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ボーダーを越えて
133 園遊会で
2008年5月29日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 園遊会で自作の詩を読むダンテに寄り添うアントニア。
▲ このテーブルは前菜だけ。別なテーブルに主品、そのまた別のテーブルにデザートがいっぱい。(ピンぼけ写真でスミマセン。)
▲ 園遊会で決まってハープを弾くホセ。
ダンテとアントニアという友人夫婦が友情謳歌のために毎年開く園遊会に、 先週末招かれました。彼らの庭は我が家の庭より広いのですが、手入れの点から見るとうちとどっこいどっこいで、園遊会(garden party)などという言葉から連想される上流階級の優雅なパーティーとはほど遠いもの。でも、世界観や信条を共有する友人たちが大勢集まっていっしょに過ごす時間は本当にかけがえのないものです。

主催者が主品を出しますが、前菜やデザートは持ち寄りです。ダンテはイタリア系、アントニアはドイツ人、彼らの次男の連れ合いは台湾出身の中国人、と国際色の強い家族ですから、交友仲間も多種多様。そのことが持ち寄り品に反映されて、とても楽しいものです。私は稲荷寿司を50個作って持って行きましたが、たちまちのうちに消えてなくなりました。

ハイスクールの英語教師だったダンテは詩が大好きで、園遊会では必ず自作の詩を朗読しますし、彼の仲間も自作の詩を披露します。管理人さんの渡米報告や私の山火事報告で何度も紹介したホセ・スミスはもちろんハープを演奏してくれ、またギターを奏でる人もいます。

音楽も詩も自分ではやらない私は散文を披露することにしました。題は「1968年」。今年は世界中で大きな荒波が立ったあの年からちょうど40年になリ、その回想がちょっとブームになっているのですが、私にも特別な感慨があり、それをまとめてみたいと思っていたのです。5分ちょっとで読み上げられる短い文章を4、5日前から書き始め、耳で聞いだけでわかりやすいような簡潔な文に、と最後の最後まで練り直しを繰り返しました。これならいい、と思える文章がやっとできあがったのは当日の朝です。

園遊会には100人近くの人が集まっていたでしょうか。青空の下のテーブルの1つを陣取ってバッグを開いてみたら、原稿がない!(英語だったら「Oh sh*t!」 と言ったことでしょう。)確かにプリントした原稿を4つ折りにしてバッグに入れたつもりなのに… バッグの中身を全部出してみたり、念のため車に戻って探してみたりしましたが、どこにもありません。トホホホホ…

「記憶を辿ってここで再構成したらいい」と、トーマスは言って私にペンを渡してくれました。でも、100%再構成するのはとても無理です。それに、何度も書き直して心を配って一言一句を選んだものを中途半端な形で発表したくありません。それならむしろ、原稿「1968年」の骨子をアドリブで伝えた方がいい。そう思って、以下の様な話をしました。

「1968年は私にとっては大転機の年でした。
私の思い出の1968年は、真っ赤な炎に満ちた戦闘場面の映像から始まりました。ベトナム戦争でのテト攻勢です。当時私は病床に臥している母のことで頭がいっぱいで、大巨人に立ち向かっているベトナム人に強い関心を持つ余裕がなかったのですが、テト攻勢から、何か大きな変化が展開されている、と感じさせられました。

それから5週間後に、母が42歳になる直前で亡くなりました。私は20歳でした。でも、そのことに心を奪われてなどいられませんでした。母の容態悪化が長く続いたおかげで、学年末試験を受けられなかった課目がいっぱいあり、追試験の日程が迫っていたのです。母を火葬にした翌日、私は急いで大学に戻りました。すでに春休みになっていた大学の構内はガランとしていましたが、親友が私を待っていてくれました。大きな教室で試験を受けていると、窓の外で親友ともう1人の友だちの気配がし、その友だちが大きな声で、「雨宮さぁん、頑張ってくださいね!」と、外から声援してくれました。母を失った私は、友人だけが心の支えだったのです。

それから3週間後、私は奈良のお寺巡りをしていました。母の死を哀悼するとともに、心の平穏を得たかったからです。そのときです、キング牧師の暗殺のニュースを聞いたのは。大変なショックでした。公民権運動については、母といっしょにテレビ報道をよく見ていたのです。その人たちに平穏がもたらされなければ、自分にも平穏はあり得ない、とそのとき思いました。そして太平洋の向こう側で苦しんでいる人々の悲嘆を、私も味わったのです。

テト攻勢、母の死去、キング牧師の暗殺という3つの出来事は、私の人生の大変化の標識となりました。同時に、人間の尊厳を求めて闘っている人々のおかげで自分は存在しているのだということを忘れてはならないという倫理指針となったのです。

あれからちょうど40年になります。私の倫理指針は、思い遣りを持った生き方へと導いてくれたと思います。でも、母の死後、私は心の指針を失って長い間彷徨い、漂ってしまいました。それでも沈まずに生きて来られたのは、この40年の間に出会った人々や友だちのおかげです。そして、心の指針を人生のパートナーと立てて、もう彷徨うこともないでしょう。

1968年から40年経ったいま、私たちは世界中の環境、経済、政治などあらゆる面で、これまでに前例がなかったほどの大変化に直面しています。1968年のときよりはるかに根本的な変化に対して、私たちは目下試行錯誤しています。でも、私は40年前の様に途方に暮れた感じがしません。友人たちといっしょに、新しい地平を開き、新しい道程が進められるように感じられるからです。」


話し終わると、拍手が沸きました。私と同年くらいの男性が、とっさに白いバラの花を摘んで、私に渡してくれました。みんなそれぞれ1968年への思いを胸に秘めているのでしょう。でもそこには共通するものがあった、それに私の言葉が触れたのだと思います。話してよかった、と思いました。


帰宅してみたら、4つ折りされた原稿は、ちゃっかりキッチンのカウンターの上に置いてありました。やれやれ… 


(追記)大学在学中に(卒業後も)私に声援を送り続けてくれたのは齋藤恵さんです。本当に長い長い間、助けてくださってありがとうございます。でも、窓の外から大声を出して声援を送ってくれたのは、学生時代から紳士だった齋藤さんではありません。中尾さんという豪快な方でした。その中尾さんはすでに他界され、流れた時間の長さを改めて感じさせられます。

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