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ボーダーを越えて
132 柔の姿勢
2008年5月19日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 我が家の屋根まで這い上るスカーレット・トランペット・バイン(Scarlet Trumpet Vine)。別名、ブラッド・トランペット・バイン(Blood Trumpet Vine)。学名はDistictis buccinatoria。この蔓はしなやかだけれど、大変に強靭です。
先日、韓国系スーパーマーケットへ行ったときのことです。近年、太くてずんぐり短いけれど甘くておいしい韓国大根が気に入って、たびたびそこで買い物をするようになったのです。

車で近づくと、入り口近くに中年女性が2人、紙束を手にして立っています。その姿を見て、私はちょっと固くなってしまいました。教会への勧誘だ、と思ったのです。数年前、やはり韓国系スーパーマーケットの前で、若い女性が勧誘活動をしていて、噛み付いて放さないという感じのしつこさでキリスト教には興味がないと言う私を非難してきたので、私もつい強く反応してしまったことがあるのです。

教会への勧誘は韓国人だけではありません。日本人もやっています。うちに直接やって来て印刷物を置いていく人たちもたまにいますが、そういう人たちはしつこく誘おうとはしません。が、いやな電話を受けたことがあります。中年の日本女性でしたが、もちろん全く知らない人です。日本人を電話帳で調べたのでしょう、最初から日本語で、聖書の勉強会へ誘ってきました。お断りすると、その人は突然強い口調で、「あなたは世界がどんなになっても構わないのですか」と言い出したのです。これには私はカッとしてしまいました。具体的な平和活動に関わっているわけではないけれど、自分では社会意識は高い方だと思っていたからです。
「あなたの信じている神様を信じない人間は皆、世界情勢や社会の不正義に無関心だと思うのですか」と、私もつい強い口調で言い返してしまいました。

そういう不毛な議論そのものが私は嫌いなのですが、そんなことにカッとしてしまう自分はもっといやなものです。

そんなことを思い出しながら、私は車を止めて、勧誘女性たちを見ないようにしてお店の中に入りました。勧誘して来るとしたら、買い物が済んでからでしょうが、おとなしそうな女性たちなので、私は何となくホッとして、自分の身体から固さがほぐれていくのが感じられました。

買い物を済ませて、車のトランクを開けて買い物の荷物を積み始めた途端、勧誘女性の1人が近寄って来て、何か韓国語で言いました。
「ごめんなさい、韓国語はできないんです」と言うと、「あなた、日本人?」と、英語で聞いてきました。
「イェス」
「あなた、聖書を信じていますか」
「ノー。でも、信じている人を尊重しますよ」だから、信じていない私のことも尊重してくださいね、と意味を込めて、私はニッコリしました。
「神様を信じないの?」その人はちょっとびっくりしたような顔をしましたが、言葉に攻撃的な響きはありません。
「信じていません。私は仏教徒ですから」と、こんなときだけ急に熱心な仏教徒になる自分に少々後ろめたさを感じながらも、笑顔は絶やさず言いました。「もちろんご存知でしょうけど、仏教には絶対的な神様はいませんよね」
その勧誘女性もまだ韓国にいたときは仏教に接する機会がいっぱいあったことでしょう。私の言うことには反駁しませんでした。
「神様について日本語で書かれたものがあるんですけど」
「ありがとうございます。でも、せっかく頂いても読みませんから」そう言ったときも、攻撃的な眼差しにならないよう、心がけました。

勧誘女性はあっさり諦めて、空になったカートを持って行ってくれると言いました。
「サンキュー。サンキューって、韓国語でなんと言うんですか」
「カムサームニダ」(と、私の耳には聞こえました。)
「カムサームニダ?」
「そうそう、じょうずですよ」
「カムサームニダ」そう言ったら、自然に身体が曲がってお辞儀になりました。(おかしいですね、「サンキュー」と言ったらお辞儀は出て来ないのですから。)

帰り道の車の中で、私は1人でニコニコしていました。きっぱり断ってもこんなに気分がいいなんて… 年の功かな、なんて思いましたが、それは我田引水というもので、あの勧誘女性の人柄のおかげでしょう。それにしても、双方とも柔の姿勢を崩さなかったので無駄な衝突はしないで済んだのです。

ラジオのスイッチを入れたら、ブッシュ大統領がキューバ政策を変えるつもりは全くないと断言したと報道していました。実権がラウル・カストロに移ってからコンピューターや携帯電話などの購入が一般キューバ人が許されるようになったとはいえ、キューバの体制には何の変化もない、というのが彼の言い分です。その数日前には、キューバ国内の反体制活動家たちが、アメリカのキューバ締め付け政策は全く不毛で、逆にキューバ政府の態度を硬化させ、キューバ国民の生活を圧迫するだけだと批判し、経済封鎖を解いてキューバ政策の緩和を求める声明を発表したばかりです。つまり、キューバに対しても力ずくの政策より、柔の姿勢で向かった方が政治体制改革には有効だというわけですね。これはほとんどの場合に言えるでしょう。

でも、ブッシュはそんなことには耳も傾けない。彼が狙っているのは、キューバの真の民主化ではなくて、マイアミのキューバ人右翼やアメリカ企業がキューバ経済を簡単に握れるような状況なのですから。キューバだけでありません。何にでもどこにでも、ブッシュは力ずくて相手をつぶそうとする。軍事力と経済力で世界を自分たちの思うままにしたいのだとしか考えられません。これは世界にとってもアメリカにとっても不幸なことだと思います。

自分の日常生活の中での些細なことと、はるかに大きな世界情勢のことを重ね合わせて考えながら、私はあらゆる面で柔の姿勢をもっともっと磨いていこうと思った次第です。

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