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葉山日記
38 下戸
2004年2月7日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
「下戸」という言葉をご存知だろうか。「げこ」と読み、酒を飲めないひとのことをいう。逆に、酒のいけるひとのことを「上戸(じょうご)」というが、アルコールをまったく受けつけない僕としては常々これらの言葉の語源が気になっていた。

というのは、なぜ酒が飲めるのが「上」で、飲めないのが「下」なのか。その上下関係がはなはだ不満だからだ。それでなくても日本では、「いや私不調法でして」とか「無作法でして」とかいう、酒を断るときの常套句のようなものがあって、酒が飲めないのは普通ではない、当たり前のことが出来ない欠陥人間のごときニュアンスがあるのが不満なのだ。

アルコールをすすめられ断るとき、英語ではなんというか。[I do not drink]であって[ I cannot drink]とは言わない(と思う)。「私は飲みません」であって「飲めません」ではない。酒を飲むことが、ひと並みいじょうの努力を要したり、つらいことであったり、またはひとの嫌がる面倒な行為であるというなら、それもわかる。そうであれば「いやせっかくのおすすめではありますが、私はほんらい人間として当然できなければいけないことができないつまらぬ人間、ダメ人間なのです。申し訳ない、飲めませんのです」と詫びるのは当然である。

しかし酒を飲むという行為は格別えらいことでもなんでもない。飲めることに特別の才能を必要とするわけではない。しかるになぜ日本社会では、酒飲みが「上」に位置するのか。または酒を飲まない人間がなぜ「下戸」と言われたり、「飲めません」などと自分自身をみずから卑下したような言い方をせねばならないのか。または「酒が飲めないでは人生がつまらんでしょう、ははは」などという言われかたに堪えねばならぬのか。

酒飲みはえてして、酒を飲むというのは男らしい行為だとおもっているフシがある。酒を飲んで人間はじめてカンタン合い照らす仲になれる、と信じ込んでいるフシがある。「えー、こんなにうまい酒が飲めない。マージャン、パチンコもやらない。え、競馬にも興味がない。ゴルフもやらない。すると女だけですか?」−いい加減にせえよ。酒飲みのこういう無神経な言葉に若い頃からどれほど傷つけられてきたことか。

そこで積年の怨念を晴らすべく?資料をあたってみたが、なかなか語源がわからない。たまたま図書館で「下戸の逸話辞典」(鈴木眞哉著、東京堂出版)という面白い本をみつけた。それによると…

―文武天皇の大宝元年(701)に出された大宝律令によると課役の対象となる者が六人以上いる家を「上戸」、四人ないし五人の家を「中戸」、三人以下の家を「下戸」としていて、納税額による階層のようなものだったが、いつのまにか「中戸」は消えて「上戸」と「下戸」が残ったまでである。人力以外にめぼしい動力のなかった時代のことだから、成人男子の多い家のほうが経済力が高かったには違いないが、酒を飲む飲まないということと直接結びつくような話ではない。(中略)別の説によると秦の始皇帝の時代に万里の長城の山の上や宮殿の高層部にある門(上戸)を守る者には寒さしのぎに酒を与えたのに対し、下の方の門(下戸)を守る者には甘い物を与えたり、もともと飲まない者を置いたりした故事から出ているともいうが、こじつけといった感じが強い。―

つまり語源がはっきりしないのにいつの間にか定着してしまったいい加減な言葉なのだ。「下戸の逸話辞典」を読み進むうちに、いわれなき差別、蔑視を受けてきた「下戸」としては非常に面白く愉快な事実が分かってきた。歴史上の有名人のなかに、けっこう酒が飲めなかった人物が多いのである。以下に列挙してみよう。

シーザー、マホメット、チンギス・ハーン、クロムウェル、ロベスピエール、ヒトラー、毛沢東…日本では、織田信長、今川義元、明智光秀、徳川家康、上杉鷹山、西郷隆盛、吉田松陰、武市半平太、近藤勇、山本五十六、夏目漱石、昭和天皇、大宅壮一…

おーっ、あの清水次郎長親分もまったく飲めなかった、とある。著者はこうも書いている。

―酒を飲まない人は真面目だとみられることも多いが、これはいささか買いかぶりというものだろう。飲めるのに身を慎んで飲まない人にはそういうこともいえようが、もともと飲めない人間は真面目とか不真面目とかには関係がない。

―たとえば非酒徒は酒徒に比べて活力に乏しいとか、ボルテージが低いとかいう見かたもその一つだが、別に確たる根拠があるわけではない。強いていえばアルコールの勢いを借りて空元気を出すような人間がいない分だけ、そう見えるのかもしれないという程度のことだろう。むしろ最近の研究によると男らしさに対するコンプレックスから酒を飲みすぎる人が多いことがはっきりしている。アルコール依存症者の約四分の三は「自分は男らしくない。もっと男らしくなりたい」という感情にとらわれているが、この数値は通常人つまり酒を飲まない人間も含めた人たちの三倍を越えているそうである。

ひさびさに溜飲がさがる思いのする一冊であった。
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