかと部外者の私は疑問に思ってしまいますが、まあこれはあくまでもタテマエですからね。私なら徹夜じゃ身体がもたないと思います。

7)4月15日(日) 復活祭
この日が復活祭の当日です。朝から壮大なミサが行われます。

8)5月27日(日)  主の昇天の主日
イエス・キリストが復活後40日して、天に昇り、神の右側に座ったことを祝う日です。ただ、主日(日曜日)に合わせますので、実際は復活祭の42日後になります。

9)6月 3日(日)  精霊降臨の主日
復活後50日目に、精霊が炎の舌の形で使徒達に降りたことを祝う日です。

10)6月10日(日)  三位一体の主日
精霊降臨の1週間後。

11)6月17日(日) キリストの聖体
精霊降臨の2週間後。

12)6月22日(金) イエスの御心
キリストの聖体の週の金曜日。

と、まあこれだけあれこれ見てみると、もうお判りですね、マルディ・グラの意味が。つまりそれは、1)の謝肉祭の最終日で、2)の灰の水曜日の前日の火曜日のことですから、その前の数日間たっぷりおいしいものを食べてしまって、もっとも太ってしまった火曜日のことなのでした。

さあ明日から厳しい断食に入るぞ、という決意の日でもあるわけで、なにやら複雑な人間心理が現れる日でもあるわけですね。 まあ実際は、マルディ・グラは、謝肉祭という意味でも用いられたわけで、リオのカーニバルほどではないにしても、やはりお祭り気分を表現する言葉であったはずです。

上の絵は、誰の作品だと思われますか? うっかりすると、ピカソと言いそうになりますが、そう、後期印象派の画家で、20世紀絵画に最も強い影響を与えた、ポール・セザンヌ (Paul Cezanne 1839 - 1906) の作品です。セザンヌが1888年に描いた画で、題名は「マルディ・グラ」。 謝肉祭 → お祭り → 道化師、とこういった連想なのでしょうね。この絵は現在、モスクワのプーシキン美術館の所蔵品となっています。

セザンヌらしく、たいへんに厳密な画面構成ですし、後にピカソが道化師を描いた時に、もっともイメージしたのは、このゼザンヌの1枚であったように思います。ピカソの「アルルカン」はまたいずれ取り上げようと思います。

今回のおしゃべりは、絵のことはほったらかして、その題名についての探検でした。絵はこんな楽しみも提供してくれることもあるのです。

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