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92 真珠の 「耳飾り」 と 「首飾り」
2008年3月25日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。












































真珠の 「耳飾り」 と 「首飾り」


たいへんご無沙汰をしてしまいました。管理人さんのアメリカ報告は、まことに面白く、さすがに長年、報道の世界で生きて来られた方だと、あらためて感心しておりました。ありがとうございました。

ところで私の方は、別に体調が悪かったわけではないのですが、ともかくやたらに多忙でした。それも身体の移動を伴うことが多く、その影響でデスクに座っている時間が少なくなってしまったのです。やっとデスクに座ると、処理しなければならない事務的な仕事が山積みになっており、その対応に追われるという状態でした。申し訳なく思っております。

久しぶりに何かを書こうと思い立った際に、頭に浮かんだのは、画家フェルメールのことでした。実は、私はこのエッセイの64番に「フェルメールの魅力」と題した記事を、偶然ですが、ちょうど1年前の2007年3月25日に既に書いているのですが、今回はその続きのようなものです。書いた私も内容をほぼ忘れておりますので、よろしければ参照していただけると幸いです。64番です。

この頁の下段にバックナンバー一覧がありますので、64番をクリックしていただけるとご覧いただけます。よろしければどうぞ。

その記事の中では、主に「真珠の耳飾りの少女」という絵についておしゃべりしたのですが、この寡作の画家には、もう1枚「真珠の首飾りの女」という作品があります。上段が「耳飾り」で、下段が「首飾り」です。絵の内容はまったく異なりますが、題名は少しまぎらわしいですね。

この記事では、下段の「真珠の首飾りの女」について、ちょっとおしゃべりをしてみます。制作年代はこの「首飾り」の方が「耳飾り」よりも1〜2年早いようですが、まあほぼ同時期と言ってよいでしょう。フェルメールは亡くなった時に、自分の作品を4枚しか所有していなかったそうですが、その中の1枚がこの作品です。しかもこれは、自分達の寝室にかけてあった絵なのだそうです。

首飾りの方のモデルは、夫人のカタリナーナだというのが定説です。まあ、フェルメールの奥さんとすれば自分以外の女性を描いた絵(しかも、ジュエリーを喜んでいる絵)を、自分達の寝室に架ける気はしなかったでしょうから、まずそれで間違いはないと思います。

口元もかすかに開けられ微笑んでいるかのような、魅力的な顔をしていますね。なんだか、とても幸せな感じがこの絵から伝わってきます。左の壁面にかかっている鏡に向って、身だしなみを整えているようですが、鏡に向って、真珠(真珠についているリボン)を持ち上げているしぐさが、女性のかわいらしさを表わしているように思えます。このあたりの表現の細やかさが、フェルメールの大きな魅力のひとつですね。

ちょっとした外出の直前、あれこれと準備で忙しいさなかに、しかも夫を待たせてまでも、一生懸命に身なりを整える女性の行為には、私もすっかり慣れています。若い頃はそんな行為にあきれたり、いらだったりしたものですが、今となってみれば、そういうことに気持を向ける女性の方が、かわいげがあるように思えて私は好きです。(つまり、私がそのように妻に調教されたと言えるのかもしれませんが・・・・) でも、女性がそういうことに気を使わなくなるのは、やはり悲しい気がします。

このモデルは、妻のカタリーナが妊娠している時期だったとする意見がありますが、私もそんなふうに感じます。妊娠中のために、しばらく家に閉じこめられていた妻が、久しぶりにお出かけできるので、喜んでいる姿。そんなふうに見ると、この絵がさらに微笑ましく見えます。

ところで、2枚の絵をよく見ていただきたいのですが、フェルメール夫人が真珠のネックレスをうれしそうに眺めているその耳には、ぶらさがったデザインの真珠のイヤリングとおぼしきジュエリーがついていますが、ご覧いただけますか?

このイヤリングは、上段の少女がつけているものと同じものなのでしょうか? 実はそのことは、映画、「真珠の首飾りの少女」の中でも取り上げられていたのです。私見ですが、当時の真珠の稀少性からすれば、映画の通り、この2点は同じものだったと思います。

フェルメールが生きたのは、17世紀(1600年代、日本では江戸時代初期)ですから、当然ですが、養殖真珠は存在しませんでした。ということは、極めて稀な条件下でしか生成しない天然真珠しか当時は存在しなかったわけですから、真珠のジュエリーというのはたいへんな稀少性があったわけです。

まぎらわしい題名のこの2枚の絵には、登場するジュエリー同士にもやはり深い関連性があったと思ってよいと思います。仕事がら、長年ジュエリーと女性の関わりを見て来た私には、この2枚の絵の関わりはとりわけ面白く感じます。自分の大切なジュエリーを、自分が知らない間に他の女性が身に付け、それを喜んでいたとしたら、やはり持ち主の女性は面白かろうはずがありません。

ジュエリーは母から娘へと伝えられます。ほとんどの場合、母から息子の妻へとは行かないのです。そしてその場合、価格は関係ないのです。そのあたりが、女性とジュエリーの関わりの本質を示すように思います。1978年から、ジュエリーの世界とご縁を持った私は、もう30年間、そんなことを身近に見て来ました。値段の問題ではなくて、ジュエリーは女性の人生の一部を形成するものであることは確かです。そして男には、そのことは決して心から理解することはできません。これも30年間の仕事人生で学んだことのひとつです。

とまあ、こんなことを前提にして2枚の絵をご覧ください。女性とジュエリーの因縁のようなものを感じませんか?


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