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ボーダーを越えて
140 言葉雑感(6)ミルクとは
2009年1月9日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 読書からふと顔を上げたら、アメリカノウゼンカズラの影がカーテンにきれいな模様を映していました。
前回に続いて「ミルク」、と言っても、ハーヴィー・ミルクのことでも映画『ミルク』のことでもありません。牝牛から出る、栄養のあるあの白い液体のことです。

我が連れ合いは日本語は全然できませんが、日本語を真似するのは上手。日本語には外来語が多くて、それを日本語式に発音するということも知っていて、cakeは「ケーキ」、soupは「スープゥ」、そしてmilkは「ミルク」なんて真面目な顔でよく発音します。

私たちが日本へ行って伯母のところに泊まったときのこと。第一夜が明けて、朝コーヒーを入れてくれた伯母に、連れ合いが「ミルク?」と聞くと、伯母は「あれっ、困ったよ。ミルクはなかった。ごめんね」という返事。「あれっ,困ったよ」というのは、伯母の母親譲りの口癖で、そう困ることでなくても、つい口から飛び出るのです。なければお砂糖だけでいいのです。

朝食後、お散歩がてらに連れ合いと外に出て、近所を一回りしました。2〜3分歩いた所に小さなスーパーがあったので、小さなカートンの牛乳を買って帰りました。そんな私たちを見て、伯母は「まあ、牛乳を買ったの? うちにあるのに」と言うではありませんか。「だってさっき、ないって言ったじゃない」と言い返すと、「ないのはミルク」と言われてしまいました。

ミルクと牛乳は同じものなのに…と不思議に思ったのですが、どうやら「ミルク」とは、コーヒーに入れるための、しかもコーヒ−1杯分に小さなパックに入ったものなのでしょう。とすると、「ミルク」はmilkではなくて、特有な意味を持つカタカナ語です。

その前夜にも同じようなことがありました。成田空港から伯母の所に向かう途中、簡単な夕食を、と定食屋に寄ったのですが、レジでお金を払うとき、旅行中の出費の記録を取っておく必要上「領収書をください」と言うと、会計をしていた青年は「レシートじゃいけませんか?」と、レジから出て来た小さな紙切れを渡しながら言いました。へぇ…私はどんな形体でも「領収書=receipt=レシート」と思っていたのですが、どうもそうではないようです。器械のレジスターから出るのはレシートで、領収書というと、手書きのもうちょっと正式のもの、と使い分けるのですね。ウィキペディアで「レシート」を調べてみましたら、「領収書とレシートは本来は同義だが、日本では、キャッシュレジスターで発行される宛名のないものをレシート、それ以外のものを領収書と区別する場合が多い」とありました。やっぱり。

いわゆるレシートでは正式な領収書としては認められないことが多いから、という説明がありますが、それだけが理由ではないでしょう。もともとも英語の単語が日本語にはいると、グンと意味が狭くなって特有の意味になるという例がたくさんあるからです。

15年ぐらい前になりますけれど、建築中の我が家のことを日本の友人に話していた時、「床は?」と聞かれて、「板張りよ」と答えたら、「いまはそういう言い方はしなくて、フローリングって言うのよ」と言われてしまいました。でも(と、私はそのとき内心思ったのです)flooringというのは、床を張る材料のことで、木の板とは限らないのです。いま改めて「フローリング」をウィキペディアではどう説明しているか見てみましたら、「床を覆うための木質系の素材、およびそれらを用いた床を限定的に意味する和製英語である。英語のflooringは単に『床材』という意味であり、リノリウムや和室の畳も英語ではflooringである」とあり、私の考えと同じです。ただ、flooringという英語をカタカナにしてから意味が狭くなったので、厳密に和製英語といえるかどうか。(和製英語というと、サラリーマンとか、ガードマン、マグカップ、OLとか、英語には全くない言葉が思い浮かびます。)

こういうカタカナ語はちょっと見回しただけでも、たくさんありますね。たとえば「メール」に「アドレス」。普及し始めた頃には「電子メール」って言っていませんでした? 「メール」は英語ではe-mail(またはハイフン抜きにしたemail)、「郵便」はmailなので、「メール」はmailではない、ということになりますね。どうも頭がこんがらかって来そうです。「メール」が英語のmailから来ているのですから、「電子郵便」と言えばいいのに、それじゃスマートに響かないということなのでしょうか? 

同様に「アドレス」ではなくて「電子郵便住所」では野暮臭く聞こえるのでしょうか? (英語ではe-mail addressで、単にaddressというと、○○市○○通り○○番地という普通の住所です。)今年もらった年賀状を見ただけでも、こういうカタカナ語が随分増えたなぁと感じます。

英語を母国語とする人が日本語を学ぶとき、発音で一番苦労するのはカタカナ語なのですが(たとえば、McDonald’sをなかなか「マクドナルド」とは発音できない)、元の英語の単語からグンと意味が狭くなったカタカナ語にはかなり混乱するでしょうね。

逆に、カタカナ英語をそのまま英語の中で使うと、意味が通じないか、誤解が生まれたりする可能性がありますから、ご注意を。
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