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僕の偏見紀行
149 ミャンマー紀行(4)ニャウンウー村
2013年2月26日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 市場まで利用した2輪馬車。10分ほどの片道で150円。
▲ タナカ販売の露店。オバサンがタナカをすりおろし中。
▲ ニャウンウー村のはずれで会った親子。タナカを塗ってもらった可愛い子供。後方に見えているのはガソリンスタンド。ペットボトルで灯油やガソリンを販売している。時々バイクが立ち寄って給油していた。
昼前になってホテルの部屋が用意できた。案内されたのは緑に囲まれた古びたコテージだった。外観はまあまあだが、冷蔵庫・エアコンが故障し、シャワーは壊れかけている。そのくせベッドカバーに花びらなんぞ散らしている。ホテルとして本質的な部分をいい加減にしておいて、こんな愚にもつかない無意なことでうわべを飾る精神が、僕は大嫌いだ。案内したフロントの女も嫌味なヤツだった。最悪のホテル!ついてない。

しかしものは考えよう、シャワーは頼りないが一応お湯が出るし、空気が乾燥しているので、日中も室内は涼しく特に問題ない。冷蔵庫とエアコンの件はフロントに何度か苦情をいったが、滞在中そのままだった。しかしホテルの緑が豊かで、食堂や茶店が近くて便利ということで我慢することにした。

外出しようと、門までくるとたむろしていた数台の馬車から声がかかった。村の市場まで幾らか尋ねると、300円という。今朝の空港からホテルまでのタクシーさえ、15分乗って500円だったのに、1km足らずの市場まで300円とは、完全に足元を見ている。

コノヤロー、とすぐ頭にくるのは僕の悪いクセだが、引き止める声を無視してホテルを後にする。道路の反対側の広場にも一台の馬車がいた。同じく尋ねると150円という。これなら妥当だろう、とその馬車に乗り込む。この馬車はホテル前で客待ちする権利がないらしい。多分ホテルが上前をはねるために制限しているのだろう。

幌つきの2輪馬車はひずめの音を軽やかに響かせ、街路樹の通りを走った。街路樹の木陰は涼しく、馬車で疾走するとたちまち汗がひき、走り続けるとTシャツでは肌寒くなった。

幌のついた座席には毛布が敷かれ、足を伸ばしてゆったり座れるが、少々狭い。そこでドライバーと並んで御車台に座ることになる。走り出すと道路の凹凸が直接響くので乗り心地がいいとは言いがたい。わき道へ入ると、積もったパウダー状の土に車輪がめり込み、たまに馬車が傾くこともあるので油断できない。

市場はこじんまりとしていたが、日用雑貨から生鮮食品まで所狭しと並び、アジア特有の活気と喧騒に満ちていた。その中を大勢の欧米人観光客がもの珍しげに歩きまわっている。

ぶらついていたら輪切りにした木を並べた露店があった。そこではオバサンがその輪切りを砥石ですっている。樹皮の方を砥石に押し当て、時々小瓶から何か振り掛ける。砥石の下にはトロリとした白い液体がたまっている。

いったい何だろう。尋ねると、タナッカ!とオバサンは答えた。すっているのはタナカという木、ふりかけているのはお茶という。これがそうなのか、この白い液体を顔に塗るのだ。これがミャンマーで広く愛用されているタナカなんだ。日焼け止めの他、美肌効果があり、清涼感もあるという。

馬車で戻る途中、道端の真新しい両替所に寄った。人通りの少ないわき道にあるが、旅行者が次々にやって来る。僕は封筒で大切に保管してきた100ドル札を窓口に出した。それを若い女が念入りにチェックする。端っこを指先ではじいたり、光にすかしてみたりするので、少しドキドキしたが、無事両替することができた。

隣りの窓口では、フランス人カップルが、ポケットから引っ張り出した20ドル札を突っ返され、しょげていた。クレジットカードが使えない国で、両替が出来ないと大変だ。

ホテルが近くなると、馬車のドライバーがしきりに明日の仏塔観光を勧めた。真面目そうな若者なので、彼の馬車をチャーターしてもいいかな、と思ったが、時間を拘束されるのも嫌なので、決めるのは明日にした。

数千箇所ともいわれるバガンの仏塔群は、この地に興ったバガン王国の時代にその大半が建造された。城壁に囲まれた一帯が特に仏塔が多く、考古学保護区に指定され、オールドバガンと呼ばれている。

オールドバガンは仏塔群の他、数件の高級ホテルと土産物屋があるだけだ。以前はゲストハウスやレストランが並び、外国人観光客で賑わっていたそうだが、保護区に指定されたことで住民は強制的に移住させられ、建物も壊されたという。

住民が移住して出来たのが現在のニューバガンで、ゲストハウスやレストランが多い。観光客は、このニューバガンやニャウンウー村、あるいはオールドバガンのホテルを拠点にして仏塔観光に出かける。

オールドバガンは僕のホテルのあるニャウンウー村から約5km、様々な仏塔や寺を巡るには、駆け足で見所を巡っても一日はかかる。馬車のチャーター料は1日1500円が相場とガイドブックにはあるが、ドライバーは1800円といっていた。いずれにせよ、明日改めて交渉だ。

夕暮れ時、歩いてホテルに近いレストラン通りへ出かけた。太陽が沈み、通りは昼間のやけつく暑さがうそのように涼しい。インド、タイ、中国、いろんなレストランがある。暫く歩いていたら路地へ曲がる角に真新しいレストランを発見した。

4人掛けのテーブルが数台並ぶだけの小さなレストラン、僕の好きな簡素で清潔な店だ。入ると白シャツの若者がメニューを持ってきた。僕は彼おすすめのミャンマー風のビーフカレーを頼んだ。

白い皿に美しい盛り付けの料理が出てきた。付け合せの野菜の緑と赤が鮮やかだ。味わうとこれがとても旨い。誰が作っているのか尋ねると、彼の妻だという。挨拶に来た彼女は未だ学生のように若い。この若夫婦がオーナーなのだ。

この村でも外国人観光客の増加にともない、新しいゲストハウスやレストランが次々に開店しているという。いろいろ話がはずむうちに、僕が、居心地の悪いホテルのことをついこぼすと、彼が新しいゲストハウスの情報を教えてくれた。開業したばかりのそこは設備も良く、リーズナブルな価格で評判がいいらしい。

良かったら案内するよ、と彼は気軽に僕をバイクに乗せて走り出した。土ぼこりの積もった道路を彼にしがみついて突っ走るのは、いささかスリリングだった。案内された木立の中のゲストハウスは、快適そうだった。清潔で気に入ったけど、あいにく満室だった。再びバイクでレストランに戻りながら、彼は我がことのように残念がった。

レストランの裏手が彼の実家のようだった。ミャンマー風の家屋が数棟見えている。食後にトイレを借りたが、実家のそれはとても清潔だった。トイレは家屋の奥の独立した建物だった。

扉を開けると、便器もコンクリートの床も、水で洗い清められている。ミャンマーでは用を足した後、お尻や汚したトイレをかたわらの水槽や水がめの水で洗い流すのだ。そのためトイレはいつも清潔に保たれている。

外国人が宿泊するようなホテルは、万国共通の水洗トイレだが、ちょっと違うのは、お尻洗浄用の細いホースが別に設けられていることだ。初めて見た時は何か分からず不思議に思った。これはコツをつかむまでちょっと大変だが、使い慣れると実に具合がいい。勿論水しか出ないが、南国なので冷たい水が心地いい。

わが国のトイレのような自動洗浄ではないので、こいつは自分でホースをお尻の下まで引き込んでレバーを引いて発射する。ところが狙うべき的が、自分の眼で確認できるところにないため、大体の見当で発射するしかない。下手すると下着やズボンを濡らす。何度か的をはずして悲惨な状況に陥り、後始末が大変だった。

ホテルに戻りベッドに倒れこんだ。相変わらずエアコンも冷蔵庫も沈黙している。辛うじてお湯のシャワーを浴びることは出来た。やれやれ、今日は長く面白い一日だった。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
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55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
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52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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