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僕の偏見紀行
164 (続)韓の国迷走記(4)全州からソウルへ
2013年12月14日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 全州韓屋村の伝統文化センター公演、優雅な伝統舞踊。
▲ 広蔵市場アーケードの屋台。ウドン、トッポギ、のり巻などを食べた。旨かった。下宿して毎日通いたい。
▲ 仁寺洞タブコル公園の独立宣言記念碑。独立宣言書及び付帯の3原則(部分)
夕食後、韓屋村のはずれにある伝統文化センターへ向かった。これから伝統舞踊の公演が開かれる。僕が全州に残ったのはこのためだ。

センターの窓口で係りの若い女の子が年を尋ねた。65才以上は割引です、何か証明できるものはありますか。僕はすかさず、これでは?、と顔を突き出す。笑いながらそれでは証明にならない、というのでパスポートを見せた。

もしかすると僕はそんな年に見えないのか、と尋ねる僕に彼女はうなずいた。可愛げのある女だ、韓国の若者は人情の機微を心得ている。こんな他愛ないことでもオジサンは嬉しい。

公演が始まった。演者は女性二人、交互に衣装を替えて踊る。伝統音楽の琴や太鼓が響き、華麗に舞う。やがて緩やかな舞いが激しくなり、破調したかのような伽耶琴の音が狂おしく響く。きき慣れない、心の奥底を揺さぶる旋律に思わず鳥肌が立つ。

舞台が変わり若い女が踊り始めた。今までの伝統的な舞踊と異なり、衣装も音楽もかつてウズベキスタンの旧市街で出会ったイスラム風の踊りを思わせた。余談だが、韓ドラ時代劇で見かける宮中結婚式の花嫁衣裳は、やはりシルクロードの博物館で見たものとそっくりだ。かつてこの国の先祖が騎馬民族として中原で覇権を争った歴史の名残りだろうか。

翌日一旦ソウルへ戻った。次の目的は安東河回村の仮面舞踏だが、その公演は次の水曜日なのそれまでソウルで2泊する。宿は仁寺洞近くの安ホテルにした。

夕方帰国予定の家内たちと再び落ち合い、昼飯に広蔵市場へ出かけた。東大門から続く広大な市場だが、その一角に延々と屋台が並ぶアーケード街がある。両側に店舗が続く長い通路は屋台で埋め尽くされ、オデンの大鍋からいい匂いの湯気が立っている。

間口一間くらいの屋台はくっつき合って並び、大皿のトッポギ、腸詰、ブタ皮、のり巻などが旨そうだ。あちこちでオバチャンが威勢の掛け声でお客を呼んでいる。もう腸詰で一杯やっているオッチャンのかたわらで若い女がトッポギを旨そうに食っている。ここは歩くだけでホントに楽しい。いっそこの近くに下宿して毎日でも通いたい。

同じような店が続くのでどこに入ればいいのか迷ってしまう。とりあえず眼が合ってしまったオバチャンの店にした。トッポギは知ってはいたが食うのは初めて。見た目より歯ごたえのあるモチのような具に甘めのソースがからんで旨い。

オロカな事に僕は、トッポギはパスタの親類のケチャップ和えだろうなどと考えていた。そうオバチャンにいうと即座にとんでもないと怒られた。ケチャップなんかではなく、独特の甘味噌らしい。

トッポギ、のり巻、ウドンなどを腹いっぱい食ってブラブラさらに通りを歩いた。屋台の食い物だけでなく魚屋の並ぶ通りもある。その店頭には旨そうなちり鍋の具材が盛られ、店の中では一杯やりながら、湯気をあげる鍋をつつく男たちがいる。人が美味しそうにものを食う様は見ていて実に平和でいい。見る者まで幸せな気持ちにしてくれる。

次の通りでは新鮮な野菜を山ほど積み上げた屋台が並んでいた。そこには大きなステンレスボウルを前にしたお客が座っている。店のオバサンがそのボウルに生野菜を盛大に盛り付けては客の前に置いていく。お客は、なぜか中年男が多かったが、抱えたボウルをよくかき混ぜて食べ始めた。

野菜サラダだろうか、それにしてもいい年をした男たちが生野菜をむさぼる光景はちょっと異様だ。不思議に思った僕はお店のオバサンに尋ねた。するとビビンバですよ、ということだった。ボウルにはご飯やタレも入っているのだ。ビビンバといってもいろんなやりかたがあるものだ。韓国オジサンもヘルシー志向なんだ。

帰国する家内達と別れた僕は、かねてから気になっていた仁寺洞のある場所に向かった。韓屋風の塀に囲まれたその場所は仁寺洞のはずれにあった。長い塀に沿って小さな小屋がいくつも並び、時おり人が出入りしている。中をのぞくと机を挟んで人が座り相談中だ。占い師の小屋のようだ。

小屋の先には男たちに囲まれた立ち飲み屋台がある。何気なくカメラを向けるとすでに出来上がった男から鋭い叱声がとんできた。あたりには酔いつぶれて道端に寝転ぶ男もいる。これ以上近寄るのは危ない。

正面の正門へ回り中へ入った。広場を囲んで樹木やベンチが並ぶ静かな公園だ。タブコル公園というこの場所で1919年、日本からの独立を求める人たちによる決起集会が開かれた。これを契機に三・一運動とよばれる独立運動が全国に広まっていった。

宗教界から33人が集まり、学生達が起草した独立宣言書を読み上げたという。公園奥の記念碑には独立を訴える力強い銅像が立ち、宣言書のレリーフが掲げられている。台座のまわりには老人たちが座り込みくつろいでいる。

かつての一方の当事者の末裔として、身の置き所の無い思いがつのる。まわりの老人達に遠慮しつつ台座の宣言文を拾い読みする。幸いにハングルと英文が併記してある。

情けない話だが僕は三・一運動について聞いたことがある、程度の理解しか無かった。帰国していくつか資料を読んでようやくおぼろげながら理解した。現地で読んだ時も感じたが、この独立宣言は、民族自決という当然の権利を希求し極めて格調高い。

日本に対しても敵対ではなく真の友好関係を求めている。レリーフを読んでいた僕は、宣言に付帯する三原則の一つが非暴力であるのに気づいて驚いた。このような人々を当時の日本政府は武力で弾圧し多くの犠牲者を出し、新聞はこの運動を単なる「暴動」「騒擾」として報道した。

僕は韓国に何度も来ながら、向き合う人たちの心根まで思いをいたすことは無かった。あらためてつくづく思う、僕はこの歳まで本当に何にも知らないで生きてきた。

帰り際正門前にデモ隊がいた。ゼッケンを胸にプラカードやのぼりを持った数十人の人々が整然と並んでいる。その前で中年男が熱弁を振るっている。

ソウルでは政治的アピールをするグループによく出会う。そしてそのまわりを取り囲む警官の姿も非常に多い。大学生ですら、物言わぬヒツジの群れ、となった日本とはずい分違う光景だ。

デモの列にカメラを向けた途端、何をしているのか!、いきなり声がかかった。デモ仲間あるいは警察関係者、正体不明の女が僕を見つめている。日本から来た旅行者だ、そういって僕はその場を離れた。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
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49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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1 東北紅葉雪見風呂
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