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葉山日記
50 異常のなかの日常
2004年5月16日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
右上の写真はベトナム戦争のさなかの1968年にサイゴンで撮られた『路上の処刑』。ヴェトコン容疑者の頭を、無造作に撃ち抜く南ヴェトナム国家警察長官の写真。撮影したのはエディ・アダムスというアメリカ人写真家だが、僕は1980年の夏にNYで彼に会ったことがある。

エディはこの写真でピューリッツア賞を受賞したのだが、彼を僕に紹介くれた写真家は、会う前に釘をさした。「あの写真のことを話題にしないように。彼はあの写真がきらいなんだ」。写真の容疑者はもちろん即死したが、撃った警察長官のほうもこの写真が動かぬ証拠となってサイゴン陥落後、処刑された。エディは1人の人間が殺される瞬間のシャッターを押すと同時に、彼の写真に写ったもう1人の登場人物の死にも手を貸してしまったことになる。寝覚めがよいわけはない。

さて警察長官はなぜカメラマンがいる前でこんな行動を起こしたのか。あとあと自分に不利な証拠になりかねない写真をなぜ撮らせてしまったのか。さらに、横に写っている兵士はこの殺人の瞬間を笑いながら見ている。信じられない光景だが、これはどうしたことだろう。

「そこにいるカメラマン、カメラを構えろ。これからいい写真を撮らせてやるぞ」。後ろ手に縛られた容疑者が長官の前に連れてこられる。エディが条件反射的にカメラを構えた瞬間、「パン」という音がし、容疑者は路上に崩れ落ちる。頭からとくとくと流れだした血が、乾いたアスファルトをぬらしていく。ピストル音というのは映画やテレビだと「バーン」とか「ズキューン」という音になってしまうが、ほんとうは意外なほどもっと軽い音だ。「路上の処刑」はこうしてさりげなく始まり、あっけなく終わった――というのが僕が想像するその時の現場の状況だ。長官にとっては、処刑など日々繰り返される日常の一部にすぎない。

次の写真をみて欲しい。これは2002年2月のパレスチナ難民キャンプで撮られた写真だ。画面には写真撮影に興じるイスラエル兵3人が写っている。画面下に倒れているのは彼らが射殺したパレスチナ人だ。この写真を掲載した写真誌(「DAYS JAPAN2004年5月号」)は「イスラエルが恐れる写真」という見出しをつけた。まさにイスラエル政府にとっては「やばいっ」という写真だが、戦場の兵士たちは晴れがましい笑顔で、同僚の記念撮影におさまろうとしている。これも日々繰り返される、彼らの日常行動の断片にすぎない。

さて、話題を少し変えよう。田中宇というジャーナリストのメルマガは、これまでのジャーナリズム一般の取材手法とはちょっと異っていて、そのデータ集めがユニークでおもしろい。世界中のウェブサイト記事を探索し、ファクトを積み上げて世界の潮流を分析、推論していく。特にブッシュ政権におけるネオコンの分析等は日本の他の一般マスコミの追随を許さない。

http://tanakanews.com/

ただし現場を見ないで書く、ひと様の取材した、いわば二次情報を積み上げてゆく手法にときどき危ういものを感じることがある。世界中のウェブサイトにはたしかにあらゆる情報が溢れている。想定するひとつの結論を導くためにそれを補完する情報群を集めるのにインターネットほど効果的道具はない。ただし、まったく逆の結論を導くための情報もまた同じように溢れているわけで、集めたモザイクをどう組み立てるか、その集め方、組み合わせ方次第では非常に危険な結論を導く可能性を含む危うい手法ではないか、と実は前々から危惧するものがあった。

最近の記事(2004年5月11日)で??というのが出た。例のイラク人虐待写真に関する記事である。長くなるが、この虐待写真問題はブッシュ政権を揺るがすかなり大きな政治問題に発展しそうなのと、「写真」の意味を考えるのに格好のテーマだと思うので、まず以下の田中氏記事の抜粋をじっくり読んでみていただきい。

●拘留者に対する虐待はかなり広範に行われ、その光景を撮った写真が兵士の間で交換されていたと報じられている。兵士はおそらく虐待を悪いことだと認識しているだろうから、他の兵士と虐待写真を交換するつもりで撮るのなら、イギリスの写真のように、虐待する側の顔が写らないように撮るのが普通だ。

●兵士の表情は、まるで親しい仲間内の宴会の罰ゲームを撮影しているときのように、くつろいでいる。虐待に関与した米兵には、捕虜虐待を禁じたジュネーブ条約に関する教育が行われていなかったというが、条約を知らなくても、写真が一般に流出したらどうなるか、容易に想像がつくはずだ。米軍兵士の表情からは、そういう心配が感じられない。

●虐待の写真を撮る行為は、英米両軍の上官が囚人に対する虐待を「黙認」を超えて「奨励」していたことを示唆している。上官が「虐待はない方がいいが、欲求不満の兵士が囚人を殴ったりするのは、ある程度は仕方がない」といった「黙認」だけをしているのなら、虐待しても、その光景を写真を撮って自分から証拠を残すことはやらないだろう。兵舎での持ち物検査などで上官に写真を見られたら懲戒されるからだ。

●米軍の場合、虐待だけでなく写真撮影も、兵士の業務の一環として行われていた可能性がある。顔を写された兵士たちは看守部隊の要員で、監獄内は職場である。報道された写真には、女性兵士らが自らすすんで被写体になっている様子が感じられるが、虐待風景を撮影することを上官から仕事として命じられない限り、このような写真が撮られることはないと思われる。

●いくつかの報道から、虐待が行われた口実が明らかになっている。それは、拘留者に対して尋問を行う担当者から、看守の兵士に対して「拘留者の口を割るために、ある程度の虐待をやってくれ」という依頼があったということである。このことから、虐待の写真は、尋問担当者から要請されたとおりに虐待をやりましたという意味の、看守の兵士たちによる「業務報告」として撮影されたのではないか、と考えられる。

3枚目の写真は、上記のような理由、背景のもとに撮られたのだろうか。結論から言うと、田中氏の推論は間違っているとまでは言わないが、「深読み」に過ぎる、と僕は思う。その理由はすでに前2枚の写真でお分かりだろう。[写真が一般に流出したらどうなるか、容易に想像がつくはずだ」―容易に想像がつくはずのことがまったく分からなくなる、とういうのが戦場である。「兵士はおそらく虐待を悪いことだと認識し」なくなるのが戦場というものである。パレスチナの写真は兵隊たちの「業務報告」ではなく、単なる日常の「お遊び」である。

その異常さは、戦争を間近で見た人間、身をもって体験した人間にしか、おそらく分からないものだろう。異常と日常、日常と異常が日々繰り返されるうちに、人間は異常を異常と思わないおぞましい存在に変質していく。

異常な心理状態にある人間の行動を、安全地帯にいてモザイク絵の組み立てのように論ずることの危険性を感じたのは僕だけだろうか。


※注(2004年9月23日) 掲示板上で「たけちゃん」から以下のような指摘がありました。サイゴン陥落後、処刑されたというのは私の記憶違いでした。訂正しておわびします。「戦争という異常な状況下、警察長官の行為は正当化されるものではないが、いたしかたない部分もあった。この写真によって彼の評価が極度におとしめられてしまった」ということをエディは悩んでいたようです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
撃った人は当時の南ベトナムの国家警察長官、グエン・ロアン(Nguyen Ngoc Loan)。1975年4月のサイゴン陥落の前に脱出、米国に逃れた。1998年7月14日、ガンのためワシントン郊外の自宅で死去。67歳。
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