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125 やって来た山火事(最終回)これから
2007年12月27日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 焼けた農園の上に出た虹。
「元気にやっているって聞いても、本当は落ち込んでいるんじゃないかと心配していたんだ。でも、なんだか張り切っている感じだね。むしろ火事の前よりずっと意気揚々としているようじゃないか」
年末の食事会の席で、チャルマーズ・ジョンソン氏がトーマスの顔をしげしげと見てそう言った。私も思わず彼の顔を見る。そう言われればたしかにそうだ。最近のトーマスは生き生きしている。
「チャレンジが好きなんですよ」
そう答えたトーマスはニヤッと笑った。

たしかに、火事の後はチャレンジの連続だ。アボカドの収穫損失はある程度保険がカバーすることがわかったけれど、パームはまるでだめ。自然被災者を援助するFEMA (Federal Emergency Management Agency) はニューオーリーンズでの大失態の汚名挽回のチャンスとばかりに、鳴り物入りでサンディエゴにやって来た。が、焼け出された労働者には多額な被害援助金が出て、彼はホクホク顔になっても、経営者には「農業は扱わないから中小企業対策局へ行きなさい」と言って全く受け付けてくれない。そこで中小企業対策局へ行くと、「農業は扱いません」とけんもほろろ。大災害があると政府が低利子のローンを設けることが多いのだが、ブッシュ政権が政府予算の大赤字を出し続けるので、それもあてにならないということがわかった。火事が広がっているときには州知事もサンディエゴにやって来て、被害者には全面的に援助するなんて威勢のいいことを言ったけれど、予算の裏打ちがなくて空回り。農業経営者は国や州の援助機関から完全に取り残されてしまったのだ。

パームの損失は数百万ドルに及ぶけれど、まぁ仕方がないや、と私はあっさり諦めてしまった。私は経営者ではないからそんなことを言えるのだ。焼けた農園をどうするか、ということを経営者は考えなくてはいけない。とにかく焼けた農園をすっかり元通りとまではいわなくても、農園らしく回復させないと、土地を売ろうにも買い手がつかない。トーマスはすぐ復旧工事を始めた。まず最初に、灌漑設備を復旧させなければならない。それには労働者が必要だし、パイプやポンプは全部取り替えなければならないから、たいへんな出費が続く。預金がたちまちのうちに吹き飛んで行く。トーマスは退職積立金も引き出し、持っていた株も全部売った。年が明けたら、使っていない土地を売りに出そうとトーマスは考えている。

これがダメならあれ、というときの「あれ」をプランBと呼ぶのだが、トーマスはいつもプランBはもちろんのこと、プランCやDまで考えている。だから最初にあてにしていたものがダメになっても落ち込まない。しかも、私たちにはアボカドの収穫保険があり、現金化する資産もあり、自宅が燃えなかっただけ幸運だと言える。アボカド園経営者には保険のない人が多く、他に資産もなく、家も燃えてしまった人もいる。そういうことを話したわけでもないのに、ジョンソン夫妻がポンと1万ドルを無利子で貸してくれた。また、日本の友人が、定期預金がアメリカにあるから自由に使って、と少なからぬ額の預金通帳を2通も送ってくれた。

10月の山火事によるサンディエゴ郡の農業に対する被害額は4500万ドル(45億円以上)を越えるという。その大半はアボカドだ。サンディエゴ郡はアメリカのアボカドの都と言われているくらい、サンディエゴ郡産のアボカドは重要な農業製品だ。その生産者の窮地を放っておくわけにはいかないだろう。サンディエゴ郡農業管理局の主催する集まりにトーマスも何度も出かけて行ったが、経営者から事情聴取した農業管理局は政府に必死に働きかけたようだ。おかげで、灌漑設備復旧工事費の75%を政府が負担するというところまでこぎ着けた。経費見積もりのためにとトーマスは私に写真の準備をたくさん注文して私もてんてこ舞いさせられたが、張り切っている彼を見ると、私も一生懸命になる。また、燃えた建造物は地下水汚染になったりする可能性もあるので、郡の費用で先週撤去された。

「いまの窮地を通り抜ければ、あとはらくだよ」とトーマスは言う。その「いまの窮地」を通り抜けられるかどうかが問題なのだが、そのチャレンジにトーマスは生き生きと立ち向かっている。山火事がやっと鎮火した10月27日に、焼けた農園の上に大きな虹が出た。それは希望があることを告知してくれたのかもしれない。そして、大勢の友人たちからの支えも、あの虹に表れているような気がする。ジョンソン夫妻を始めとして、何度も夕食を作ってくれたヨウコさんとケンさんや、ヘアーカットに行ったらお見舞いですからと言って頑として料金を受け取ろうとしなかったトモさんや、燃えたパームを数えるのを5日間も手伝ってくれたマリクレアや、励ましの言葉を電話やメールで送ってくれた方々に、この場を借りて心からお礼申し上げます。

「でも、これからはもうちょっと平穏であってほしいわ」
私がそう言うと、さすがのトーマスもそれには同感のようだ。
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