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87 白い送り火
2008年1月1日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
























































白い送り火


あけましておめでとうございます。

たいへんな多忙さが続き、11月と12月の2ヶ月間は、とうとう書き込むことができずにおりました。申し訳なく思っております。

でも2年前の2006年1月からこの場をご提供いただき、その時々の好き勝手なテーマについて書かせていただいていることにつきましては、あらためまして管理人の中山さんをはじめ、会の皆さんに感謝いたします。

思い返してみますと、2006年1月1日には、「京都名刹めぐり その1 西山光明寺」。 そして、2007年1月1日には、「京都花街概論」なる拙文を掲載させていただきました。いずれも京都をテーマにしたものでしたので、今年も京都から始めようかと思いつきました。今回は、ちょうど季節的には現在と反対の夏にちなんだお話です。

毎年8月16日に猛暑の京都市内で行われる、「京都五山の送り火」(大文字焼き)」という仏教行事は、今や夏の京都観光業界にとっても、非常に重要な行事になっております。

ともかく8月は京都市内の主たるホテルはこの日以外なら、曜日を問わず、部屋の予約は簡単にできるのですが(暑いですからねえ、夏の京都は!)、この晩だけはダメです。1年前に予約してもなかなか取れないというのが実態です。私達は京都にはご縁が深く、いわば常宿があるのですが、それでもこの晩の予約だけは困難を極めます。

上の写真は上から、

東山如意ヶ嶽の「大」

松ヶ崎東山の「法」

です。でも下段の写真は、見るからに異質ですが、これは、1943年(昭和18年)8月16日、朝の「白い大文字」です。たいへんめずらしい記録写真です。

実はこの「五山の送り火」は、太平洋戦争中、1943年(昭和18)年から3年間だけ、京都の夏の夜空から消えたのです。戦況が悪化してきた1943年、召集されて男手が足りなくなり、空襲に備えた「灯火管制」も厳しくなり、そして何よりも貴重な資源である薪を、そんな目的には使えなくなったため、送り火は廃止されました。室町時代中期(14世紀末から15世紀初め)くらいに始まったとされている長い歴史を持った仏教行事を、とうとう続けることができなくなったわけです。(ちなみに、京都が大揺れに揺れた幕末期から明治にかけての時期にも、これは休むことなく続けられていたとのことです)

結局、1943年(昭和18年)から1945年(昭和20年)の敗戦までの3年間は、この送り火は行われず、再開されたのは、1946年(昭和21年)8月16日でした。

送り火に代わって、1943年、44年の2年間、8月16日の朝、如意ヶ嶽に現れたのが「白い送り火」でした。1945年は、敗戦放送の翌日でしたから、さすがにそれもできなかったのです。

つまり昭和18年、19年の2年間だけは、地元の国民学校の児童と一般市民の合計約800人が、白いシャツを着て早朝の火床(ひどこ)まで登り、午前7時から、人文字で「大」を描き、ラジオ体操を奉納したのだそうです。当時の新聞の見出しは、「英霊を送る・・・」だったそうで、すべてが戦争へと収斂されていたのです。

「白い送り火」は、もう2度と再現させてはならないと思います。2年間だけ見られた貴重な記録を見つけたものですから、そうした祈りを込めてご紹介させていただきました。私も1度、東山如意ヶ嶽の火床には登ったことがあるのですが、けっこう険しい山道で、私の足で40分かかりました。あの時代、空きっ腹の800人には、きつい山登りだったと思います。送り火はやはり、夜やるべきものですね。

そう言えば、京都市内・島原の「角屋(すみや)」さんという、現在は国の重要文化財に指定されている「揚屋(あげや)」という、歴史的にも価値のある饗宴の館を見に行ったことがあるのですが、そこはJR山陰線からすぐそばにあるという理由で、戦争末期に空襲に備えてあやうく取り壊される寸前までいったことがあったのだそうです。

その時は、明治の元勲の遺品もある建物だからということで当局のお目こぼしをもらい、現在でも私達が見ることができるのですが、戦争や国家総動員体制というのは、そうした狂気をも正当化してしまうものです。戦争とその裏に必ず存在する軍産複合体には、どんなに厳しい目を向けても厳しすぎることはないというのが私の信念です。白い送り火は、そのことを思い出させてくれました。こんな経緯を知った上で、「白い送り火」の写真をもう一度じっくりとご覧いただけたら幸いです。

本年もどうぞよろしくおつき合いください。


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