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シンプルからの脱皮 |
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2004年7月17日 |
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 | 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]
福岡県生まれ、横浜市に住む。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在は気ままな主婦生活を楽しんでいる。著書に『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、共著)『韓国の近代文学』(柏書房、翻訳)などがある。現在、文化交流を目的とした十長生の会を友人たちと運営、活動している。 |
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▲ 天然石ビーズのネックレス カーネリアン、翡翠の一種のグリーンアベンチュリン |
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▲ トップ部分はビンテージビーズ |
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宝石デザインは今やコンピュータグラフィックスの世界なのだろうが、バンコクのこの小さな学校では、昔ながらのやり方だった。道具を使って自分の手で製図し、水彩絵の具で色を塗る。
6か月の課程が修了するころには、ネックレス、イヤリング、ブレスレット、指輪をワンセットにした卒業制作が待っていた。もちろん自分のデザイン、製図、彩色による作品である。
宝石学校で出会う学生は、インド人、インド系タイ人、中国系タイ人, ベトナム人…彼らの描くデザインは、それは強烈だった。色彩に溢れ、迫力があり、そしてときにグロテスクでさえあった。きっと、インドのサリーやタイの民俗衣装、ドレスに似合うのは個性の強いジュエリーなのだろう。それにしても、それらはまるで違う世界のものだ。
荒けずりだがどこか魅力のある彼らのデザイン画にくらべ、私のそれは、色彩は綺麗だが、いかにも線が細く、きちんとしすぎていて、つまらなくみえた。
「Too simple!」
ドレスメーカーの中国系マダムは、日常の私のイデタチを見てよくそういった。注文した服が仕上がると、打ち合わせ時の5倍ほどもの刺繍が施されていて、度肝を抜かれたものだ。「こんなの着られないっ!」と、私は心の中でののしりながら、無理を承知で刺繍を少なくしてくれるよう頼むのだが、結局はその服を手にスゴスゴ家路につくのだった。
「Simple is the best.」ということばがある。好きなことばだ。が、実をいうと最近私は、ただシンプルなだけのものにはあまり心惹かれなくなった。料理が香菜なしでは間の抜けた味に感じるようになったのとおなじで、私のデザインに対する好みも変わったらしい。
いま思うに、これまで私がシンプルだと思ってきたものは、ただ「なにもしない単純なだけ」のものではなかったか。シンプルにみえるが、よく見ると複雑…この方がずっと面白い。
旅先には美しいものがいっぱいだ。 それらはしばしば、私たちが美しいとしてきたカテゴリーを越えている。朝の陽光を浴びて輝くようデザインされたエメラルド寺院、凝りに凝った中国の刺繍、韓国の螺鈿の箪笥…これらを目にしたときの、ガーンと頭をなぐられたような衝撃。「必要」というだけではない余剰なもの…。
それら手仕事のすごさを真似する力は私にはない。また真似する意味もきっとないだろう。だが、その力にあふれた魅力のエッセンスを少しだけ私の「シンプルな」アクセサリーに反映できたら…と願う。
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