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かくてありけり
9 帰還不能点
2003年3月14日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 先週末、ある本を探して本棚を隅から隅まで調べたが見つからず、捜索を終えてやっと思い出した。あれは部員のA君にずーっと貸したままだったっけ。

 その本とは「未確認原爆投下指令(原題『Fail Safe』)」という米国のSF小説で、1962年の作品だから、もう古典と言って良いだろう。内容は、冷戦下の60年代、防空システムの故障で、ソ連国境付近を飛行する米国の爆撃機への帰還命令が爆撃命令となって出されてしまい、誤りに気付いた司令部が指示しても爆撃機のシステムは口頭の指示を受け付けない。ついにはソ連側の迎撃もかいくぐってモスクワに原爆を投下してしまうと言う怖いお話だ。

 この小説のタイトル「フェイル・セーフ」はその後色々なところで使われ有名になった安全工学の概念だが、同時に知ったもう一つの言葉が「帰還不能点」である。英語のPoint of No Return(略称PNR)の訳語で、元は航空用語だ。

 航空機が長距離、特に洋上を飛ぶ時に、残余燃料ではもはや出発点へ引き返せなくなる地点をいう。航路上の地点や、出発地からの時間で示す。例えば太平洋上の機内で緊急の手術が必要な病人が発生した場合、まだ帰還不能点に達していなければ出発地へ戻る。すでに越えていたら、次の選択肢として目的地か途中の最寄りの空港を目指す。

 この言葉は、比喩的に、物事の進行過程で、そこを越えたら取り返しがつかなくなる時点の説明として使われる。医療分野で言う「蘇生限界点」も同様な考え方だろう。航空用語と違って「不可逆性」に重点が置かれる。

 ほとんど忘れかけていたこの言葉を思い出したのは、数年前に仕事の流れを点検していたときだった。
通信社は加盟新聞社に記事や写真を配信する。時間に追われながら作業していると、たまに間違いも起こる。早く気付けば新聞社に届く前に訂正できる。写真部の手を離れて整理部、校閲部、新聞社へと流れるどの段階のどのボタンが引き金になるのか?調べていて思った、「ああ、これは写真配信の『帰還不能点』を探しているんだな」と。
それ以来、変化する状況を把握する際は、この言葉を意識するようになった。

 比喩的に使う場合、途中で別の選択をしていたらどうなるかという思いがついて回る。
 自分の来し方を振り返ると、進学、就職、結婚など人生の節目で帰還不能点はあったと思う。その選択がよかったか悪かったかは別として、結果が今にある。
人の一生だけではない、企業や組織、さらには国家の選択にも言えるだろう。

 やっかいなのは帰還不能点が時として見えづらく、後になって気付く場合が多いことだ。
歴史を振り返ると、平坦な道を転がるボールが、いつそこにさしかかったか分からないまま緩い下り坂に入り、後は行き着くところまで行かなければ止まらないようなことが起きている。

 何が何でもイラクのフセイン大統領をたたきたいブッシュ米大統領。彼はすでに帰還不能点を越えたのだろうか?行き着く先に彼が見るのは捕らわれたフセインの姿であろう。しかし、我ら小市民に見えてくるのは、その背後に累々と積み重なるイラク国民の屍の山であり、拡大再生産されるテロの連鎖である。

追記
・この小説はユージン・バーディックとハーヴィ・ウィーラー・Jrの共著です
・小説中、原爆が投下されたことを知った米国大統領はソ連首相に、システム故障による不幸な結果であり、意図したものでないことを説明し、誠意の証としてある決断を下し実行する。その悲惨な結末は、、、。小説をお読みください。
・この小説は1964年「未知への飛行 フェイルセイフ」として映画化されています
・「ポイント・オブ・ノーリターン」はケミストリーの曲名にもなっているそうです
・本が未帰還なため、ディテイルに正確さを欠くことをお詫びします。おーい、A君、早く返しておくれよー!
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