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やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり |
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2007年11月8日 |
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 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。 |
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▲ 10月21日、日没3時間前のラモナの空。太陽が煙でかすんで見える。 |
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10月21日、日曜日。眩しいほどの快晴。湿気は0パーセントかと思うほど空気が乾いていて、からだ中がチクチクしてきそう。サンタアナ現象がきょうから始まるという予報だ。マリブに山火事が広がっているとトーマスが言う。CNNはその模様を中継放送している。
が、私にはサンタアナの強風でアボカドがポタポタ落ちることの方が気になる。1995年のクリスマスのときにサンタアナの風が吹いて、たった1日で25万ドルの大損害を被った苦い経験があるから、サンタアナの風が吹くたびにびくびくしてしまう。びくびくしても、対処のしようがない。強風が農園を通過しないのを願うしかない。トーマスは万が一山火事になった場合のことを考えて、クレーンを広い場所に移しておいたと言う。
きょうは友人の家にブランチに呼ばれている。こういうときはいつもグァカモレ(guacamole)をどっさり作って持って行く。アボカドを10個以上つぶして、レモンジュースを振りかけ、つぶしたニンニクと、トマトと玉ネギのみじん切りを混ぜ、塩、胡椒で味付けて出来上がり。簡単だけれど、いつも大人気で、食べきれないほど持って行っても必ず喜ばれる。
隣町のラホヤ(La Jolla)に住む友人宅に、11時近くに到着。ブランチは裏庭で。夏のように日差しが強くて、テーブルの上に大きな日傘があってもホストが帽子を配った。合計10人が大きな丸いテーブルを囲んで、シャンペーンやワインやオレンジジュースを飲み、ベーグルにハムやチーズ、グリーンサラダやフルーツサラダを食べながら、サンタアナで空気がカラカラだけれど、風はまだ吹いて来ませんね、という話になる。そして話題は2003年の大火事のことになり、私たちは2カ所の農園の近くまで来たけれど、運良く免れたことを話す。
デザートのケーキを食べ終えたころ、トーマスの携帯電話が鳴った。席をはずしてそれに答えていた彼が戻って来た。 「ラモナ(Ramona)から8マイル(12km)東で山火事が発生したそうだ。これからすぐラモナへ行かなくちゃ」 「どうして? 火事の備えは十分してあるんじゃなかったの?」と、聞くと、 「いや、クレーンを1台、パームの間に残してあるんだ」 それなら早くそのクレーンを広い場所に移さなくちゃ。仕方がない、と私も立ち上がり、「どうか気をつけて」とか「農園が無事だといいですね」とかいう声に送られて、友人宅を出た。
風の向きのせいで、ラホヤではまだ青空だったのに、デルマー上空にはもう煙がどんどん流れて来てくすんでいる。一旦家に帰って着替え、2匹の犬を連れてラモナに向かった。
ラモナまでは50kmほど。デルマーからまっすぐ東に向かい、しばらくすると上り坂になり、今度は北東に向かう。420mほどの標高を上り詰めると、モクモク煙が立っているのが見える。助手席のトーマスに見せようとしたら、2年前の事故以来スタミナのなくなった彼はぐっすり眠っている。そのまま寝かせておこう。
煙の立っている方向に向かって走り、ラモナの町の中心を突き抜けて東に向かう。町のはずれから1kmほど行った地点に警察の車が止まり、たったいま、まっすぐ東に進む道路を封鎖したばかりのようだ。そのまままっすぐ進めば、火事の発生した地点に行く。空を覆う煙は次第に濃くなって、黒ずんだ灰色で、太陽が沈むまでにはまだ3時間もあるのに、東の空は暗い。道路が封鎖された所で北に向かう道があり、農園はその道を通ってさらに北東へ4kmほど行った所にある。道の反対方向からは馬を乗せるトレーラーを引いた車が次々にやって来る。風向きがどう変わるかでラモナに火事が広がるとはまだわからないけれど、大きい動物は早く避難させなければならないからだ。テレビでよく見るイメージの中に自分がいるような気がして来る。もしかしたら、火事が本当にこっちに広がって来るかもしれない。
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