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16 失われた楽園
2005年1月1日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ 春を待つリング。
▲ ネックレスとピアス
雪の中で見つけた新芽のような…。
ビーズを挟むシルバーはタイで求めたもの。
大晦日の大雪。「午後から大荒れ」との天気予報をさして気にとめず、私は暮れの最後の買い物に車で出かけた。買い物をしているわずか20分ぐらいの間だったろうか、降りしきる雪で道路は真っ白に埋もれてしまった。

それでもなんとか家に近い坂道までは来たものの、坂を登ることができず、結局は商店街まで戻り、路上に車を残し歩いて帰宅することにした。

一年最後の日のこの思わぬ出来事は、2004年という年を象徴しているように思えた。2004年は天災と自然災害の年だった。世界中が大型台風やハリケーン、洪水、地震に見舞われた一年だった。

2004年の終わりの2か月、私はなにか無気力感にとらわれていた。物をつくるというささやかな幸せは、そんな大きな災害や変動の前でなぜか無意味なことのように思えてならなかった。こんなことをしていていいのだろうか…そんな思いが後から後から襲ってきた。

「ビーズな日々」に何を書いたらいいのだろう。とっかかりが見つからずにいた。タイでの楽しかった思い出? ビーズづくりの日々? エッセーのタイトルリストには20項目以上書き連ねてあるというのに…。なにか決め手に欠けていた。

タイと日本を行ったり来たりするなかで受けた刺激や考えたこと…ビーズや石のかけらを集めたモザイクのようなもの…それこそが「ビーズな日々」の中身だった。

私は、1996年から1999年の3年間、タイ・バンコクに住んでいたが、帰国してからも年に1,2度はタイに旅行した。私にとって、タイという国はいつも私を元気付けてくれる特別の場所だった。

大好きなゴルフとの出会いも、ビーズアクセサリーづくりとの出会いもまたバンコクでの生活がきっかけだった。帰国して6年、行き詰まりを感じると、なにか新たな刺激を求めて、私はタイに旅行した。南の国タイはまさに私にとって、日常からの逃避の地であり楽園だった。

そしてプーケットは、楽園のなかの楽園だった。夢のようなレストラン、白い砂浜と木陰の風、ジリジリと照り付ける灼熱のゴルフ場でのゴルフ…。しかし、この年末、TVニュースから流れる映像は、すさまじい惨事を伝えていた。これほど突然に、一瞬にしてすべてが失われるという事実に私は胸が震えた。いままでの私の中の何かがガラガラと壊れていく気がした。

つい10日ほど前、私はタイ旅行から戻ったところだったが、その数日後、スマトラ島沖地震は津波となってアジアの国々を大惨事で呑み込んだ。この胸の痛みをどう表現したらいいのだろう。

ある人に言われた言葉がある。「ビーズな日々」は「ピース(平和)な日々」でもあるのではではないかと…。そうなのだ。私のささやかな世界は、世の中の動きとは一見無関係に見えるが、こんな大きな天変地異のまえには脆くも簡単に崩れ去ってしまう。しかし、だからこそ、ものをつくり続けられる幸せ、平和のありがたさを今あらためて思う。

これからは、ビーズ1つ1つをつなぐように、アクセサリー1つ1つを誕生させるように、一日一日思ったことを書きとどめていこう。それが私の新しい「ビーズな日々」になるだろう。

凍り始めたように思える雪道、私はとぼとぼと少しずつではあるがわが家に近づいていることを実感していた。

失われた楽園…増えつづける被害者の数。だが、いつかまた楽園は取り戻されるに違いない。人びとの手によって少しずつ…。そう信じたい。
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