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98 新たな気持で
2009年1月1日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。

いろいろなことがありました2008年が終わり、新年を迎えました。私事で恐縮ですが、昨年はこのエッセイを6月初旬までしか継続できす、本当に申し訳なく思っております。従前以上に多忙になってしまったことが主因だったのですが、新年を迎えて、新たな気持で取り組みますので、またおつき合いいただけたら幸いです。

私は毎年末に、お客様やお取引先の皆様を中心に、年末のご挨拶をメールでお送りしております。日頃のご無沙汰をお詫びしつつ、これまでにいただきましたご縁に感謝する気持を込めて、年末にお送りしているのですが、1999年末に開始しましたので、今回で10回目となりました。

そんなに回を重ねながら、相変わらず、たいへん拙い文章でお恥ずかしいのですが、おかげさまで年齢に関わりなく、現場の最前線で社会に接している者として、昨年1年間に実感したことを大晦日に送らせていただきました。

今回はまず、それを引用させていただきます。

ブッシュ政権や、その背景にあった「ネオコン」や「新自由主義」の行き着いた果てが世界の現況であることは、どう見ても明らかですが、それにしても、ひどいことになってしまいました。

今から5年前の2003年末のメールの中で、私はこんなふうに書きました。

<引用開始>

今年は、世界的にも、また国内の状況を見ましても惨憺たるものでした。欲をむき出しにした露骨な、力ずくの争いと、それを正当化する詭弁が堂々とまかり通り、強者は「勝ち組」と呼ばれ、弱者である「負け組」は、自業自得で存在価値がないとして切り捨てられて来ました。

私は世界の政治状況を大上段に云々するほどの人間的力量も勇気も持ち合わせてはおりませんが、世界に生きる市民の一人として、何度も暗澹たる気持になったことは事実です。

2004年、私自身と、私が経営の責任を負っている(株)エル・サイトウの生き方のキーワードは、「品性」と「優しさ」にいたしました。

力とお金が万能で、それを手に入れるためには、どんなプロセスを通ろうとかまわないという風潮を、私達はきっぱりと否定します。

<引用終了>

自分の過去のメッセージを引用するなど不遜極まりないことで、申し訳ありませんが、5年前のあの頃感じていた危うさが、現実の社会・経済・政治的な大問題として世界中を覆っている今、私は再度自分にも問いかけてみたいと思っております。これから先、いったいどう生きるべきなのかと。

知人から教えてもらったことですが、インド独立の功労者で、非暴力の平和活動家であったガンジーが荼毘に付されたデリーのラージガート (Rajghat) には、彼の残した「七つの社会的罪」という言葉が壁に刻まれているそうです。

『七つの社会的罪』 (Seven Social Sins)

1)理念なき政治 (Politics without Principles)

2)労働なき富 (Wealth without Work)

3)良心なき娯楽 (Pleasure without Conscience)

4)人格なき知識 (Knowledge without Character)

5)道徳なき商い (Commerce without Morality)

6)人間性なき科学 (Science without Humanity)

7)献身なき祈り (Worship without Sacrifice)

私は普段からガンジーに傾倒しているわけではけっしてないのですが、今のこの時代に、これらの言葉に出会い、今さらながら先達の考えの重みを感じている次第です。

もうひとつ、ネガティブな意味ですが引用したい言葉があります。それは、現在の日本社会でよく使われているらしい「KY」という、はやり言葉です。「空気が読めない」の略なのだそうですが、私はこの言葉に出会う度に、なんともイヤな気分になります。

「空気が読めない」とは、同調しない人間や、異なる価値観を持った人物を力ずくで同調させるか、もしくは排除してしまおうという、まことにこわい「同調圧力社会」への入口のように私には思えるのです。

皆が楽しく盛り上がっている時に、その場にそぐわない、チグハグな言動をしている人物を、冗談っぽく戒める程度のことから始まったものなのでしょうが、その行き着くはるか先には、自由な思考そのものを許さない、ちょうど治安維持法下の戦前の日本社会のような、極度の抑圧社会があるように思えてなりません。歴史的に見ても日本社会は「同調圧力」の強い社会であったのです。

むしろ、現在のような混迷を極めている時代だからこそ、自由な発想、異質な思考が大切だと思います。異質さを許容しない政治が、どれほどの悲劇と損失を生み出してきたかは、残念ながら、ここ何年かで世界が目撃してきたことです。

ひるがえってささやかながら、当社の今後を考えてみますと、現在のような不況の大合唱の中では、当社のような小さな組織は、実は意外な強みがあります。

最近手元に届きました、小売マーケティング・エキスパートからのメールにこうありました。ちなみに、ご本人のメッセージの中に、

「このメールの無断引用、無断転載は、積極的にオススメします!」

とありますので、お言葉に甘えて引用させていただきました。

<引用開始>

こんな時期だって、うまくいっている企業っていうのは山ほどあります。
今厳しい業界だと言われている業界の中でも、ちゃんと商売しています。
世間とは、まったくちがう風景が広がっている。

うまくいっている会社を見ていると、共通しているコトが、3つあります。
だから、今うまくいっていない会社は、この3つのポイントを取り入れたら、
不況と言われている時期でも、売れるようになる。そう思っています。

その3つのポイントとは ?

1:こういう時期にも販促活動をしている

2:既存の顧客を大切にしている

3:規模的に大きくない

この3つです。

1:モノが売れなくなったり、不景気になると販促費を削減する会社が多く
  なります。それは販促費を経費と見るか、投資と見るか、そのちがい。
  日頃から販促費を「経費」と見ている会社は、結果を検証しない販促を
  やっている。広告出したら、出しただけ。チラシを配布したら、それだ
  け。ホームページのレスポンスも見ていない。

  そういう販促活動をやっているから、効果が出ているのか出ていないの
  かわからない。だから、販促費を削減するわけです。販促が効果があっ
  たら、お金を使っても実施しますよね。

  だから、こういう時期に販促費を削減する会社は、もともと効果のない
  販促活動をしていたってことです。


2:既存顧客を大切にしているということは、ファンが多いってことです。
  そういう企業や店はこういうときでも、選ばれるのです。

  どんなに景気が悪くなっても、
  旅行に行く人がゼロになるわけではありません。
  忘年会の数がゼロになるわけではありません。
  化粧品を買う女性がゼロになるわけではありません。

  消費がゼロになることは、今の日本では、考えられない。
  ただ、選ばれない店、選ばれない会社、選ばれない商品が出てくるだけ
  です。

  安いっていう理由で選ばれていたところは、もっと安いところにカンタ
  ンに浮気される。ファンが多い店や会社は、選ばれるのです。だから、
  不況になっても、影響は小さいってこと。


3:スケールデメリットが少ない。
  
  規模が大きくなると、存在するだけで固定経費がたくさんかかる。
  これは、中小企業は楽ですよね。小さいことが、とっても有利な時代に
  なってきたわけです。別に大きくなる必要はないんです。

  だって、仕事の目的って、企業を大きくすることではなく、楽しんで、
  しあわせになることでしょ。

<引用終了>


最後にもうひとつだけ申し添えさせていただきます。長くなりまして、本当に恐縮です。1983年(今から25年前)に、47歳で没した詩人・歌人で、その他諸々の多彩な才能を発揮した、寺山修司氏という人物がいました。

1967年に『書を捨てよ、町へ出よう』という、当時学生であった私には衝撃的に思えたタイトルの評論集を書いた傑物なのですが、私は今、寺山氏風に言えば、『テレビを捨てよ、書に戻ろう』と自分に言い聞かせようと思っています。

日本のテレビは近い将来、地上波デジタル放送に全面的に切り替えられ、解像度も更にアップし、より大型の画面でも鮮明に楽しむことができるのだそうですが、でもそれで私達はいったい何を見ようというのでしょうか?

多くの方々が既に指摘していることですが、テレビを主とする、画像による情報提供に慣れ過ぎてしまうと、かつて私達が本を通して、文字を介して、自分自身の能力を駆使しながら磨いていた理解力や思考力が、著しく劣化してしまうように思えてなりません。テレビを通じて垂れ流される、少なくとも、人間の品性を高めるとはとうてい思えない膨大なテレビ型の情報は、私達の時間を奪い、思考力も奪い、人間性の劣化に寄与していると私は感じているのです。

私の場合は、元々テレビ嫌いの傾向が強いのですが、これからはもっと意識的に、テレビを捨てて、書に戻ろうと思っております。

寺山修司氏の歌に、こんなものがあります。

『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし 身捨つるほどの祖国はありや』

たった28文字のこの歌の奧に、どんな思いがあったのか。文字だからこそ可能な世界を楽しむことができます。この歌を見た時、私も自分に問いかけてみました。自分には、身を捨てるほどの○○はあるのかと。

のんびりとしたい時期に、長いメールをお送りし、まことに申し訳ありませんでした。新年を迎えたら、私も心新たに1年を生きようと思います。

また何かとお世話になることと存じますが、どうかますますのご厚誼のほど、よろしくお願い申し上げます。

よいお年をお迎えください。


齋藤 恵

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