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9 M.ハスケルを探して 3 
2004年8月20日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ 天然石を使ったロングネックレスとピアス
  ガーネット、カーネリアン、琥珀、黄翡翠など
▲ 色違いで…
  トルコ石、アゲート、琥珀、パール、ガラスビーズ
−ハスケルの孤独−

コスチューム・ジュエリーの時代は、1940年代以降ももちろん終わったわけではなかった。ミリアム・ハスケル・カンパニーは、人々が不況や戦争に喘いでいる間も、順調に販路を拡げ、実績を上げていった。彼女の肉体と精神の衰えに反比例するかのように…。

ハスケルは、インディアナ州キャネルトンという田舎町で育った。彼女の父親は19世紀終わりごろにロシアから、母親は東ヨーロッパから移住してきたユダヤ人で、小さな洋装店を営んでいたそうである。彼女は、母親が移住してきた翌年の1899年に生まれている。

彼女がビジネスによる自立の道を選んだ理由、それは若くして祖国から逃れるようにアメリカの片田舎に移住してきた両親、とくに母親の影響が強くあったかもしれない。都会で経済的に自立して生きていくこと…それは彼女と彼女の母親が考えた、女性が人間らしく生きていくための一番の方法だったのではなかろうか。

そして彼女がニューヨークへ向かったころ、アメリカではハリウッドの女優たちがフランスで生まれた、とくにココ・シャネルのコスチューム・ジュエリーを競って身に付け始めていた。彼女が作った会社は、開店から1,2年の間に急成長し、不況の中にあって2番目、3番目の店を開店させていった。彼女は時流に乗っていた。まさに彼女の夢は当時のアメリカの夢でもあったのだ。

アメリカで自信をつけたハスケルは、1937年にはヨーロッパへ出かけ、ロンドンの有名デパートと独占の販売契約を取り付け、新たな材料の調達やアイデアを得るために奔走している。彼女のジュエリーは海を越えて、ヨーロッパへと広がっていったのである。ハスケルのピークの時代であった。

ところが彼女は1941年ごろから頻繁に憂鬱と混乱に悩まされ始める。突飛な行動をとったり、妙な独りごとをつぶやいたり…。戦後の1946年には彼女の会社はアメリカの有名誌に広告を載せるほどになっていたのに。彼女は、1949年ごろには毒殺されるという妄想をいだき、病院への入退院を繰り返すことになる。

そのころ彼女になにが起こったのだろう。

大勢の大金持ちや有名人の男性と交際し、独身の気ままな生活を享受していた彼女だったが、その男性たちの1人、ジョン・D・ハーツJr.(大金持ちの御曹司で年下、ボーイフレンドの筆頭だったといわれる)が1941年、突然に他の女性と結婚してしまう。それもとびっきり美しいミルナというハリウッド女優と。プライドの高かったハスケルはこれにはかなり傷ついたといわれている。その年、彼女は41歳、結婚を真剣に考えるには微妙な年齢であった。

1939年には第二次世界大戦が始まっていた。彼女はドイツ軍によるチェコのユダヤ人迫害のニュースに恐怖で震えていた。ニューヨークにまでその迫害が迫ってくると信じているかのように。

そして、1941年には故郷の父親の死にも遭わねばならなかった。17年前、娘に500ドルを持たせてくれた父だった。当時のアメリカの労働者の月収が30ドルだった時代に。折しもその年、彼女の長年の仕事のパートナーであるヘスは兵役のため不在だった。

ヘスはその類まれなる才能と美に対する共感とによって、彼女のもっとも信頼できる仕事上のパートナーだったことは確かであろう。だが、それだけだったろうか? もし彼女がヘスにひそかに男性として魅かれていたとしたら…。そしてヘスは男性しか愛せなかった。

経済的に自立した女として大金持ちや華やかな人々のあいだで気丈に振舞ってはいても、田舎育ちの内気な1人の女性としての感性を彼女はまだ失っていなかったのだろう。

そして、アメリカだけでなくヨーロッパでも大きな成功を手にしながら、彼女のジュエリーはアメリカでいまだ「ジャンク・ジュエリー」と呼ばれていたのである。(つづく)
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