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老後の楽しみ |
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2005年1月10日 |
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 | 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]
福岡県生まれ、横浜市に住む。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在は気ままな主婦生活を楽しんでいる。著書に『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、共著)『韓国の近代文学』(柏書房、翻訳)などがある。現在、文化交流を目的とした十長生の会を友人たちと運営、活動している。 |
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▲ フローライト(ほたる石)のネックレスとピアス。 細かい編みの技法より、最近はピン使いが多くなった。 |
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老後とは、いつからのことをいうのだろうか。夫が会社を定年退職した後の生活をとりあえずそう呼ぶとするなら、私にとっての老後はそう遠い将来のことではない。
夫は、私より8歳近く年上で会社勤めもあと3,4年なので、私たちの老後はもう目の前といっていい。同年代の友人たちより少し早く夫の退職後の生活が始まるが、私はそれもあまり嫌ではない。
その老後をどうすごすか。最近、ぼんやりとだが考える。私たちにはゴルフという共通の趣味があるが、それだけでは時間は潰れないだろう。私自身の趣味であるビーズを続けるのももちろん悪くない。だが、ビーズ編みという細かい作業にどこまで目が耐えられるか…。
一昨日、私は年末に受けた注文のアクセサリーを仕上げ、数日ぶりに街に出た。運動不足解消のため車はあえて使わず、35分の道のりを駅まで歩いた。途中、郵便局で注文の品を送り、駅前のデパートのセールを覗く。地下街で録画用ビデオを買い、本屋に立ち寄ってビーズ本をチェックする。
歩きつかれた私は、本屋の近くにあるエクセルシオールカフェに入った。席に着こうと混んだ店内を見回していると、背後から女性の元気な声がした。
「こっち、こっち。空いてますよ」
振り向くと、髪に白いものの目立つ女性が隣の席を指差した。私は軽く会釈しお礼をいい、席に着いた。その女性の連れも同年輩の女性だった。熱いミルクティーを口に運ぶと、自然と2人の会話が耳に入ってきた。
「あなた、これからデパート付き合ってくれる?」 「いいわよ。何を買うの?」 「ほら、橋本さん知ってるでしょ。彼になにか送ろうと思って。でも何がいいかわからないから…」 「うん、わかった。橋本さん、知ってる、知ってる」 「でしょ? でも私、顔は思い出せないのよ」 「そういえば私も…」 「…」
まったく屈託がない。吹き出しそうになるのをこらえ、思わず2人を盗み見る。
2人とも首に市営バスのシルバーパスがかかっている。60歳代後半だろうか。声をかけてくれた方の女性は、こざっぱりとしたヘアースタイルにグレーのセーター、黒のパンツ、スニーカー、手には大判のエンジ色のストール。お相手の女性は、パープルのセーターとグレーのパンツ、スニーカーといういでたちだ。優越つけがたく2人ともなかなかおしゃれだ。
「これだ!」
私は思った。老後に必要なもの…それは友人なのだ。 冬の一日、スニーカーを履いてともに歩き、ショッピングを楽しみ、お茶を一緒に楽しめる友人。
バカバカしい話題…宝くじがハズレばかりだった話、だからいっそのこと有馬記念(馬券)に走ろうかという話、のら猫を追いかけて転んだ連れ合いのドジさ加減の話、頭の悪い飼い猫の話…で声を出して笑い合える同性の友人。
こんな友人が1人いたら、老後は楽しいだろう。
そんな友人を得るためには、どうしたらいいだろう。考えてみるとそんな老後が急にやってくるわけはない。家にこもらず、世を捨てず、物欲もそこそこ持っていなくてはならない。そしてなによりも健康で、ほがらかでいなくてはならない。当たり前のことだが、今日の続きが明日なのだ。老後はその先にある。
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