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ボーダーを越えて
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
2008年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ いま我が家にあるピリピリの仲間。一番辛いのは一番小さな緑色のもの。次は小さな赤いもの。もっと小さくてもっと辛い種類もあります。大きくなるほど辛くない。
▲ トーマスの農園で働くメキシコ人労働者が故郷から持ってきた種を蒔いて植えたピリピリは真っ黒で空に向かって伸びます。ものすごく辛いとか。
明けましておめでとうございます。

昨年の後半は、2007年なんて早く過ぎてほしいという気持でいましたので、新年が明けて本当にうれしいです。今年は私の好きな言葉というテーマで、ときどき(つまり不定期的に)言葉雑感を展開しようかな、と考えています。

そこで新年のエッセイはその第1回として、「ピリピリ」という言葉を取り上げることにしました。ピリピリというのは、心の状態を指しているのではありません。辛くて口がヒリヒリする、あのピリピリです。

英語でピリピリという言葉を聞いたのは、ピリピリソース(Piri-piri sauce)というのに遭遇したときです。エビや切り身の魚をマリネードする漬け汁で、たしかにピリピリ辛いんです。イギリスでは瓶詰めのピリピリソースを売っているそうですが、カリフォルニアではメキシコ料理や東南アジア料理に使う辛いソースの瓶詰めはいっぱいありますが、ピリピリソースという名前ではなくて、チリソース(chili sauce)と呼ばれています。

実は「ピリピリ」も「チリ」も同じトウガラシのことなんです。「ピリピリ」はアフリカの言葉。西アフリカ(特にモザンビーク)で使われているし、スワヒリ語でもトウガラシのことをピリピリ(piri piri または pili pili)と言うそうです。一方、「チリ」はもともとはアステカ帝国(メキシコ)のナワトル(Nahuatl)語のchilliが英語に(米語ではchili)入った言葉です。トウガラシの原産はブラジルだそうですが、ポルトガル人やスペイン人が南北アメリカ大陸に上陸し始めた頃には、トウガラシはメキシコや現在のアリゾナ州にまで広がって栽培されていました。そこでポルトガル人はブラジルから、スペイン人はメキシコから、トウガラシをイベリア半島に持ち込んだのです。

そこからトウガラシを世界に広めたのはポルトガル人です。スペインとポルトガルは世界支配を分け合う協定を1494年に結び、カーボベルデ以西はスペイン、以東はポルトガルが支配力を発揮することにしたからです。ポルトガルはモザンビークを占領して、1500年頃からそこを交易の拠点したのですが、モザンビークで盛んにトウガラシを栽培するようになり、そのトウガラシをさらにインドに、東南アジアに、さらに中国や朝鮮、そして日本にまでもたらしたというわけです。ということは、500年前のインドのカレーや四川料理やキムチは辛くなかったということですね。いったいどんな味だったのでしょう。

中国語ではトウガラシのことを辣椒(ラーチャオ)と言いますが、日本語では唐辛子と言うくらいですから、中国の方から来たという意味が込められていますね。それをポルトガル人が、ピリピリと呼んだので、「おおそうか、こんなに辛いことをピリピリというのか」と、当時の日本人は思い込み、辛いことをピリピリと言うようになった。というのは私の想像ですが、当たっていると思いませんか。

同じ頃日本にやって来たカボチャだって、ポルトガル人がカンボジアの産物だと日本人に伝えたから「カボチャ瓜」と呼ばれるようになったのが、瓜が落ちて「カボチャ」になったのですが、カボチャの原型ももともとは中米が原産です。

トウガラシの仲間はCapsicum(トウガラシ属)と言いますが、品種がどんどん増えて、いまはウンと辛いものから全然辛くない甘いものまで多種多様です。ピーマンもパプリカも同じ仲間で、甘口トウガラシ属というわけです。また、辛いものの品種も増え、同時にさまざまなエスニック料理に関心と人気が高まっているので、ウンと辛いトウガラシも、メキシコ系、アフリカ系と細かく区別するようになってきたのかもしれません。それでピリピリソースが登場するようになり、「ピリピリ」が英語に入ってきたのでしょう。

トウガラシを指す「ピリピリ」を、辛いことの意味と間違えたというのと同じようなことで、「ペロペロ」を思い浮かべます。ペロペロというと、普通は犬が盛んになめることを言いますよね。(「ペロペロ」の語源をグーグルで検索しようとして、語源の説明がありそうなサイトをクリックしたら、ポルノまがいのいやなものばかりで、語源は調べられませんでした。なのに、うっかりアクセスしたものだから、ヘンなメールが舞い込むようになってしまい、とんだ目にあっています。皆さん、十分ご注意を! という次第で、語源を確認できなかったので、以下は完全に私の憶測ですが、まぁ聞いてください。)

16世紀の日本にはポルトガル人商人だけでなく、イエズス会のスペイン人宣教師たちもやって来ましたね。スペイン語で犬のことを「ペロ」(perro)と言うのですが、スペイン人は犬を見て、「犬よ、犬よ」つまり「ペロ、ペロ」と呼んだのでしょう。犬は尻尾を振ってスペイン人に近づき、差し出された彼の手をペロペロとなめた。それを見ていた日本人が、「そうか、ああやってなめることをペロペロというのか」と思ったに違いありません。

もともと擬態語の多い日本語ですから、ピリピリもペロペロもすんなり日本語に入り込んだのでしょう。英語版ウィキペディアのPiri piriの項には、ご丁寧にも「日本語ではピリピリは舌に何かが刺さったと感じさせるような刺激を表現する場合もある」なんて書いてあります↓。
http://en.wikipedia.org/wiki/Piri_piri

すっかり日本語にとけ込んでいる「ピリピリ」が実はアフリカの言葉で、しかもアメリカ大陸の産物を指すのですから、なんともグローバルではありませんか。
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