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81 ジョージア・オキーフ (Georgia O’Keeffe)
2007年8月25日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
ジョージア・オキーフ (Georgia O’Keeffe)


上の画像は写真ではありません。「赤いけし (Red Poppy)」と名付けられた油彩の絵です。描かれたのはいつ頃だとお感じになりますか? 現代アートの作品ですと言われれば、そうだろうなあ、と思ってしまいませんか? 実は私はそう思ってしまいました。

この作品が描かれたのは1927年、今から80年前です。作者は、ジョージア・オキーフ(Georgia O’Keeffe  1887 〜 1986)というアメリカの画家です。ちなみに、ジョージア・オキーフは女性です。

ウィスコンシン州の農家に生まれた彼女は、アメリカ大陸の広大な風土の中で、自然の事物や景観を題材にしながら、不思議な幻想をたたえた絵をたくさん描きました。

40歳代から98歳で亡くなるまで、ニューメキシコ州の荒野にアトリエを構え、いわば世俗的なつながりを最低限に押さえながら、荒野の中の題材をもとに、動物の骨、石、山、花などを描き続けました。

このエッセイをお読みくださる女性の皆様を意識したおしゃべりをするつもりではないのですが、ガラにもなく、ここではオキーフを題材にして、女性と芸術についてちょっとお話をさせていただきます。

「なぜ、女性の大芸術家は現れないのか?」

別に挑発しているわけではないのですが、お読みになった女性の皆さんが、怒り出しそうなこんな論文のタイトルがあります。筆者はアメリカの美術史家で女性解放の熱心な運動家でもあった、リンダ・ノックリン。発表されたのは今から36年前の1971年です。

「今日までの美術史の流れの中で、ミケランジェロやレンブラント、セザンヌ、ピカソらに匹敵する女性画家は一人もいなかった。このことを率直に認めよう。」

「女性の大芸術家がいなかったのは、私達が無能だからではない。社会の風潮や教育の不平等こそが問題なのだ。」

「たとえば、女性は19世紀の末まで、裸体モデルを使う写生教室から閉め出されていた。それは医学生が人体解剖の機会を奪われたようなものだ。」

「フランスでは、ローマ賞に選ばれることが画家への登竜門なのに、19世紀末まで、女性はその競争にさえ加われなかった。」

「女にとって芸術はたしなみにすぎない、という偏見が、どれほど女性芸術家の誕生を阻んできたことだろう」

とまあ、こんなふうに説きおこしました。発表当時は、女性解放運動や、男女同権思想の急速な開花もあり、かなりの衝撃を社会に与えたようです。

そんな中で、多くの人々が、「そう言えば、先駆者がいる!」と思い出したのが、オキーフでした。当時すでに80代半ばになり、アメリカ画壇で高い評価を得ていたオキーフに、多くの女性解放運動家が引きつけられていったのです。

彼女が絵を学び始めた20世紀初頭は、芸術家を目指す女性は、社会から奇人扱いされるような、偏見と不平等が強く残っていました。事実、彼女の父親の事業が傾くと、男の兄弟の勉学のために女の子を犠牲にするという当時の社会常識に従って、彼女は絵の勉強を中断させられました。

でもその後も、広告代理店や学校での教員の生活をしながら、絵の独学を続けました。私はこの間の細かい事情は知りませんが、おそらくは女性が画家になるためには絶望的な環境の中で、孤独な闘いを強いられていたのだろうと思います。

オキーフは、まことに頑固な人だったと伝えられています。ひとつの題材を何ヶ月も、時には何年もかけて繰り返し描きました。自分が納得するまで観察し、色や形を練り直し、題材の本質にたどりつこうとする。芸術界の流行や動向などにはまったく関心を示さず、強い意志で自分のやり方、自分の世界を作り続けました。このあたりの頑固さは、私にはすごい魅力です。

そう言えば、オキーフ (O’Keeffe) という名前から分かるように、彼女はアイルランド系なのですね。アイリッシュは、無数のジョークで揶揄されているように、一般に頑固ですからねえ! いや、人種的な偏見ではありませんが、私の知る限りでは、そういうことが言えそうです。そして私は実はその頑固さを愛すべきものとも考えているのです。

ところで、1960年代から盛んになってきた女性解放運動には、オキーフはまったくと言ってよいほど関心を示さなかったと言います。そもそも女性芸術家とか、女性画家と言われることも好きではなかったようです。

本人が書き残したり、言い残したことではありませんが、オキーフの友人の画家(女性)がこんなことを書いていました。

「女性解放運動に加わる女性達は、どうしても集団に依存しがちです。画家の場合も、作品の質や傾向ではなくて、主張で結びつきます。そして集団の外に出て、芸術家として独り立ち出来る人は少ないのです。オキーフはそのことを嫌ったのだと思います。」

「オキーフは、今よりももっとずっと困難だった時代に、独りきりで闘ってきました。そして自分のやりたいことをやり抜くという決断力で偉大な画家になった人です。だから彼女達と一線を画して、自分の世界を守りたかったのでしょう」

女性と男性は完全に平等です、という意識は人一倍強く持っているつもりの私ですが、このあたりのオキーフの感覚は、やはり完全にはわかりません。

でも、上の画像、みずみずしくて、すばらしい感覚だと思いませんか? 昨日描かれた絵です、と言われても私は納得してしまいそうです。オキーフはやはり、時代を飛び越していた人だったのだと思います。

このおしゃべりは、ジョージア・オキーフというたいへん魅力のある画家についての私の興味を述べたもので、これをご覧になる女性の皆さんにゴマをするために書いたものではありません、念のため。

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