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僕の偏見紀行
223 またもやベトナム(3)アーティチョークはお好き?
2017年7月12日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ダラットの花屋、こんな店がたくさん並んでいる。遠くから見ると、まるで花模様の絨毯のようだ。ある店で赤いバラを11本買ったら100円だった。ホテルの部屋に飾って滞在中楽しむことが出来た。
▲ 道端でアーティチョーク(左側)を売るオバサン。右はブロッコリー?どちらも見たことないほどでっかい。
▲ 市場の道端食堂。安くて旨い、2人で200円くらいだったと思う。
昨夜は冷え込み、毛布一枚ではちょっと寒かった。そういえばここは高原野菜の本場、今朝のホテルの朝食に出たキューリやトマトは味がしっかりとして美味しかった。

ダラットは冷涼な気候を利用した野菜や花の生産が盛んというが、実際そのようだ。そこで街歩きの手始めに市場へ行くことにした。

市場へ続く大通りの両脇には隙間なく野菜や生花、フルーツの露店が並んでいる。花屋の店先は切り花や鉢植で華やかに彩られ、野菜屋には緑豊かな野菜が山積みされている。家内が花の名を次々に僕に教えてくれるが、その方面にうとい僕はすぐ忘れてしまう。名前は忘れたが、鮮やかな色彩溢れる店頭の光景は今も目に浮かぶ。

オバサンが道端で見慣れない野菜を売っている。それは緑色の巨大なゆり根に似て、鱗状の葉っぱが松かさのように重なっている。

これは珍しい!アーティチョーク(朝鮮薊)だ。こんなにでかいのは初めて見た。知ってはいたが今まで実際に食べたことがない。

もう40年以上前になるが、伊丹十三の「ヨーロッパ退屈日記」で読んだ記憶がある。この本は未だ若い頃の彼が、英国映画に出演した時の、ヨーロッパ見聞録ともいうべきエッセイだが、未だ海外に出る機会のなかった僕に新鮮な驚きと感動を与えてくれた。

そのころ、ようやく豊かになり始めた日本から出かけた伊丹青年にとって、見聞きする全てが物珍しく興味深かったに違いない。後年、日本を代表する映画監督となった彼も若く無名だった。

そんな彼が、自費ではるばるヨーロッパへ出かけ、厳しいスクリーンテストを受けて合格し、一流の俳優たちがと共演する大役を得たのだ。

このエッセイがいささか背伸びした、肩に力の入ったものであっても、それは仕方のないことだろう。そこには、スパゲッティの茹で方、紅茶の飲み方からファッション、カクテルの作り方まで、大げさにいえば、彼のヨーロッパにおけるカルチャーショックが描かれていた。
 
今となれば、そこらのアホ息子でも知っているようなことばかりだが、田舎育ちの僕には新鮮だった。僕はたちまちヨーロッパかぶれとなり、周りに蘊蓄をひけらかし、紅茶の淹れにもこだわるようになった。今思えば、若いのに嫌味なヤロウだった。

アーティチョークはカクテルのおつまみとしてこの本に登場する。しかしその後も知識はあっても、これが僕の日常生活に登場することは無かったが。

地元の人はどうやってこの野菜を食べるのだろうか。今までベトナムに来てアーティチョーク料理に出会ったことは無かった。

それでは伊丹青年の、カクテルのおつまみとしてのアーティチョーク調理法を紹介しよう。

 「ヨーロッパ退屈日記 伊丹十三著」ポケット文春より

「アーティチョークを20分ばかり茹でる、次に冷蔵庫に入れて冷やすのである。これで調理は終わり。

小皿にオリーブ油を入れて、これにレモンを少々絞り、ブラックペッパーをたっぷり、塩を少々ふりかけてドレッシングを作る。

食べ方、などといっても格別のことはない。アーティチョークの葉っぱを、外側から順に一枚ずつむしってはドレッシングにつけて食べるのである。

ただし食べるといっても、葉っぱの一番根元のところに少量の柔らかい肉があるだけだから、葉っぱの真ん中あたりを歯でくわえ、葉っぱの先端をつまんでしごくように引き抜くのである。・・・・・・・・・・」

この後も延々と食べ方の説明は続き、ついにはやわらかい芯に到達し、それがまた旨いという話になる。

長々と引用したが名監督伊丹十三が、若き日にこんなことを大真面目に書いていた。

昔のことを思い出しながら、市場を歩いた。さすがに野菜や果物が豊富だ。勿論それ以外の肉や魚、衣類等の生活物価も所狭しと積まれている。さばきたての巨大なブタ肉の塊の隣にはハネをむしられた鶏が並び、そのかたわらの籠には生きた鶏がすし詰めだ。いつものことだが、アジアの市場を歩く度にその大地の豊かさに圧倒される。

さらに歩いていくと、数軒の屋台食堂があった。昼飯時なのでいずれも客でいっぱいだ。中には市場の軒先を借りただけの小さな店もある。客の注文に応じてお皿にご飯とおかずを盛り付けている。見ていると次々にお客がやってくる。

ちょうどお腹も空いてきたので僕らもそこで食べることにして、道端に置かれた小さなイスに座った。お風呂のイスよりもっと小さな安手のプラスチック製だ。低いので地べたに座り込んでご飯を食べるみたいだ。

エビと野菜の炒め物、焼肉を注文した。おかずとご飯それに野菜スープが付いて来た。炊き立てのご飯から長粒種独特のいい香りがする。

簡素な昼飯は見た目よりも美味しかった。ところが食事が終わって低いイスから立ち上がるのが思ったより大変だった。年とともに身体のあちこちが固くなった。

ホテルへの戻る途中、湖のそばにある食堂を発見した。店の前にたくさんのバイクが並んでおり、当初は何の店か分からなかった。ツーリング姿の若者たちのグループが賑やかに食事をするのを見て食堂だと分かった。広い間口に奥行きも深い。地元の人も多い様だ。メニューも豊富そうだし、ここはよさそうだ。(続く)
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