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小さなジャングル |
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2005年1月17日 |
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 | 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]
福岡県生まれ、横浜市に住む。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在は気ままな主婦生活を楽しんでいる。著書に『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、共著)『韓国の近代文学』(柏書房、翻訳)などがある。現在、文化交流を目的とした十長生の会を友人たちと運営、活動している。 |
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▲ グレーの大粒淡水パールのネックレス。 パール以外の部分にはタイのカレンシルバーのビーズを使った。 |
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▲ 染めパールのリング。 ワイヤーでつくった台に、これまたワイヤーで黄色い小粒パールを山のように留めつけた。 |
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幼い頃の私の宝物は、父が買ってくれた「世界の地理」という本だった。何巻かのシリーズ本だったが、幼い私は、ページをめくるたびに目に入ってくる海の向こうの見知らぬ風景に胸をときめかせた。その中の1冊にジャワ島の芭蕉にとり囲まれた緑あふれる田園風景(棚田)の写真が紹介されていた。
それが私の憧れ場所の原風景となったのか…心の中の楽園はジャングルような空間となった。そしていつの頃からかグリーンが私の一番好きな色になった。
小学生の頃に読んだ「緑の館」(Green Mansions)という本も大好きだった。ストーリーもとても面白く私は夢中になって読み進んだが、物語の中で描写されている生い茂る樹木や小さな泉やジャングルの小道、光を通す緑の濃淡などがストーリーとは別に私の中で形をなして行った。
この物語はイギリス人作家ウィリアム・H・ハドソン原作の長編小説で、メル・ファーラー監督、オードリー・ヘップバーン、アンソニー・パーキンス共演で1959年に映画化されているのをずっと後になって知った。10年くらい前にその映画をTVで見る機会があったが、昔読んだ本のイメージそのままだったのがうれしかった。
グリーンといえば「グリーン・カード」という映画があった。アンディ・マクダウェル扮する主人公の独身女性が、NYのとある温室付きペントハウスに住みたいばかりに、アメリカ永住権を手に入れたがっているフランス人男性(ジェラール・ドバルデュー)と偽装結婚までするというストーリーだ。その部屋を借りるための条件に“既婚者”という項目があったのだ。
この映画のタイトル「グリーン・カード」は、言うまでもなく彼がアメリカに住み着くための「居住資格」のことであるが、同時に彼女が喉から手が出るほどほしがっている温室(グリーン・ハウス)付きの部屋の「居住資格」でもあった。
この書類だけの結婚によって、彼女は庭を手に入れ、彼はNYで生活する権利を得る。だが喜びもつかの間、入国管理局の面接で2人の嘘がバレてしまい…。
恋の行方を暗示させながら映画は終わるのだが、この映画の中の庭というのがとても魅力的に描かれていて、この庭を(アパートのインテリアも)見るためにくり返し私はこのビデオをみたものだ。
NYという大都会の、ある古いビルの最上階にある屋内庭園…住む人なく荒れ果てた温室が、彼女の手によって光と緑あふれるジャングルのような空間に変っていく。偽装結婚の動機がたかだか庭のためというのも異常な情熱だが、不思議にその動機がそれほど不自然でなく感じられてくるような庭だったし、庭は彼女を取り巻く人間関係さえ少しずつ変えて行く力を持っていた。
私がタイでアパート探しの際に部屋を選ぶ決め手となったのがベランダだった。それは、この映画に影響されたせいかもしれない。まったく影響されやすい性格だと我ながらあきれる。
最初住んだアパートは、玄関の扉を開けるとリビングのフローリングの床、その向こうにベランダが目に入る。そのベランダの向こうは隣家の広大な庭だった。ベランダはその庭の大きな木々に囲まれたような空間で、そのベランダを見た途端、私は「ここにしよう」と思った。
1年半後、私たちは事情があってそこを引っ越すことになった。次のアパートは外観は古びて魅力的とは言い難かったが、やはり素敵なベランダがついていた。オーナーの趣味だろうか、リビングの突き当たりにはイスラム風の小さなアーチで仕切られた空間があり、もう一方の空間には高い窓から明るい光が差し込み、ベランダには真新しいカンバス地の大きな日除けが付いていて、そのどの空間にも植物がよく似合った。
私は次から次へと小さな植木を持ち込み、株分けしては鉢を増やしていった。熱帯の植物はどんどん成長する。ブーゲンビリアも年に3,4回花を咲かせた。10畳ほどのベランダはあっという間に小さなジャングルになった。22階にあり緑いっぱいのベランダは、都心にいることを忘れさせてくれた。
夫は最初のアパートでも2番目に住んだアパートでもほとんど毎日、出勤前のひとときをベランダの椅子に座ってすごした。猫のモモコもこの2つのベランダが大好きだった。ここでの生活は夫だけでなく私自身にとっても、それまでの仕事に追われた日々を振り返る新しい一歩であった。
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