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老舗の店頭から
90 私と絵画
2008年1月27日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。



















私と絵画


上の絵は、「三重奏を終えて」 という100号の油絵です。作者は、ポール・アムビーユ (Paul Ambille) という、1930年生まれのフランス人の画家です。そして、架けてある場所は、私の仕事場でありますエルサイトウの店内です。

この絵を店内に設置したのは、1983年11月(建物の竣工時)のことですから、早いものでもう4半世紀になりました。私も歳を取ったはずだと、あらためて思います。

この画家は、1955年、25才の時にフランスの若手美術家達の登竜門として有名な <ローマ大賞> で第1位を獲得しました。この賞は副賞としてイタリアに留学ができるという古い歴史を持つ美術コンクールです。

その後彼は、比較的順調なコースをたどり、現在はフランス画壇の長老として、芸術家協会名誉会長、ボザール国際協会副会長、国際芸術品購入委員会委員等々の役職をこなしているという、いわば世慣れたところもあるアーティストです。没後にしか高い評価を受けられなかった多くの画家達に比べると、現世利益にあずかれた幸せな部類に入る人かもしれません。

当社では、今から4年前のこの時期に、約3ヶ月ほどかけて社屋内にエレベーターを設置し、店舗や3Fサロンの内装を大幅リニューアルする工事をいたしました。

工事期間中は、ホコリや騒音、それにスペースを塞がれてしまう不便さ等々により、予想はしておりましたが、かなり疲れました。でも現在、そうして生まれ変わった各所が生き生きと活用されている様子を見ながら、やはりあの工事はやってよかったと実感しております。

実はその工事の過程で、ひとつ痛感したことがあります。それが、このおしゃべりのタイトルにした「私と絵画」、つまり私にとっての絵画の存在意義です。

もちろんたいした絵を持っているわけではないのですが、それでも、店舗内やサロンを始め、社屋内には、かなりの数の絵を架けています。しかし工事中は、作業の都合上、その多くをやむなくしまい込まなければなりませんでした。

工事期間中に私が感じた疲労感は、もちろんホコリや騒音等、物理的な原因によるものが多いのは事実ですが、もうひとつ大きな点があったことに気がつきました。それは、その間は壁に絵が架けられなかったということでした。

1枚の絵は、その周辺何十立方メートルかの空間の雰囲気を、大きく変えてしまいます。もちろんそこに居る人間の気分にも大きく影響します。これは絵があった時と、なくなった時を実際に体験すると、私のような素人でも、はっきり判りました。 そうか、あの精神的な疲労感の一因は、たいしたものでなくても絵がなかったことだったのだとあらためて実感したのです。

知らぬ間に、当社のあちこちや自宅にも、ずいぶんとたくさんの絵画がたまってしまいました。もちろん、高価なものなど買えるはずはありませんので、いずれもたいしたものではないのですが、安いものでも安いなりに一点一点吟味して少しずつ買い集めてきました。絵を買う、これは、やった人のみが味わうことのできる、よい意味で途方もなく贅沢で、気分のよい買物です。ちょっと我田引水気味で恐縮ですが、それはちょうど、よい宝石を買うことにも共通するところがあります。

私にとって、絵は空腹や寒さから身体を守ってくれるものではありませんが、心の栄養なのです。それがなくても生命は維持できますが、あれば心を潤わせ、心地よくすることに大きな貢献をしてくれます。まるでジュエリーと同じです。もし、それがなかったとしたら、なんと味気ない人生になってしまうことでしょうか。

そう言えば、古代人の洞窟絵画などがあるくらいですから、絵画は古くから人間の歴史に関わってきたのですね。その点でも、絵画はジュエリーと共通するように思います。

それにしても人間にとって大切なものの多くは、例えば絵画のように、物理的生命維持目的以外のものが多いことにあらためて気づきました。あなたは絵のことをどんなふうにお考えですか?



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