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僕の偏見紀行
147 ミャンマー紀行(2)ヤンゴン、祈りとライフル
2013年2月14日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ヤンゴン最大のシュエダゴォン・パヤー。内外からお参りに来る人で溢れている。金色まばゆい仏陀に祈る人たち。
▲ 同じく回廊わきの休憩スペースで憩う人々。
▲ ヤンゴンの貸し電話屋さん。国内ならどこへでも掛けられる。
仏教の聖地ミャンマーではいたるところで仏塔に出会う。ヤンゴンにも大小様々な仏塔が明るい太陽の下で金色に輝いている。ホテル近くにも市のランドマーク的な存在であるスーレー・パヤーがある。スーレーとは「聖髪」、パヤーとは仏塔(英語でパゴダ)のことで、仏舎利など仏陀の遺物が収められた聖地である。

素朴な仏教徒である僕は早速スーレー・パヤーへでかけた。ホテル前の大通りを南へ歩いて5分ほどで到着。ヤンゴンのダウンタウンはこの仏塔を中心に放射状に伸びる通りに沿って広がっている。

聖なる場所だからお参りするにはみんな裸足になる。入り口で脱いだ靴を預け、階段を登る。僕はこの後、ヤンゴン以外の町でも、数え切れないほど沢山の仏塔にお参りした。乾いた空気と灼熱の太陽、そして熱くやけた大理石の床、そんなところを裸足で歩きまわったので、旅を続けるうちに僕の足の裏はガサガサに荒れ、カカトはひび割れてしまった。

仏塔の階段を上がると正面には金色の大きな仏像が鎮座し、多くの人々が祈りを捧げている。よく見ると人々は正座ではなく、膝を崩した横座りで祈っている。いつかニュースで見た、国王に謁見するタイの人々と同じようなポーズだ。

数珠をまさぐり、ひたすらお経を唱える人、ひれ伏し叩頭を繰り返し祈る人。瞑想するかのように静かに座る人。そこには様々な祈りがあった。僕もそのかたわらに正座して手を合わせた。

ミャンマーではご先祖様と一緒に旅するのだ、僕はそう考えていた。ヤンゴンで、そしてその後も多くの仏前で僕は、亡き父母、義父母、そして義兄達へ、心の中で声をかけ祈った。さあ、みんな一緒にお参りしようね。

仏塔を巡る大理石の回廊にも数多くの仏像がたくさん並び、人々が思い思いに花を捧げ、冷水を仏像にかけながら祈っている。

回廊のあちこちにはオープンエアの心地よい休憩スペースが設けられている。ここの日陰は日向の暑さがウソのように涼しい。お参りを済ませた人々はここで一休みする。暑さにまいった僕もここで一休みして水を飲んだ。じっと座っていると乾いた気持ちのいい風が吹いてきて、文字通り極楽極楽である。

あたりは、肩を寄せ合うカップル、寝転んで熟睡する中年男、書類を間にひそひそ語る二人の男、そして赤ちゃんを抱いた女性など、くつろぐ人で一杯だ。祈りを済ませ、それぞれの時間をゆったりと過している。平和で満ち足りた時間が流れる。

ミャンマーの人々にとって仏教は暮らしの一部というより、その中心、暮らしそのものなのだ。こんな彼らが、信仰心の薄い、宗教に関しては無節操ともいえる僕らの暮らしぶりを知ったら驚くことだろう。

市内北部のシュエタゴォン・パゴダはさらに大規模だった。ここは下から歩けば1時間はかかるという屋根つきの参道が延々と続き、両側にはギッシリと仏具や観光土産の店が軒を連ねている。ここに来るまでに歩きつかれた僕は、タクシーで上まで行くというズルをしてしまった。

ここにも沢山の金色に輝く仏像が並び、その前は祈る人で溢れている。幾多の仏像の中には、極彩色に彩られた仏像、熱心な信者が貼り付けた金箔で形が変わった仏像などもある。

どうしてこんな姿だろうか、僕は考えた。文化の異なる人間には、奇異にも見える仏の姿。ヤンゴンで、そしてバガンで、マンダレーでも僕は考えた。

そして僕は勝手に想像した。お前達が望むなら私はどんな姿にもなろう、お前達が安堵するならいかなる姿も私はいとわない、見た目の形など何の意味も無いのだから。様々な姿をしながら、仏陀はこう告げているのではないか、と。

仏塔めぐりを終え、いつもの通りをホテルへ戻る途中、まわりの屋台や露店とは異質の空間に僕は気づいた。見ると周囲と同じく古びたビルの一角が、土嚢と有刺鉄線のバリケードに厳重に囲まれている。

そのビルの入り口には、ライフル銃を構えた制服の男がイスに掛け、固い表情でこちらを見つめている。そして男の頭上のビルの壁には「警察署」の文字が見えている。

これが警察か、僕は物々しい雰囲気の割には相当老朽化した、お世辞にも立派とはいえない警察署を暫く眺めていた。結構沢山の人が出入りしている。

幼児の手を引いた若い母親も出入りしている。出てきた幼児はライフルの警官の周りを走り回ってはしゃいでいる。僕には異様に見える光景も、ここでは日常生活の一部になっているのだろう。

そのうち僕に気づいた警官が手を振って、あっちへ行け、という仕草をした。僕は写真を撮らしてくれないか、と声をかけたが、あっさりノーだった。

去り際にもう一度よく眺めたら、警官の頭上、入り口脇の壁に何か書かれたプレートが見えた。読んでみたら「MAY I HELP YOU?」とある。エッ!僕はわが目を疑った。強面の警官と並んでこんな言葉が掲げてあるとは。民主国家ニッポンの警察署でも見たことが無いぞ。

バリケードの中で、ライフルと「MAY I HELP YOU」を共に掲げる警察、これがこの国の今なのだ。軍部と民主化勢力のせめぎ合い、そして少数民族との軋轢、複雑で困難な問題を抱えるこの国で、警察も精一杯の努力をしているのだろう。しかし僕にはなんとも切ない光景に見えた。

ヤンゴンを歩くと通りのあちこちに貸し電話屋が店を開いている。数台の固定電話を小さな台に並べ、公衆電話がわりに時間貸しをしている。人々はここで気軽に電話を掛け、分単位で料金を払う。一方で携帯電話も普及しつつあり、スマホを軽快に操る若者も見かける。

貸し電話とスマホ、これもまた、ライフルと「MAY I HELP YOU」同様に、この国の「今」だ。このふたつの「今」は僕にとって興味深いものだった。これからこの国は大きく変わっていくだろう。僕が目の当たりにした光景もすぐに見ることが出来なくなるに違いない。

僕は一日の終わりに、ホテルそばの小汚い食堂でヤキメシを食った。ウエイターのニイチャンも無愛想だったが、150円のそのヤキメシは瞠目すべき旨さだった。チャーハンに似ているが、もっと深い味わいの一品だった。アジア特有の手作りソースが違うのだと思う。食堂は地元の人で賑わい活気に溢れていた。(続く)
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67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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35 白神山地「ブナの学校」
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32 ハワイ島滞在記(1)
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30 嗚呼!還暦大同窓会
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
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1 東北紅葉雪見風呂
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