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僕の偏見紀行
163 (続)韓の国迷走記(3)全州韓屋村路地裏
2013年12月7日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 熱々のもやしスープ。旅行中、ずい分お世話になった僕の定番朝食。
▲ 全州で開催中だったビビンバフェスティバル。そこでの料理コンテスト。コリアン・ヌーベル・キィジーヌ?大通りに延々と並ぶ料理。
▲ 韓紙工房でコウゾの皮を削るオバチャン。
翌朝8時前、白い息を吐きながら宿近くのもやしスープの店へ出かけた。ここは宿のキムさんお勧めの店。途中の交差点で自転車でやって来たキムさんにバッタリ。これから朝飯だ、というと、案内しようと彼もついて来た。

広いガラス張りの店は開店したばかりというのに既に満席状態。厨房やホールでは若者達が忙しそうに動き回っている。そんな中でキムさんは店主らしい男性をつかまえて熱心に談判を始めた。

やがてキムさんは談判を終え、僕らの席にやって来て、一人50円値引きしてもらうことになった。少し誇らしげだ。紹介した手前、僕らにいいところを見せたかったようだ。

待つこと暫し、鉄ナベに煮えたぎるもやしスープが運ばれてきた。スープといってもご飯ともやしの他にもいろいろ具が入ったオジヤだ。アツアツのスープに落とされたタマゴの黄身が鮮やだ。盛大に立ちのぼる湯気のいい香りが食欲をそそる。

ナベにはキムチとノリが添えられ、テーブルには塩辛や佃煮が並んでいる。これらを適当にのっけてかき混ぜ、フーフーいいながらひたすら食う。アッサリしながらもコクのあるスープが実に旨い。これなら毎日でも飽きないだろう、これから朝飯はこれに限る、そう思った。

店内は時間とともにますます混んできた。入り口には行列だ。フェスティバルのせいだろうか。食べ終わった僕らも急いで勘定を済ませた。残念ながらキムさん奮闘の50円値引きは大混雑のせいか、レジに伝わっていない。しかし僕は奮闘してくれたキムさんの気持ちが嬉しかった。

宿で一休みして街歩きに出かけた。家内達は夕方のバスでソウルに戻るので時間を無駄に出来ない。

週末の大通りは人があふれフェスティバルが最高潮の盛り上がりを見せている。大通りの真ん中には豪華な料理が並ぶテーブルが延々と続いている。華やかな彩りの料理が白いテーブルクロスに映えて美しい。

華やかな盛り付けは現代風だが韓国伝統料理のようだ。いわばコリアンヌーベルキュイジーヌといったところか。料理のかたわらには純白のコック服のシェフが立ち、盛んにアピールしている。若いシェフたちが腕を競うコンテストのようだ。シェフ達の自信に満ちた顔つきが頼もしい。

僕らの本日の本命は路地裏探訪だ。喧騒に満ちた大通りから脇道に入りさらに奥へと歩いた。瓦葺の土塀に沿って複雑に入り組んだ路地を歩くと住居らしいお屋敷、改装したてのゲストハウス、雑貨屋、カフェなどが次々に現れる。ひっそりとした路地裏でそんな店に出会うのがとても楽しい。

角を曲がるとあでやかな妓生の舞姿が眼に飛び込んできた。扇子片手の赤い衣装で去年より華やかだ。妓生の絵姿が目印の小さな画廊は、去年と同じところにひっそりとあった。あたりには去年無かったカフェや雑貨屋などが増えている。

入るとそこは去年と同じ光景だった。若い女性が一人机に向かい絵を描いている。去年と異なるのはかたわらに若者がひとり、パートナーが出来たのかな。

去年一度お邪魔しました、と挨拶して家内と義姉を紹介する。さらに去年購入した妓生の絵は我が家の居間に飾ってあることを話した。すると彼女は僕を憶えていた様で、大いに喜んでくれた。今年も展示された作品から、僕はあでやかな装いの妓生、家内は好きなネコ、の絵を選んで購入した。

さらに細い路地を歩くと古びた門が開いた屋敷があった。ハングルで何か書いてあるが読めない。門の中に小さな矢印の案内版があり、屋敷の中を指していたのでつられて入った。

入ると中は広く作業場らしい建物や事務所などが並んでいる。倉庫には乾燥した木の皮が積み上げられ、作業場の前に座り込んだオバサンたちが水でもどした木の皮を包丁で削っている。そういえば全州は韓紙の産地とガイドブックにあった。ここは韓紙の工房なんだ。倉庫に積まれた木の皮はコウゾなのだろう。

見ているとオバサンが作業場へ入っていいよ、と身振りで教えてくれた。中は思ったより広く、紙を漉く作業や漉いた紙から重石で水分を抜く作業など、忙しく働く男たちがいた。そのかたわらの台では未だ濡れた紙の乾燥作業が行なわれ、150cm四方くらいの韓紙が次々に出来ている。

紙質は和紙に似ているが色がとても多い。赤・青・黄などの原色から柔らかなパステルカラー、ちょっとくすんだ渋い色まで、実に多彩だ。色に加えて厚みや地模様の違いもあるので種類としてはとても数え切れないほどたくさんある。

売店の棚には出来上がった韓紙が山ほど並べられ、1枚数百円で売られていた。美しい色の氾濫に興奮気味の家内は次々に韓紙を買いこんだ。まるで雑貨屋さんの仕入れみたいに買い込んだ家内は上機嫌だった。

路地裏散策のランチはこれもキムさんお勧めのウドン屋へ行った。韓屋村一番の繁盛店と聞いたがその通りだった。さらにフェスティバルの人出も重なったのか、店内は超満員だ。辛うじて見つけた空席に座ると、若者が素早く現れ注文をとる。メニューはひとつなので人数をいえばいい。

あっという間にウドンが来た。込んでいるけど回転は早い。熱々のドンブリからいい香りが立ちのぼる。日本のウドンと明らかに違う香り、カツオブシ系とお肉系の違いだろうか、スープを口に含むとアッサリまろやかだけど力強い旨みが広がる。これはいい、手軽で安くて旨い、これから昼飯はこれにしよう。

そうすれば、朝食のもやしスープ、夕食のカルビタンと共に、僕の一日の食生活が安定する。旅の間、何を食おうか迷う必要が無い。

この日夕方家内達はソウルへ戻った。夕食は勿論カルビタンの店に行った。去年偶然見つけて気に入った店だ。旨いカルビタンを夢中で食い終わり、混みあう店内で一息ついていると、ふと心細いような淋しい感情がわいてきた。家内たちがソウルへ行ってしまったからだろうか。今までにないことだ。

僕は10日や2週間の一人旅は何度も経験した。その途中で淋しさを感じる余裕など無かった。予想外のトラブルや刺激的な出来事などが続き、時にあわてながらもそれを楽しんだ。今回は旅先で家族と落ち合い、数日過して分かれたせいなのか。あるいは僕が老いたということなのか。こんなどうでもいいことをウジウジ考えるのは老いた証拠だろう。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
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15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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