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僕の偏見紀行
165 (続)韓の国迷走記(5)安東、夕闇迫る民俗村
2013年12月26日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 安東市内、駅前の食堂街入り口。この奥は安東牛の焼肉店が続いている。
▲ 黄昏近い安東民俗村。右手奥は韓式のお屋敷が沢山建築中だった。大規模な拡張工事の最中のようだ。
▲ 安東名物、安東牛の骨付きカルビ焼肉。1人前200gで2200円、安くは無かった。歯ごたえ十分の固めの安東牛、オリーブオイルと塩コショウのタレで食うと、肉の旨みが口に広がる。
朝飯をホテル近くの食堂で手早く済ますと、次の目的地安東目指して地下鉄でバスセンターへ向かった。ラッシュで混みあう乗客に押されていると、離れたところから声がかかった。

「席を譲りたいけど私も大きな荷物を抱えて動けない、でもあっちの優先席なら空いてるよ。」英語の達者な若い女だ。

しかし満員の車内を移動するのは難しく、僕はお礼をいうのが精一杯だった。この国では年配者を気遣う若者に時々出会うことがある。一人で旅する身にはに有り難いことだ。

これまでどこの国でも僕が困っていると、地元の人が助けてくれた。国や・民族・宗教、関係なく、どこでも庶民は外国人にやさしく親切だ。

残念ながらわが国では、恥ずかしげも無く優先席に座る若者、人ごみでぶつかっても「失礼」と言うことを忘れた大人等を見かけることが多い。僕は、こんな国が「おもてなし」などとよく言うよ、と思う。

お客をもてなすということはいわば当たり前のことで、特別の国の文化ではない。まして金を遣ってくれる観光客にサービスするのはビジネスとして当然のことだろう。

よくいわれる店員のマニュアル言葉、へその前で両手を組んだ奇妙なお辞儀のかたちなど、いつの頃からか不思議な光景が多くなった。これらに共通するのが形式だけの心のこもらないおもてなし精神だろう。外国の、チップだけで暮らすプロのウエイターが見たら笑ってしまうだろうな。

なんだか不機嫌そうなドライバーのバスは3時間ほどで安東へ着いた。このドライバー氏不機嫌なだけでなく、ハンドル片手にクスリを飲む、手元のスケジュール表をチェックする、飛びまわるハエを叩く、対向車線のバスに挨拶する、など暇つぶしに余念が無かった。お陰で僕もヒヤヒヤしながらも退屈することがなかった。

駅前のホテルに荷物を置き、観光案内所で情報を集めた。僕の安東での第一の目的は、河回村へ行き民俗芸能化面劇を鑑賞すること。河回村へはバスで約一時間という。村内散策と午後の仮面劇まで1日かければ充分のようだ。

安東は古くから有力な豪族を輩出し、貴族階級である両班の文化が色濃く残る土地として知られている。姓を同じくする一族で占められた村も多い。

沢山ある見所の中で、今回僕が行きたいのが「河回村、ハフェマウル」。ここは600年余り、朝廷でも権勢を振るった豊山柳氏が代々暮らしてきた村で、様々な両班文化の遺物が残っている。現在も昔ながらの韓家が立ち並び、数百人の村人が暮らしているという。

安東郊外の里山を流れる川が村を囲むように流れ、独特の景色を見せているこの地は、風水上も住むのにふさわしいとされている。そしてこの村で、伝承されてきた庶民の遊びとしての仮面劇、河回別神クッタルノリがを見学できる。

河回村へは明日行くことにして、別の観光スポットを探した。案内所でもらった資料に安東民俗村というのがあった。バスの本数は少ないけど片道30分なので夕方には戻れそうだ。

バス停にいくと相当年代物のバスが待っていた。乗客は僕一人、観光地なのに不思議な気がした。バスは市街地を抜けると大きな川沿いを山に向かった。ダムを過ぎさらに上流の橋のたもとでバスは停まった。あたりには人影も無く、バス停の標識も見当たらない。

川に沿って公園が広がり、道路を登った山の斜面に韓屋風の建築物が点在している。あんなところが民俗村なのか、予想したのとずい分違うようだ。なんだか心細くなってきた。仕方ないので見えている韓屋のほうへ歩いた。あたりはさびれた売店がポツンとあるのみで人影もまばらだ。

登っていくと確かに数軒の時代がかった屋敷があるが、なんの案内板もなく誰もいない。ここが観光スポットなのか、不審に思いながらさらに登ると城壁が見えて来た。

やれやれ着いたかと大門をくぐる。古い屋敷が立ち並ぶ一角に出たもののやはり無人だ。さらにその奥には幾棟もの建築中の韓屋が見えている。どうやら大がかりな拡張工事中の真っ最中のようだ。だから観光客がいないのだ。

無人のお屋敷街を見物した僕は帰ろうとして途方にくれた。バスにはどこで乗るのだろう。降ろされた場所はバス停では無かった。バス時刻表には橋を通るのは特別便とある。

帰りのバス停はどこだろう、日も傾き始めた無人の韓屋村で、僕は進退窮まった。歩いて戻るのはとても無理だ、人を探してバス停をきくしかない。

歩き回るうちに工事事務所らしい建物が見えた。誰かいたら訊いてみよう、そう思って近よると男が3人出て来た。打ち合わせ中だったらしく、若い男は図面を抱えている。早速バス亭を尋ねるが言葉がうまく通じない。しかし他に手段もなく、僕は安東市内へ戻りたい、バス停はどこか、と下手くそな英語で繰り返すした。

「最終目的地は安東駅か?」若い男が突然カタコト英語で言った。

僕はあわててうなずいた。すると3人で何事が相談を始めた。話が終わると、スーツ姿の男がいかつい作業服の男に何事か指示した。指示された彼は僕に向かい、何か言いながらかたわらの小型トラックを指した。多分これに乗れということだろう、僕はどんな話がついたのか分からなかったが、急いで乗り込んだ。

相当年代物のトラックは荷台は勿論、座席まで資材で溢れていた。僕は座席の隅になんとか場所を確保してホッとした。シートベルトを締めようとしたが壊れている。見れば彼のベルトも運転席の脇にたれ下がったままだ。気になったが乗せてもらった身だ、どうしようもない。

トラックは夕闇の中を走りだした。安東駅まで行けばホテルはすぐだから、なんとか駅までいってほしい、と僕は彼にカタコト英語で訴えた。しかし全く彼には通じないようだ。仕方ない、分かってくれてると彼を信じるしかない。

山を降りた車は大きな川沿いを走っている。外はもう真っ暗闇だ。やがて来る時に通ったダムの灯りが見えて来た。どうやら安東市内へむかっているようだ。身振り手振りの会話でなんとか分かったことだが、彼は隣町から現場に通う職人だった。そのため安東市内の道路は不案内らしい。

それでも町の入り口の、見覚えのある交差点に差し掛かりホッとする。市内を順調に走っていると、道路脇の空き地から突然現れた警官に車を停められた。やばい、検問だ。僕はあわててシートベルトを探ったが遅かった。警官の懐中電灯に照らされ、彼と僕のベルト無しが発覚した。

若い警官だったが、いずこも同じだが、説教口調で彼に盛んに文句を言う。彼は大きな身体を小さくし、言い訳に必死だ。「この日本から来た年寄りが道に迷い可哀そうだったのでつい乗せて来ました。急いでいたのでうっかりベルトのことを忘れていました。スミマセン。」多分こんなことを言ったと思う。

乗せもらった上に交通違反で迷惑かけたら大変だ。僕も必死で訴えた。「日本から観光に来て安東の民俗村で迷子になってしまった。このドライバーは頼まれて僕を乗せただけで悪くありません。」

僕の英語がどの程度理解してもらえたか分からない。そのうち警官は僕らが二人でわめくのに根負けしたのか、しょうがねえなー、これからは気をつけろよ、という感じで僕らを解放してくれた。これで恩義ある彼に迷惑をかけずに済んだ。僕は胸をなでおろした。

駅について降り際、失礼かもしれないが他に方法も無いので、僕は心からのお礼の気持ちをこめて、若干のお金を彼に差し出した。すると彼は、とんでもないという風にその逞しい腕で突き返した。仕方なく僕は頑丈な彼の手を握り、カムサミダ、カムサミダ、とこれしか知らない韓国語を繰り返した。(続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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