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ボーダーを越えて
131 言葉雑感(5)4文字言葉
2008年5月10日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 知らない言葉を聞くと首をかしげてじっと聞き入るタトゥー。そうして覚えて真似をする。でも、さいわいにも彼は4文字言葉はまだ発したことがありません。
「Oh, shit!!」
と叫んだのは、我が連れ合いのトーマス。中山さん(管理人さん)のアメリカ滞在最終日に七面鳥を焼いたときのことです。

私が七面鳥を焼くと、グレービーを作るのがトーマスの役目。彼のイギリス流グレービーは、焼いた肉から落ちる肉汁を味付けしただけのさらさらしたもの。大きなローストパンから焼き上がった七面鳥を取り出したら、脂肪は捨て、お水を少々入れてローストパンにこびりついた汁を擦り取るようにしながらお水に溶かし、煮詰めていきます。適当な濃さに煮詰まったら濾してさらに脂肪分を取り除き、塩胡椒してできあがり。ただそれだけなんですけど、それがおいしいんです。(アメリカ人は、内臓とか首とか、ローストには使わない部分を煮詰めた汁に塩胡椒し、小麦粉を溶かしてとろみを付けるのが普通ですが、ぼってりしていて私は好きではありません。)

グレービー用の濾し器に、ローストパンからギラギラした煮汁をゆっくり流し入れるのですが、最近やることなすことがぎこちなくなっているトーマスは、煮汁をたっぷりこぼしてしまいました。そのときです、大きな声で4文字言葉が彼の口を突いて出たのは。周りにお客さんがいたので、「すみません」という言葉もすぐ出ましたが。

もっと若い人だったら、Shit!ではなくて、Fuck!という別の4文字言葉が出たかもしれません。4文字言葉または4文字語(four-letter word)にも時代の流れに応じて変化があるのです。10年以上も前のイギリス映画「フォー・ウェディング」(原題は「Four Weddings and a Funeral」)でやたらにFuck!が出てきて、最初はちょっとびっくりしたものです。でも、いまではもう、ちっとも驚かなくなりました。4文字言葉は罵倒語(swear word)とも呪い言葉(curse word)とも呼ばれて、耳障りな汚い言葉ということなのですが、時間が経つとそう耳障りではなくなってしまうものなのですね。いや、現在の英語にはそういう言葉があふれているので、免疫になってしまったのかもしれません。

4文字言葉というのは、そういう「汚い言葉」には4文字のものが多いからなのですが、4文字以上のもたくさんあります。高校生のときに和訳で読んだ『誰がために鐘は鳴る』に「牝犬の息子め!」というのが何度も出て来て、これはいったい何のことだろう、と首をかしげたものです。それがSon of a bitch! という罵倒語(語というより表現ですね)の直訳だとわかったのは大学のクラブでアメリカ人と会話をするようになったとき。でも本当に罵倒語というのがどんなふうに使われ、どんな意味合いをもたらすかがわかるようになったのは、英語を母国語とする人たちの中で生活するようになってからです。

4文字言葉は誰かを罵倒するときとか、自分に腹が立ったときとか、苛々したときに、思わずポンと口からつい出てしまう言葉なんですね。スペイン語にも4文字言葉がいっぱいありますし、中国語にもいっぱいあるそうですよ。そして英語でもスペイン語でも中国語でも性的なものがかなりあります。(英語のFuck!はその1つ。)

4文字言葉の変遷をきちんと調べたわけではありませんけど、昔はDamn!やHell!のように、宗教から出た言葉が多かったように思えます。呆れたりびっくりしたときには、Jesus Christ!(または単に、Jesus!とかChrist!)とかHeavens!、My god!またはOh my god!というのも、同じ系統でしょうね。これらは罵倒語でも呪い言葉でも「汚い言葉」でもありませんけど、多分キリスト教の勢力が強かったころ、そういう言葉を簡単に口にするのは憚れたということが、逆に思わず出る感情表現になったのかもしれません。

私がアメリカに住むようになったころは(もう30年以上も前のことですが)、4文字言葉で一番汚いとされていたのはShit!だったと思います。普通の女の人は絶対に口に出さなかったし、映画の台詞に出てきたりするとかなりショッキングでした。いまだって「汚い言葉」ではありますが、Fuck!の登場のせいでしょうか、女の人が言ってももう誰もびっくりしたりしないでしょう。そのFuck!だって(またfuckingは形容詞の様に使われますが)、もうちっともショッキングでなくなってきました。社会が4文字言葉に寛容になってもきたともいえます。それでも、どんな場でも4文字言葉を使っても構わないというわけではありません。いまでもラジオでは4文字言葉は必ず、ピーッという音で消されてしまうのです。

4文字言葉には時代や文化が反映していておもしろいからでしょう、日本語にはどんな4文字言葉があるのかと、よく聞かれます。聞かれて私は返事に詰まってしまう。せいぜい「馬鹿野郎!」とか「畜生!」とか「糞ったれ!」という罵倒語しか思いつかないんです。そのどれもが他国語の性的に凄まじい言葉に比べたら、おとなしいもんです。

「本当にそれしかないの?」と、聞いた人は半信半疑。それしかないどころか、4文字言葉自体を日本人はあまり使わないと思うのですが、違います? だから『誰がために鐘は鳴る』の翻訳者は、頻繁に出て来るSon of a bitch!に相当する言葉が日本語にはないのに困ってしまって、直訳することにしたのではないかと想像するのですが。でも、本当は日本語にも4文字言葉のようなものがもっとあるんでしょうか… ご存知の方、教えてください。

「それじゃぁね」と、ある人は突っ込んで聞いてきました。「夜中に起きて暗がりの中で足を何かに思い切りぶつけちゃったとするよ。僕だったら思わず、Shit!と言うね。言ったらそれで胸がすっきりするんだ。日本人だったら、こんなときなんて言う?」
「イテテテテーッ…かなぁ」
「それ、どういう意味?」
「Ouch!のことよ」(Ouch!は「痛い!」の意味です。)
それでは話にもならない、とその人は首を振りました。

でも、本当に4文字言葉が思いつかないのです。皆さんだったら、どんな言葉が口を突いて出てきますか?

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