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ボーダーを越えて
136 あと3日
2008年11月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ サンディエゴのある家では道路に面した前庭に仕組むハロウィーンの飾りに、マケインとペイリンの墓石とペイリンの足を配置しました。(写真提供=Maricler Mosto)
ハロウィーンが過ぎ、いよいよ総選挙の投票日まであと3日。ドキドキハラハラしています。オバマ優勢とはいっても、油断はできません。心配で心配で、毎日キャンペーンの動向や分析を新聞やインターネットで読みあさるのは止められません。数字を見る限りでは楽観できるのですが、心配なのです。

統計好きのアメリカ人は毎日細かい統計で情勢を分析しています。その中で、以下のサイトは細かく、しかもわかりやすいです。
http://www.fivethirtyeight.com/

こんなに大統領選挙に気を取られるのは初めてです。1992年にクリントンが現職のブッシュ(父)に挑戦したときは、それまでの12年間、ホワイトハウスを占領していた共和党に辟易していて、民主党の大統領候補に投票するのが待ちきれない思いでした。でも、今回はそれ以上の思い入れがあるのです。

投票の当日ぎりぎりまで何が起こるかわからない、いや、マケインのキャンペーンがどんな汚い手口を持ち出すか、あるいはブッシュが何をしでかすかわかりません。また、民主主義の「先進国」であるはずのアメリカで民主党候補に投じられた票が盗まれる可能性があるというのも心配。そして、有色人種、特にアフリカ系に対する白人の偏見の深さがはっきりと表面に出て来たのが心配なのです。

まず第一に、マケインとペイリンが大統領・副大統領になったら、アメリカはますます恐ろしい国になるだろうという恐怖感が私にはあるのです。ゴリゴリの右翼で世界情勢に完全に無知なペイリンをマケインが副大統領候補に選んだのは、共和党の地盤を固めたかったからなのでしょうが、当選を狙う以外にはマケインにはアメリカ社会の将来に対してビジョンがないことを物語っています。金融危機に直面して、マケインは対処しているというポーズを取ることしかできないということを見せつけてしまったのも、同じことです。マケインは大変に短気で衝動的な行動をとりやすいというのは知られていますが、これではブッシュがずたずたに切り崩してしまったアメリカ社会と海外での名声を立て直すことはできないでしょう。大国が傾くと、大地震が引き起こす津波のように弱小国を押し潰してしまうだろうということが怖いです。

しかも、マケインが大統領になったとして、彼に万が一のことがあったら、ペイリンが大統領になる…考えただけで恐ろしい。登場当時、ペイリンは人気を集めましたが、それは長続きせず、有権者の核を成す中道派に対してペイリンはマケインの重荷になってしまいました。マケインがペイリンを選んだことでオバマ支持に回った著名な保守派もいるくらいです。そのことだけが理由ではないでしょうが、マケイン・ペイリンのキャンペーンは藁をも掴む感じで、汚い手口でオバマ中傷を展開しているのです。投票日直前まで、何をしでかすかわからない…

第二の心配は、投じられた票の操作です。2000年にフロリダ州で民主党候補のアル・ゴアに投じられた票が捨てられたり、圧倒的に民主党支持者が多いアフリカ系有権者の中に投票を妨害させられた人々が続出した記憶はいまだに生々しいですよね。そういう問題の再発を予防するという名目で、2004年には多くの州が電子投票機を導入したのですが、その機械や投票システムが問題でした。サンディエゴでは機械がうまく始動しなくて、投票が何時間も遅れた所がありました。それはまだまだいい方で、オハイオ州では民主党の地盤地域の票の多くが集計の際に消えてしまったのです。実はこの電子投票システムを扱う会社は共和党と深い関係にあって、意図的に民主党の票を奪ったと断言できます。独裁国家が形だけの選挙でごまかしているのとまるで同じ。2004年も接戦でしたから、ブッシュは2度も続けて票を盗んで大統領に収まったようなものです。

今年は電子投票システムの問題もさることながら、有権者名簿から名前を外してしまうという問題も既に起きています。主として、接戦が予想されている州で、標的になっているのはアフリカ系とラテンアメリカ系の人々です。それで、投票日の前に有権者名簿に自分の名前がちゃんと載っているかどうか確認するようにという呼びかけられているのですが、全く民主主義を誇る大国にふさわしくない有様です。

でも、一番心配なのは根強い人種偏見です。8月末までそのことは表面に出て来ませんでした。それまでどちらが優勢ともつかなくて、アフリカ系人がアメリカの大統領になるかもしれないという実感がまだなかったからかもしれません。ところが金融危機に直面すると、はっきりした方針が見つからないまま右往左往するマケインに対して、終始一貫冷静さを保ったオバマが大統領にふさわしく見え始めました。彼の人気が上昇し始めたのはこのときです。同時に「ブラドレー効果」(Bradley effect)のことも語られるようになりました。「ブラドレー効果」というのは、アフリカ系に対する偏見が選挙予測とは違った実際の結果をもたらすことをいいます。人種差別主義者と思われたくないため、世論調査ではアフリカ系候補者に投票すると答えても、実際には反対の投票をすることから起こる現象を指しているのです。ロザンジェルス市長として人気のあったトム・ブラドレーが1982年にカリフォルニア州知事選挙に民主党候補として立ち、世論調査では終止優勢を保っていたのに、蓋を開けてみたら共和党候補に破れたことからそう呼ばれるようになりました。「ブラドレー効果」を計算に入れたら、オバマ優勢の幅はもっと縮まるといわれています。

更に気になるのは、アフリカ系に対する人種差別観が表面化してきたことです。オバマは経験が浅いから信用しないと言いながらペイリンの未経験さや無知には寛容でいられる人は、根底には人種偏見があるのだと思いますが、そういう人は自分が人種差別をするとは思ってもいません。ところが、オバマには投票しないと言い切って、なぜと問われると、黒人だから、とはっきり言い切る人が少なからずいることがはっきりしてきました。そういう人は共和党がまたホワイトハウスを握ったら損をするような勤労階級に多いのです。我が連れ合いの仕事仲間では、トラックの運転手やブルドーザーの操縦士がそうなのです。普段はとっても親切でやさしい人たちなので、連れ合いも私もびっくりしてしまいました。黒人が大統領になったら、黒人全体が白人に仕返しすると本気に畏れて、オバマには投票しないと決めている人もいるようです。それはこれまでの人種差別を黙認するようなものだと私は思うのですが…

私の心配とは関係なく、オバマが勝てばアメリカは変わる、いや、すぐ変わらなくても変わる方向へ一歩踏み出すことになるという希望を燃やしている人たちが今回の大統領選挙を盛り上げています。投票してもどうせ自分たちの声は政治には反映されないから、とこれまで選挙には無関心だったアフリカ系の人々や、自分たちの力で社会をいい方向に持って行こうと張り切っている若い人たちが、選挙民登録や投票を積極的に押し進めています。この人たちの希望が生きるためにも、オバマに勝ってほしい、いいえ、大勝してほしい。

ドキドキハラハラしながら、私も希望を燃やしているのです。 

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