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91 ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル
2008年2月3日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル


ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル (Jean-Augute Dominique Ingres  1780-1867) という画家をご存じですか? 上段の画像は、彼の代表作のひとつ、泉 (la source) です。この絵は、たいていの方が、きっとどこかでご覧になったことがあると存じます。

ドミニク・アングルは、フランス新古典主義の代表的画家です。

なんとも味気ない表現で、ごめんなさい。自分でこの紹介文を書き始めて気がついたのですが、美術関係書の多くがつまらないのは、こうした形式的な表現と、それを生み出す発想のせいなのではないでしょうか? ついでですが、由緒ある寺社仏閣を訪れた時に拝観料を払うとくれる、あのパンフレット。 あれも本当に読みにくく、そしてまた、読んだ後に頭に残らないものが多いですね。読ませる文章を書く、ということをあまり考えていないせいなのかもしれません。

ところで、アングルの絵の先生は、古典主義の巨匠ダヴィッドです。あの 「ナポレオンの戴冠式」 という大作を描いた画家です。下段の絵がそれです。写実性、抑えた色彩感、それに理想化された形状、強調された荘厳性等々、古典主義の最たる作品だと思います。

でもダヴィッドの弟子のアングルが古典主義ではなくて、新古典主義と言われる範疇に入れられているのは、それなりの理由があります。1805年に留学のためローマに渡ったアングルは、ルネッサンスが放つ輝きにすっかり魅せられて、古典主義特有の写実性や抑圧された色彩表現を捨てたのです。

1824年にイタリアから帰国してからは、87歳で没するまでフランス画壇の新古典主義の重鎮として活躍し、多くの要職につきました。伝統技法を守る保守派でありながら彼の作品には、ルネッサンス後期に現れたようなマニエリスム的要素が多く見られます。 たとえば、腕が長すぎるとか、骨格がへんだなどという、なによりも写実性を重視する古典主義から見ると明らかに異質な点があります。

アングルの絵画が持つこうした要素は、若い頃は酷評されたのですが、その動かしがたい形式美のゆえに、彼独特の画風として次第に賞賛されるまでになりました。もともとデッサンの名手であった彼が、美を追求するあまりに到達した手法です。少々脊椎が長かろうが、体のよじれ方がおかしかろうが、それほど違和感を感じません。

ちなみに、上段の「泉」も、一見なんでもないように思えますが、よーく見ると、なんかおかしく感じませんか? 身体の傾きと、手の位置と形。一度、鏡の前でこの形を真似てみるとお判りいただけると思います。べつに、裸体になる必要はありませんので、念のため。

彼は極めてラテン人種的な人生を送り、終生女性に対してたいへん強い関心を持ち続けておりました。61歳のとき20歳のデルフィーヌと結婚したというのですから、その気力というか、パワーはすごいですね。

死因もまた彼らしくて、冬の寒い日に、美しいモデルに元気なところを見せようとして、帽子をかぶらずに外出したため風邪をひき、それが肺炎へと進行して命を落としてしまったということです。うーん、ラテン系の男性らしい!

1798 国立美術学校に入学。ダヴィットの画室に入る。

1801 ローマ賞受賞

1805 ローマ留学。以降、18年間、イタリア各地を転々としながら滞在する

1806 国民議会が「皇帝の座に就くナポレオン1世」を注文する

1814 代表作「横たわるオダリスク」制作

1824 フランス政府より招聘されて帰国

1825 レジオン・ドヌール勲章を受ける。この頃、画室を開校すると100人の生徒が集まったという

1829 国立美術学校教授に

1834 同校の学長に

1835 ローマのフランス・アカデミー総裁に就任

1862 82歳で元老院議員に選出される

1867 パリにて死去。享年87歳

新古典主義絵画においては、歴史画や神話画は「高貴な」ジャンルでした。肖像画や風景画のように目に見える世界をそのまま写し出したジャンルは、「低俗な」ものとみなされていました。

しかし、フランス革命以後、社会的、政治的新興勢力として登場した市民階級の趣味を反映して、風景画・肖像画への関心は高まっていきました。そしてそうした社会構造の変化を背景として、

古典主義 → 新古典主義 → ロマン主義 → 写実主義 → 印象派 へと発展していったのです。

私見ですが、絵画芸術と音楽芸術を比較すると、いずれも社会の影響を受けながら変遷して来たわけですが、絵画の方が音楽よりも早い気がします。絵画は時代の潮流、変化を音楽よりも先に取り込んで来たように思うのです。

このことは、いずれまた例証を挙げながら、おしゃべりしたいと思います。ところで上の2枚の絵は、もちろんそれなりの技巧を極めているのですが、世の中にこういう絵画しか存在しなかったとしたら、やっぱりつまらなかったことでしょうね。これが僕が感じている古典主義や新古典主義絵画に対する印象です。お好きな方には恐縮ですが、個人的にはどうしてもあまり好きではないのです。以上、あまり好きではない画家のご紹介でした。無礼の段はお許しください。



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