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僕の偏見紀行
158 またまた来ちゃったハワイ!(1)ワイキキ、人工のシャングリラ
2013年9月22日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 夜が明けたばかりのワイキキビーチ。ホテル15階のベランダから。
▲ 日中のワイキキビーチ。上の写真と同じベランダから。海やビーチで遊ぶたくさんの人々。
▲ 同じくワイキキビーチ。少し異なる方角を撮る。リーフの外ではサーフィン、穏やかな内側では水遊びやボードを使ったSUPなどを楽しむ人々。
夜明け前に目覚めてベランダへ出た。部屋はビーチ沿いの高層ホテルの中ほど15階、眼下に広がるワイキキビーチも空も未だ薄暗い闇の底に沈んでいる。その中を動いているのは砂地を整備するバギーとジョギングや散歩を楽しむ人々。

やがて東の空が明るみを増し、雲の縁が金色に輝き始めた。シルエットだったダイヤモンドヘッドにも光が差し、特徴のある頂が濃い茶色に変わった。灰色の海面にはいつのまにか鮮やかなブルーが広がっている。聞こえるのは潮騒に鳥の鳴き声、そして心地よい海風が吹いてくる。いつ来てもいいなあ、ハワイ。

「トリスを飲んで
      HAWAIIへ行こう!」(サントリー、山口瞳)

このコピーが日本人の心を揺さぶった頃、ハワイは未だ憧れの地だった。やがて猫も杓子もハワイを目指すようになり、そんな風潮にへそ曲がりの僕はそっぽを向いていた、つもりだった。それが会社の行事でハワイへ行く機会があり、たった一度で好きになった。それ以来、仕事がらみや家族旅行で何度も訪れることになった。結局僕のへそ曲がり精神もこの程度なんだな。

しかしハワイはいいのだ。かの村上春樹も沢木耕太郎もいっている。沢木耕太郎は群ようことの対談で、いささかの抵抗があったものの実際にハワイに行ってみたらとても良かった、といっている。

彼のハワイにおける理想的な一日。アパートに滞在し、自転車でハワイ大学の学食へ行き、食後は図書館で昼寝。帰りにはスーパーで肉を買い、アパートで下ごしらえを済ませたら目の前のビーチでひと泳ぎ。その後はアパートに戻りビールを飲みながらステーキを焼く。

村上春樹はこうだ。

「ホノルルのあたりってなにせ気候はいいし、一番リラックスできるんだよね。ボケーとして何も考えない。ほかの島へ行くと、何をしようかとかいちおう考えるけど、ワイキキは何ひとつ考えなくていい、ただそのままアホになればいい、という感じ。そう、そのままアホになれる装置。ホノルルに行くと自分の生活なんて関係ないわけ。そういう枠ははずして、ずるっとアメーバ化しちゃう。」
(地球のはぐれ方、ハワイ編。村上春樹・他著)

そうかアホになればいいんだ、それほどいいんだな。彼もあんまり当たり前のことをいうのがちょっと照れくさいんだろう。それでアホなんていうんだな。しかしよく分かるぞ、その気持ち、へそ曲がりの僕には。

この海外旅行ビギナーズにやさしいワイキキだが、かつてここは湿地帯だった。ワイキキとはハワイ語で「水が湧くところ」を意味する。100年前はここで日系人による稲作が行なわれていたのだ。そこへ排水用の運河を掘り、埋め立ててできたのがワイキキだ。ビーチの砂は今でも定期的に他の島から運んでいる。

人工的な埋立地ではあるが、輝く太陽と爽やかな空気、そして青い海は造物主からの贈り物に違いない。これが無ければいかに人間が埋め立てに汗を流し、砂を運んできても現在のワイキキは完成しなかった。

それにしても思う、造物主はなんと不公平なのか。ハワイに来てその空気に触れる度に僕はそう思う。そのことは、冬は寒く夏は蒸し暑いという日本の気候と比べればよく分かる。9月に来たのは今年が初めてだが、いつものように心地いい風が吹いている。

会社勤めの頃、取引先の旅行好きの社長に聞いたことがある。ハワイは海外旅行初心者向けでもあるし、あちこち海外を歩き回ったベテラン向けでもある。もう海外旅行に飽きてしまった人がのんびりするのにもいいところだ。

僕は何度かハワイを訪れた後、6年前の義兄夫婦との旅を最後に当分の間行くのはやめようと思っていた。それよりもっと面白そうなところが沢山ある。ところがまたまたやって来て、ハワイはいつ来てもいいところだ、などと臆面もなくほざくのはなぜか。

今年の春、家内が長年可愛がった雌猫のモコが死んだ。享年20才、天寿を全うし、最期まで身の始末を自分でつけた大往生だった。モコは家の中で飼っていたが散歩が好きで、家内はリードをつけたモコと朝晩家の周りを歩き回った。散歩といってもイヌのように走り回ることは無く、時には道の真ん中に寝転んで動かないこともあった。家内はそんなモコに辛抱強く付き合った。

外好きのモコも晩年は足腰が弱り食も細った。若い頃軽々と飛び乗った出窓へ上がることもなくなり、夜中にツメ音を響かせながら家の中を歩き回るようになった。そして夜更けになると時々咆哮するようになった。

そんなある夜、散歩に出るといつもと様子が異なり、家から遠く離れた方向に歩き続けたことがあった。不審に思いながらも家内がついて行くときりが無かったので抱えて連れ戻したという。自らの死期を悟ったモコが静かに最期を迎える場所を探したのだろうか。


最晩年は一日中寝て過し、まともな食事もとらず、わずかに家内の手から細かくちぎった刺身や茹で肉をちょっぴり食べるだけだった。

それでも水を飲みに起き上がり、トイレへ自分で歩いて行った。やがてそれも難しくなり、時おり途中で力尽きて床に倒れこむようになった。ある時はトイレを済ませた後、起き上がれず砂の上に横たわっていたこともあった。

しかしどんなに困難になっても、モコは最期までよろめく足を踏みしめ、自分の身じまいは自力で済ませようと頑張った。僕はその姿に、やがて行くわが道、を見る思いがした。果たして僕はこんなに毅然とした最期を迎えることが出来るだろうか。

そしてある夜のこと、僕が自室の寝床でまどろみ始めた頃、階下から家内が大声で僕を呼んだ。すぐに降りていくと、息が荒くなったモコをさすりながら家内がポツリといった。

「もう駄目みたい」

僕もならんでモコをなでてやった。モコは若いころが嘘のようにやせこけ、僕の指に固い骨がコツコツとあたるのが悲しかった。こうしてモコは逝った。二人で看取ることができたのがせめてもの救いだ。

ペットとはいえ、同じ屋根の下で長年暮らした生命の喪失感は小さくなかった。暫くはモコの不在が信じ難く、あれ、モコはどこに行ったのか、と一瞬思うことがあった。モコへの関心が薄かった僕でさえこんなだから、モコ・命だった家内はどんなに辛い思いをしたことか。しかし僕には家内にかける言葉がなかった。そんな時家内がいった。

「ハワイに行ってみようか」

実はその少し前に次男からハワイ旅行に誘われていた。彼の友人がハワイで挙式することになり、それに参加するついでに家族でハワイ旅行をするというのだ。彼は4人家族で、妻と1歳の男の子、5歳の女の子がいる。つまり孫二人とのハワイ旅行になるのだ。可愛い孫と過すハワイ、こんな機会はそう多くはないだろう。

しかしここ数年我が家はモコのことで二人揃って家を空けることが難しく、出かける時は交代でという状態が続いていた。だから次男から誘われた時もはなから出かける気は無かった。しかし状況は変わった。しかも家内から行こうと言い出したのだ。一人であちこち出かけていた僕はその後ろめたさもあって、すぐに賛成した。こうして次男一家と我々二人、3世代6人のハワイ旅が始まった。 (続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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