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コンテンツ(最終回) |
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2004年5月5日 |
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 | 中山 俊明 [なかやま としあき]
1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。 |
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あのビル・ゲイツが巨額の私財を投じ、写真や絵画などをせっせとデジタル化、データベース化しているのはなぜか。彼も「コンテンツ」の重要性に気がついたからだ。OSやネットワークを独占しても、やがてはライバルが現われ、競争が始まり、お互いがお互いを食い合う血みどろの戦いが始まる。最後に勝負を決するのは、やはり優良なコンテンツを握るかどうかだ―彼ははやくからそのことに気がついていたのだろう。
ではコンテンツを握ってさえいれば安泰か、といえばそうではない。そのコンテンツをすばやく、確実に市場に届ける流通のネットワーク、そしてしっかりと代金を回収できる仕組み、それらのすべてを完全に手中にした企業が21世紀初頭の成功者となる。
僕の会社「株式会社インフォネット」は「インターネット時代を見越して命名したのですか」とよく聞かれる。実はこの会社が発足した1991年はまだパソコン通信時代で、インターネットの存在を僕はまったく知らなかった。一般の人々が耳にするようになったのは94年くらいからだろう。僕の会社がインタ―ネットを全面的に導入したのは95年のことだ。このことからも分かるとおり、インターネットというツールはまだ生まれたばかりの赤ちゃんなのである。
「インフォネット」はまず研究会としてスタートした。「インフォメーション=情報」と「ネットワーク」がこれからの時代のキーワードになっていくだろう、という予測はまちがっていなかった。勤めていた会社を辞め、自分の会社を作ったとき、自身のビジネスもこの延長上にあると考え、研究会名をそのまま「借用」させてもらった。そしてここ10年、さまざまなビジネスを仕掛けてきた。だがどれもまだ成功していない。成功どころか、はっきり言ってしまえば惨憺たるありさまである。
その「失敗」の原因はなにか。落ち着いて考えてみれば、やや早すぎたのである。たとえばいまこの時期に、人工衛星や月・火星ツアー会社をつくるのと同じことをやってしまったのではないか、と思うことがある。いまから10年後には、宇宙旅行会社は現実のものとなっているだろう。しかしだからと言って、いま会社をつくってもうまくはいかない。数年後にはまちがいなく倒産である。
ビジネスというのは、時代のニーズに誰よりも早く気づくことは必須条件であるにしても、それは世間よりもわずか、せいぜい一歩か二歩先行する、ということが大事だ。僕の場合もかなり早すぎた。
そのことにあらためて気がつかせてくれたのはご近所の主婦である。ADSLが開通したというので彼女のアドレスを聞いた。「××アットマーク」「はいはい」「××ドット・・、エヌイー、ドット、ジェイピ―」 ―なんと、この方おん歳70歳である。僕は深く感動した。「@」やら「.」をお年寄りがすらすらと正確に発音できる時代になっている。
いつのまにか、である。ということはインタ―ネットが庶民のものになった、ということであり、ブロードバンドがすでにロケットではなく、ふつうの庶民の乗り物になった、ということを意味する。つまり、インターネットが電話やファックスと同じ、ごく一般的な社会インフラの位置に達した、ということでもあろう。
となると、僕がこの10年進めてきた仕事にやっとチャンスがめぐってきたともいえるのではないか、と思い始めた。時代が追いついたのだ。
一時は廃業も考えた。写真をデジタル化し、それをインタ―ネットで運ぶなんて、しょせん実現不能の夢だったのではないか。確かに、10年前、僕がその構想を打ち出したとき、名だたる企業からたちまちのうちに2億円もの大金が集まった。その大金はほとんど成果を得ぬまま消えた。僕は大企業と一緒に作ったその合弁企業を3年前に去り、そして僕がいなくなった企業もそれから2年後に解散した。2億円がツユと消えてしまったのである。
あの構想はしょせん僕の「おおぼら」に過ぎなかったのか。「そのうちインタ―ネット時代が来ます」―大騒ぎし、人々をたきつけた僕は単なる狼少年に過ぎなかったのではないか。この3年悩み続けた。
だが、構想自体はけしてまちがってはいなかったことを、時代が証明しつつある。運ぶべきコンテンツ(写真)市場の知識はたっぷりため込んだ。そのコンテンツを求める市場の知識も得た。それをつなぐ道路(インタ―ネット)のこともたっぷり学んだ。となると、あとはこの三要素をつなぎあわせればよいだけではないか。
「狼少年」で終わるか、それとも、ここ10年来の夢がビジネスとして現実化できるかどうか。これからの1年が、僕にとってはとても大事になりそうだ。(終)
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