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8 M.ハスケルを探して 2 
2004年8月13日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ 貝ビーズとプラスチックビーズ、ガラスビーズでつくった3連ネックレス
▲ バラの花の部分は白蝶貝(真珠の母貝)
−ハスケルの時代−

ハスケルのジュエリーを見たとき、私はその魅力に大きな衝撃を受けたが、それと同じくらいハスケルという女性の生涯に強く興味を覚えた。

ハスケルの名は、シャネル(注)と並んでコスチューム・ジュエリーの世界では有名ブランドに成長するが、アメリカインディアナ州の小さな田舎町で高校を卒業し、シカゴ大学で教育学を学んだM.ハスケルがなぜ、1人ニューヨークに出てコスチューム・ジュエリーの店を開こうと思い立ったのだろうか。

その前に、そもそも彼女が活躍し、コスチューム・ジュエリーが流行した時代というのはどういう時代だったのだろうか。

それは1920年代初めから1940年ごろ、つまり第一次大戦と第二次大戦の間のつかの間の平穏で豊かな時代だった。

ヨーロッパでは第一次大戦で夫を亡くした若い主婦たちが、みずから生活のために働きに出はじめた時代だったし、アメリカでは前の戦争の後遺症と経済の不安(1929年にはウォール街での経済破綻を経験した)で男性たちは疲れて元気をなくし、それに対抗するかのように女性たちが進んで働くことをえらび、自分で稼いだお金で欲しいものを手にしようとした時代でもあった。

だから、コスチューム・ジュエリーは、それまでの貴族階級の財産の証ではなく、また夫やパトロンたちの経済力を誇示するものでもなく、働く女性たちが(女優たちもまたそうだった)自らのテイストを表現し、その生活に裏づけされたパーソナリテイーを象徴する手段だったのである。

ニューヨークに出てきた当初、M.ハスケルはシャネルのジュエリーを店に並べていたそうである。その頃パリで新しいコンセプトの(身体を締め付けず動き易い)衣服とジュエリーですでに自分の地位を築き始めていたシャネルは、ハスケルにとって人生の成功者の見本、自立の象徴だったと想像するのは難しくない。

そしてニューヨークへ出て2年後の1926年、彼女はフランク・ヘスという男性と出会う。ヘスはもともとインテリアデザイナーだったが、彼女の専属デザイナーとなる。

ミリアム・ハスケルという名のジュエリーは、この2人の共同作業によって生まれるのだが、これらのジュエリーはもはや憧れのフランスのジュエリーとは違い、アメリカ人によって生み出されたアメリカの女性たちのための新しいジュエリーであった。そして、ハスケルとヘスのこの関係はその後30年も続くことになる。

ヘスはデザイン画を描くのではなく、彼女を目の前に座らせ、材料を実際に合わせながら彼女の指示のもとデザインを決めていったそうである。普通の宝石デザインの手法と異なっているところが面白いと私は思う。

ビーズの場合も似ている。(こういうものをつくろうと)かっちりとしたデザイン画を描いてつくろうとしてもあまりうまくいかない。ビーズや石を実際に近づけて並べてみているうちに自然とデザインが決まってくる。手元にある限られたビーズのそれぞれの色合いや、形や、放つ光や、質感で…即興の世界というか、行き当たりばったりというか…。

それはあたかもコスチューム・ジュエリーがもてはやされた時代のはかなさに似ている。戦争や経済の不安に時として息苦しさを感じながら、一方で現実を忘れさせてくれる華やかな装飾の世界への飛躍と熱狂。

そしていつしか私は、このハスケルの時代を、ビーズ・アクセサリー全盛の現代と重ねて見てしまう。(つづく)

(注)
コスチューム・ジュエリーはシャネルが自らデザインする衣服に合わせて創り出し、そのことば自体も彼女が使い始めたといわれている。
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