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僕の偏見紀行
173 越南二人旅(7)メコンデルタをめぐる冒険
2014年4月13日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホーチミン下町食堂。毎日ここへ通って飽きることが無かった。
▲ 南アフリカから来たランチフレンドと記念の一枚。
▲ 2年前にやり残したことを実現して感激。
1週間ぶりにホーチミンへ戻った。道路を埋め尽くすバイクの流れは相変わらずものすごい。騒音と排気ガス、それに熱気が渦巻き、再びホーチミンに来たことを実感する。帰国前の3日間でお土産を買い、メコンデルタへのツアーに出かけるつもり、結構忙しい。

ホテルにチェックインしてすぐに市内へ出かけた。まずデタム通りへ行ってシン・ツーリストでツアーを予約、それから国営百貨店3階のスーパーで買い物の下見。いつもの一人旅ならお土産などあまり気にしないが。今回は家内連れなので土産を買うのも大事な予定なのだ。ケチな僕とは異なり、家内は太っ腹で買い物好き、帰国して子供らにお土産を配るのを楽しみにしている。

2年ぶりのバックパッカーの聖地デタム通りはなんとなく小奇麗になり以前の雑然とした雰囲気が消えている。シン・ツーリストの店内も、パソコンが整然と並ぶカウンターに人影は少なかった。システム化が進み事務処理が迅速になり混乱が無くなったのだろうか。

僕らのツアー申し込みもあっという間に終わった。明日のメコンデルタツアー、ランチ込みで一人10ドル、安い。チケットには出発時間と2年前には無かったバスの座席番号までプリントされている。

国営百貨店は変わらず混雑していた。しかも日本人観光客が多いのも変わらない。いや一段と増えている。特に3階スーパーの食品売り場は日本人で溢れていた。中年から若者まで、団体や個人まで多彩な顔ぶれだ。ホーチミンにやって来た日本人観光客の大半はここに来ているだろう。

ここはお土産として、ベトナム名物のハス茶やコーヒー、そしてニョクマム等の調味料が人気だ。我が家も沢山買い込む予定なので価格とサイズの下調べに来た。サイズを把握しておかないと荷造りに困る。価格は驚くほど安かった。

僕は知らなかったが、今やベトナムはブラジルに次ぐコーヒーの生産地らしい。日本の大手商社が農園開発から手がけ、今では大量に日本に出荷されているという。棚にはたくさんのコーヒーが並び、コーヒーになじみの薄い僕らはどれを選んでいいのか迷ってしまう。

コーヒー棚を物色する同年輩のご夫婦と出会った。コーヒーに詳しいようで、どのブランドの何番がいい、などと話している。さっそくどれがいいか教えてもらった。なんでも商社の駐在員からの情報らしい。僕らもその情報に飛びついた。

他の土産を探していたら日本語が聞こえてきた。しかも懐かしい九州弁。見るとスーツ姿の青年二人、食品棚のラーメンを取り出しては吟味中。量が多かとにこっちが安かですね、なんでやろか、と懐かしい響き。声をかけると九州のデパートから市場調査に来たという。あらためて場内を見回すと、他にもそれらしいダークスーツの男が数人、何やら話しながら商品棚の合間をうろついている。

我が家の土産調査も無事完了、購入するのは帰国前日にしてホテルへ戻る。すでに夕方近い時間になっていた。晩飯をどうしようかとロビーの案内係りに相談すると、ノートを開いていくつか紹介してくれた。しかしいずれも観光客向けでタクシーを使うほど遠い。

どうもピンとこないので、ドアマンの若者にも聞いてみた。地元の人が通うベトナム料理の店が近くに無いか?すると彼は任せておけ、という風に胸を張った。すぐそば、歩いて5分。とても旨い、そしてベリーチープ。

早速そこへ出かけることにした。夕暮れ時の大通りは一段と数を増したバイクがひしめきあい、交差点では信号をパスしようと歩道に乗り上げて走り去る。歩道といえども油断できない。ラッシュ時に食堂までたどり着くのはちょっとした冒険だった。

食堂は想像以上に大きかった。通りに面した店頭のショーケースには肉・魚・野菜のお惣菜料理が並び、スープ鍋がいくつも旨そうな湯気をあげている。奥のテーブルではすでに家族連れやカップルが食事中だ。テーブルの間をウエイターの若者が忙しそうに動き回っている。

僕らもテーブルのメニューを見たが全く読めない。仕方ないので店頭のショーケースを指差して注文することにした。簡単な英語を理解する店員がいて助かった。

注文したのは魚のから揚げ、肉の煮込み、野菜炒め、野菜スープそしてご飯。ご飯は洗面器くらいあるお鉢に山盛り。テーブル一杯のご馳走を前にして幸せを感じた。山盛りの白いご飯は長粒種独特の香りを放ち一段と食欲をそそる。これに野菜炒めやお肉をのっけてかき込む、言いようの無いほど旨い。

二人で腹いっぱい食べて、ビールも飲んで料金は800円前後、旨くて安い。ホテルにもどり食堂を教えてくれたドアマンに、とても満足したとお礼をいった。すると彼はわが意を得たりとうなづいた。結局僕らはホーチミン滞在中ここに毎日通うことになった。

メコンデルタツアーの朝、早めにシンツーリストへ行くと2年前とは様子が違う。オフィス前のデタム通りにバスの姿は少なく、当時は混雑していた店内も静かだ。システムが整い普通の旅行社になったということだろうか。そのせいかバックパッカーの姿も少なかった。

やって来たバスに乗り込むと定刻通りにバスは出発した。混雑した市街地を抜けると、バスは両側に田んぼが続く高速に入った。その中に点在する石造りの祠はお墓らしい。命の糧を頂いた大地に帰るという人生もわるくないなあ。

黄金色に実った田んぼ、青々として緑豊かな田んぼ、そして稲刈り中の田んぼ、が隣り合っている。一年中いつでも米が作れるのだ、これぞメコン豊饒のあかし。アメリカもフランスもこの大地に負けた。

メコン河口のデルタ地帯に到着、ボートに乗り換える。デルタの水路を抜け島に上陸してランチタイムとなった。熱帯ジャングルだが木陰のレストランは涼しくて心地いい。4〜5人ずつに分かれてテーブルに付く。既に巨大な魚のから揚げ・麺・香草等の大皿がセットされている。

隣にいた、僕らと同年輩の白人男性があわてて料理を自分の皿へ取り分け始めた。ノッポで痩せ型のこの男、ずうずうしいがひょうひょうとして、どこか育ちのよさを思わせる。そのうち係りの女性が現れ、から揚げの身をほぐし麺や調味料・香草と合わせてライスペーパーで巻いてくれた。肉や魚のメイン食材をこうやって生春巻きで食べるのがベトナム流と分かった。

それを見たこの男、あわてて麺や香草を元に戻す。周りはそれを見て見ぬふり、にくめないオヤジだ。話してみると南アフリカからの一人旅、奥さんを4年前に亡くしたらしい。今回はシンガポールやホーチミンの友人を訪ねてきた。

僕は彼に生活を楽しんでいるか尋ねた。すると、ポツリと一言、最悪だ。マンデラ以来すっかりダメになった、と急に真面目な顔で言う。どんな事情か分からないが、多分彼はイギリスからやって来た一族の末裔なんだろう。

いろいろ話すうちになんとなくウマが合って、彼と僕はランチフレンドということになった。食後並んで記念写真を撮った。小船でジャングルの水路を巡った時も、僕ら二人が記念写真を撮りやすいように席を替わってくれた。ぶっきらぼうだが親切な人だった。時々ダジャレを言うのには閉口したけど。

食後は島内を馬車で移動し、ハチミツ農園やココナツミルクキャラメル工場を見学、盛りだくさんのスケジュールが続いた。前回も思ったがこれで10ドルは安い、特に今回はランチが一段と充実していたので大満足。

最後に涼しい木陰で休憩しながら地元の民族音楽を鑑賞した。地元歌手の歌や珍しい楽器の演奏はサービスで聞かせてもらうには申し訳ないほどで、みんなステージ前の小箱にチップを入れていた。

演奏後の余興が始まった。ほんのオマケという感じだが、僕は秘かにこれを待っていた。前回は躊躇しているうちに機を逸してしまった。今回は必ず、と僕は心に決めていた。

茶店の女の子がソイツを抱えて現れた。待っていたソイツ、全長5mはあろうかというヘビ、なんというのか知らないが、いわゆる大蛇だ。希望すればこれを抱かせてもらえる、というか首に巻いてくれる。

僕はすぐに手を挙げた、しかしまたも一人の若者に先を越された。残念がっているうちに僕の番になった。肩にかけてもらったソイツを抱えるとズッシリと重い。首に巻いたソイツの頭を手でつかんで眺めた。頭部はこじんまりとしているのに胴体は異様に膨らんでいる。噛み付かないように腹いっぱい食わせているのだろうな。

冷たくヌルヌルしているかと思ったが、ヘビの肌は乾燥し少し体温も感じた。すると離れていた家内が寄ってきて、自分もやってみたいという。もともと動物好きなので好奇心に負けたようだ。

以下彼女の感想、乾いた肌とウロコがずれて動く感じが、毛の少ない筋肉質のイヌを思わせ、意外に可愛かった。しかし帰国したらこんなことは誰にもいえない。ヘビ嫌いの友人に絶交される恐れがある。

希望者は次々と現れた。若い女性も多かった。みんないざとなれば大胆なんだ。僕は2年越しの懸案が解決し満足だった。これで明日の土産の買い物が済めばこの旅も終わりだ。初めての家内を連れたアジア旅、想定外の出来事もあって家内には少し酷だったかもしれない。しかしそれもまた旅の面白さだろう。
(終わり)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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