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僕の偏見紀行
170 越南二人旅(4)ハイヴァン峠を越えて
2014年3月23日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ハイヴァン峠の砦跡。観光スポットらしき案内もなく静かに朽ちていた。それが一段と時の流れを感じさせる。
▲ 峠の茶店土産物売り場。トイレ帰りの客に土産物を売るオバチャン。迫力があった。
▲ フエのシクロ乗車初体験。スリリングで楽しい。
フエへの移動には車をチャーターした。旅行社が運行するバスがあるが、朝7時か午後2時発の便しかなく不便だった。ホイアンからフエは100数十キロ、ゆっくり走ると3時間半ほどかかる。朝食をゆっくりすませ、午後の早い時間にフエに到着するにはチャーターするしかなかった。

滞在中、旧市街で目に付いた旅行社数軒でチャーターの相場を調べた。大体60ドルから70ドル前後だった。最後に寄ったところでは威勢のいいオバチャンが歯切れのいい言葉で一声、55ドル、ここに決めた。

一番安いところにしたのでちょっと心配だったが、約束の朝10時にホテルに来た車を見て安心した。小型のランドクルーザータイプ、年式は古そうだがよく磨いてある。ドライバーは無口な中年男、彼は必要なことしか喋らなかった。

フエまで直行するか、途中であちこち見物していくか、ドライバーが尋ねた。直行で約3時間、寄り道すると3時間半だという。せっかくだから寄り道で行くことにした。

車は3日前来た道路をダナンへ戻り、さらに北上する。ダナンの街を過ぎた頃、道路の向こうに山が見えて来た。近づくと切り立った崖の上に仏塔らしいものが見えてきた。ガイドブックによるとトゥイー山という大理石の山らしい。麓には沢山の石材店が軒を連ね、邸宅の庭にふさわしいような巨大な石像や彫刻を所狭しと展示している。

その中の一軒に車は停まった。物慣れた様子でドライバーは店内に入って行く。お客を連れて行くことで石材店と何か取り決めがあるのだろう。判ってはいたが話のタネに見学することにした。大理石の仏像、ミロのヴィーナス風の彫刻、ウマやトラ等の動物の像が所狭しと並んでいる。その中をいかにも金持ち風の男たちがあれこれ品定めをしている。見たところ中国人のようだ。

石材店を出て暫く走ると車はハイヴァン峠に差し掛かった。ドライバーがポツリという、これから暫く難所だ。言葉通り、車は九十九折の急勾配を登り始めた。右横に見えていた海岸線がみるみるうちにはるか下になった。遠く広がる大海原はさらに北上すると南シナ海からトンキン湾へと続く。

南北ベトナムのほぼ中央、南シナ海を眼下に望む峠は古くから交通の要衝であり、重要な軍事的拠点でもあった。たどり着いた峠の高台には砦跡が朽ちかけていた。

峠の茶店でトイレ休憩。店内は土産物の陳列台が所狭しと並び、その奥に赤ペンキで大きくWCと書かれているのが見えていた。ところがこのトイレ、なかなか一筋縄ではいかないところだった。売り場の先、こちらから見える場所にいきなり個室が向かい合わせに奥に向かって並んでいる。右側が男性、左側が女性、その間に仕切りなど無かった。

さらに手強かったのは陳列台のオバチャン達、迫力のある顔で客の前に立ちはだかり、買え買え、と迫るのだ。気の弱い客にはここはちょっとした難関だった。

辛うじてオバチャン達の攻勢をかわした僕らは砦跡に登った。南シナ海を望む高台には壊れかけた物見台やトーチカが放置されていた。壊れた壁の鉄筋や窓枠は錆に覆われ過ぎた時間を思わせた。ここは19世紀初頭に建設され、先の大戦では日本軍が、ベトナム戦争では政府軍が利用したという。

路線バスや急ぐ車はこの峠を越えない。既にトンネルが掘られているので大半はそれを利用する。九十九折の峠道を越えるのは、雄大な景色や砦跡を楽しむ車だけだ。僕らも車をチャーターして幸運だった。

峠を降るにつれ景色が変わってきた。太陽が輝きを増し風がぬるくなった。窓の外は冷涼なダナンより暑そうだ。ガイドブックによるとハイヴァン峠を境に人情や気候風土がガラリと変わるらしい。

やがて右手下に明るい海面が見えて来た。手前の小さな入り江を囲むように砂洲が延びている。砂洲の中を道路が走りその脇に建物が見えている。白砂と青い海そして並木の緑が美しい。近づくとそれはマンゴーの並木だった。延々と続くマンゴーの木、初めて見る光景だ。

ランコー村という漁師町だが最近はリゾート地としても人気が高まっているらしい。ドライバーの勧めにしたがってここでランチをとることにした。海辺の海鮮レストランという雰囲気の食堂に入る。未だ旧正月の名残りが残る玄関先は黄色い花の鉢植えで一杯だった。

ドライバー一押しの魚のから揚げとエビの麺を頼んだ。巨大な魚の輪切りに甘辛ソースのかかったから揚げは美味しかった。しかし僕ら二人でもてあますほどのボリュームで少し残してしまった。僕はドライバーが遠慮して頼んだ定食、肉と野菜の炒めもの・スープ・ご飯のセット、が旨そうに見えて気になって仕方なかった。

ランチでゆっくりしたので結局フエのホテルに着いたのは出発して4時間後の2時頃だった。ドライバーは愛想のいいほうではなかったが、腕は確かで快適なドライブだった。フエの地理にも明るく、車は迷わず無事ホテルに到着した。

ホテルは四つ星の中級クラス、安かったので部屋はジュニアスイートを予約したが、最上階の、僕ら二人にはとんでもなく広い部屋だった。せっかくの機会なので、童心に戻り二人で部屋を調べまわって遊んだ。

8畳間くらいありそうな浴室には巨大なジェットバスの透明のカプセルが鎮座していた。入り口の敷居は、透明な引き戸を開けてヨッコラショと掛け声でもかけないと上がれないほど高い。内部は、壁面から天井まで一面に銀色のパイプが走り、いたるところにレバーや水栓、噴出孔が並んでいる。ただなんの案内板も標示もなく、どこをどうすればどうなるのか、サッパリ分からない。

しょうがないのでフロントに電話して係りを呼んだ。2回も来て貰い辛うじて湯水の出口、温度調節、シャワーなどは理解できた。しかし巨大な湯船にお湯を満たすのは大変なのでジェットバスなどは使えず、結局利用したのはシャワーだけだった。

このホテルの通りには同様の中級ホテルやゲストハウスがいくつもあった。周囲にはツアー会社や手軽なレストラン・カフェ・両替所が並び、旅行者にはとても便利なところだった。さらにホテルの斜め前には1k1ドルのランドリーもちゃんとあったのだ。

部屋のチェックを終えた僕らはホテル前からシクロに乗って市場に行くことにした。ベトナム初のシクロ体験、家内もいるので大事をとってドライバーとの交渉はドアマンの若者に頼んだ。

フエのシクロは、自転車前面の座席に客が乗り、ドライバーは後方で自転車をこいでいく。座席が狭いので僕らは2台に分乗した。夕暮れ近い異国の大通りを車やバイクの隙間をぬって走るシクロは楽しかった。

通り過ぎる街並みを眺めながら、隣を並走する家内とあれこれ喋るのも面白い。しかし混雑する市内のシクロは危険な乗り物でもある。フエ滞在中、僕らは車との接触事故を偶然目撃した。転倒したシクロの下敷きになった白人女性を夫らしい男性が必死に救い出そうとしていた。

シクロ初体験は楽しいものだったが、それ以後ホテル前にたむろするドライバー達が、僕らを見かけるたびに、イチバ(市場)、イチバと声をかけるのには閉口した。(続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
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32 ハワイ島滞在記(1)
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30 嗚呼!還暦大同窓会
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
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1 東北紅葉雪見風呂
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