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僕の偏見紀行
169 越南二人旅(3)ホイアンのバレンタインデー
2014年3月18日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホイアンの道端で購入した紙細工のいろいろ。ホイアン名物だと思うが、ホーチミンの路上でも売っていた。しかもホーチミンが少し安かった。たまにはこんなこともあるさ。
▲ ホイアン市場の果物屋。色とりどりの旬の果物で一杯だった。
▲ ホイアン最後の夜、ホテル食堂で食べた魚料理。名前は聞いたが忘れた。白身の淡白な味わいがアジア風のソースによくあっていた。
ホイアンで僕はちょっとした用件を抱えていた。前回訪れた際に知り合った旅行社のおっちゃんとの約束が未だ果たされていない。通りに面した事務所で一人、暇そうにしていた彼を見かけたのが始まりだった。異国での出会い、といってもそこはおっちゃん同士、なにもドラマチックな展開はなかった。ツアーや列車のチケットを手配しただけのことだが。

ただなんとなくウマが合った彼の写真を記念に撮ってあげ、後で送るから、といってそのままになっていた。旅の支度をしながらあわただしく数枚をプリントして持ってきた。

彼が大きく両手を上げた一枚は、僕があまり値切るものだから、もうお手上げというポーズなのだ。しかし僕にしてはよく値切ったと思ったのが、後で相場と比較すると大差なかった。うまくあしらわれたのだが、どこか憎めないところがあった。

おぼろげな記憶を頼りに彼の事務所を探した。たしか通りに面してカウンターがあり、そこに両ひじにあごをのせた彼がいたのだが。似たような建物があったがカフェだった。旧市街はどこも古い民家を改造しているのでよく似ている。

念のために通りを変えて歩いても見つからない。彼に教わった名物麺カオラウを食わせる食堂はちゃんとあった。同じ通りだったからこの辺りにあるはずだが。

しかし結局見つからなかった。旅行社といっても小さな会社でホイアンの事務所のスタッフは彼一人のようだった。閉鎖したか、場所が変わったのだろう。日本から持参した数枚の写真はそのまま持ち帰ることになった。

旅行社探しを諦めた我々は何かお土産にいい小物でもないか、と旧市街をぶらついた。すると、マダム、マダム、とTシャツなどを店頭に飾った店のおばちゃんが家内に声をかけてきた。見ると胸に大きく竜を描いた黒いTシャツがなかなかよさそうだ。僕の太極拳の練習着にちょうどいい。

僕のTシャツだけでなく家内も何か買うというので、まとめて値段交渉することにした。家内は涼しげな半そでのシャツ、麻に竹の繊維が織りこんであるという。軽くて手触りもいいようだ。

結局僕と家内合わせて4〜5枚買うことにして、1枚15ドルを11ドルに値切った。このおばちゃん、商売熱心で気のいい人だった。でも滞在中店の前を通る度に、マダム、マダムを連発するのにはいささか閉口した。

道端で紙細工を並べた露店があった。二つ折りの台紙を開くと花や動物や乗り物などが立ち上がる仕掛けになっている。花や動物・乗り物など、色紙を切り抜いた細工が面白い。ホイアン名物ランタンの影絵の技術を応用したのだろうか。

面白いのでいろいろ見せてもらった。気に入った家内はお土産に沢山購入した。軽くてかさばらないし手頃なお土産だ。この紙細工は町のあちこちに露店があった。大体同じ位の値段だったが、若い女の子たちが賑やかに売っていたところはとんでもなく高かった。外国人の多い観光地なので油断ならない。

旧市街のはずれに市場があった。昼下がりの市場では肉や魚の生鮮食品類は店じまいしており、花屋と果物屋が華やかな彩りを競っていた。パパイヤ・マンゴー・ランブータン・竜眼等、その他の名前を知らない果物で溢れている。極彩色の売場を眺めながら歩くのは楽しいものだ。

眺めるだけでつまらないので、驚くほど安いマンゴーやパパイヤなどを購入、ホテルに帰り食堂のスタッフに頼んでカットしてもらった。大皿一杯のフルーツをベランダで風にふかれて食べるのは幸せなひと時だった。

明日はフエへ移動するという日、たまたまバレンタインデーだった。ホイアンでは珍しく風が強く夕方には肌寒くなった。最後の夜くらいはホテルでホイアン料理でも食べよう、と食堂へ行った。プールのずっと先の夕闇の中にトゥボン川がほのかに黒い川面を見せていた。  

プールサイドの芝生の暗闇でホテルのスタッフ数名がなにか忙しく作業中だ。二人用のテーブルをいくつか芝生に並べ周りの樹木にはイルミネーションをを取り付けている。バレンタインのデイナー用かな、それにしてもこの寒い中、果たしてどんなカップルが来るのだろう。

普段からホテルの食堂で夕食をとる客は少なかった。観光地のホテルでは我々もそうだが、ディナーはその地の有名レストランや手軽な地元食堂へ行ことが多い。

時間も早かったので客は我々だけだった。寒いので屋内のテーブルに座る。係りの若い女の子に、ホイアン名物料理の旨いものを食わせて欲しい、と頼んだ。引き締まった顔立ちのこの子は優秀だった。的確な英語を話し、我々のリクエストに応えてメインに名物の魚料理をすすめてくれた。

やがて運ばれてきたのは、卓上コンロに乗った銀色の皿一杯に横たわる大きな魚だった。2枚におろされた魚の半身の上には様々な野菜・肉・果物等がのっている。そこに独特の味わいのソースがかけまわされ、コンロで炙られている。一見サケのチャンチャン焼き風だが、付近の川でとれたという魚は大きめのタイに似ていた。

火が通り真っ白になった切り身をソースや野菜と絡めて食うと実に旨い。淡水魚をこんな食べ方をしたのは初めてだ。メコン川流域では魚といえば川魚だが、気になるような臭みは全く無い。日本の鯉こくなども、泥臭さを抜くのにずい分手をかけているが、ここではどうしているのだろう。ウマイ、ウマイと二人で食うとすすめてくれた女の子も喜んでいた。

ふと気づくとすこし離れたところに中年の男性スタッフが、何かものいいたげな様子で立っている。食堂のスタッフのようだがどうしたのだろう。尋ねてみるとバレンタインに関することらしい。

聞き取り難い彼の話しを何度か聞くうちにやっと分かった。バレンタイン用にチョコレートケーキをスタッフで作った。もし差し支えなければ見るだけでいいから見てほしい。彼の後ろで先ほどの女の子が、、その話やめといたほうがいいのに、とでも言いたげな様子で見ている。しかし不器用なおっちゃんが熱心に勧めてくれるのを無碍にも断れない。

うなづくと彼は喜び勇んでケーキの皿を持ってきた。真ん中にハート型のチョコレートケーキ、周りを白いクリームのデコレーションが取り巻いている。そして皿の縁にはさくらんぼの赤い実があしらってある。シンプルといえばシンプルで素朴な一品である。

芝生のイルミネーション付きのテーブルにこのハート型ケーキ、スタッフがいろいろと考えて工夫したのだろう。いささか時代遅れの、不器用なしつらえだけど熱意はよく分かる。味わうとごく平凡なケーキの味がしたが、なんとかお客を喜ばそうというスタッフの思いはよく伝わった。

せっかくのバレンタインというのに、この日はホイアンでは稀な寒い夜だった。僕らが食堂にいた2時間ほどの間、芝生のイルミネーション席には誰も来なかった。もちろんスタッフ苦心のチョコレートケーキのオーダーも無かった。(続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
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52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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