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葉山日記
66 海坂
2005年9月29日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
▲ 1週間前に撮影した「中秋の名月」
▲ ことしはイチジクが豊作だ。ジャムをつくってみようか。
海辺に立って一望の海を眺めると、水平線はゆるやかな弧を描く。そのあるかなきかのゆるやかな傾斜弧を海坂と呼ぶと聞いたことがある、と藤沢周平は書いている。

「海坂(うなさか)藩」というのは、藤沢の小説にしばしば登場する、庄内(今の山形県)地方にあった幕府の一藩だが、実は現実に存在したことはなく、作者が創造した架空の藩名である。

と、ここまでは僕も知っていたことなのだが、長いこと、「うなさか」というのは庄内地方の方言、または独特の表現かと思っていた。が、違っていた。藤沢が若いころ関わった俳誌「海坂」から無断借用したのだ、と彼自身があるエッセイに書いているのを見つけた。しかも「海坂」の活動拠点は静岡である。

相変わらず「藤沢周平」三昧だ。会社から帰宅後、孫を風呂に入れ(というか一緒に風呂で遊び)、遅い夕食をして、「ニュースステーション」を見終わって、さてそれから眠りにつくまでの1時間が、僕にとっては1日のゴールデンタイムである。1歳半の孫との時間も楽しいことは楽しい。が、あくまで「孫は来てよし、帰ってよし」の存在だ。泣き叫ぶときなんかはうっとおしい。そういうときは、ほいと母親(息子の嫁さん)に返す。この、いつでも返品可能というところが、お気楽でよい。

このゴールデンタイムに面白くない本にあたってしまったときほど不幸はない。会社帰りに本屋により、2、3日に一冊ペースで本を買う。むかしと違って、ビンボーな今の僕にとって文庫本の500円、600円というのは、それなりにけっこう重い出費なのである。その選択の間違いを、このゴールデンタイムで気がつかされるのほど腹が立つことはない。図書館の本ならまだ許せるが、こちらはもちろん返品不可なのだ。

どうも最近の小説は、場面展開は激しく、偶然を積み重ねたようなトリックが多すぎる。映画やテレビ番組に仕立てるには都合がよいのだろうが、行間から浮き上がってくるような「何か」がないのだ。つまり文章それ自体がうまくない。

外れたときは、机のうえに山積みになっている藤沢周平の本をとりだす。一度読んだ本でも構わないのだ。つまり僕は小説に、面白いストーリー展開だけを期待しているのではなく、文章自体を味わいたい、という部分が大きい。

近々、藤沢の「蝉しぐれ」が映画公開されるが、彼がなかなか映画化を認めようとしなかったという理由がわからないではない。小説はストーリーだけで成立するものではない、ということを、藤沢自身がよく認識していたからだろう。

さてつい最近、都心にある娘夫婦のマンションで1週間ほどを過ごした。まだ子供もいず、旅行好きな2人が3日いじょう家をあけるときは、かならず親にネコ番要請がくる。といっても仕事は3匹のネコに朝夕缶詰の餌と水を与えるだけだから、なんということはない。

ネコは手がかからなくていい。いつも素知らぬ顔で、ベッドの下で手足を伸ばしているか、勝手に3匹でじゃれあっているか。人間に対しては、お愛想がないかわりに、手もかからない。まとわりつかないのはいいが、その辺がかわいくないところでもある、と、窓辺に座り込み、じっと外をみて考えごとをしている(ように見える)ネコの後姿をみながら、こちらも、まじめにネコ・マゴ比較論を展開したりする。

娘たちも無事帰ってきたのでお役ご免、自宅にもどったのだが、久しぶりの我が家のテレビ画面にどうも違和感がある。画面の粗さが気になるのだ。これまで意識しなかった画面の走査線がはっきりみえてうっとおしい。

考えてみれば、娘宅のテレビ受像機はいま流行りの液晶大画面、いっぽう我が家のそれはその娘から譲りうけた旧来型ブラウン管テレビ。画面のきめ細やかさがまったく違う。ふだん自宅ではまったく気にもならなかったのだが、いったん高画質を見てしまうともうだめだ。画面の走査線が一本一本はっきりくっきりと見えてしまう。世の中、大型液晶テレビが売れていると聞いてもあまり興味も湧かなかったが、はてこうも違うものか。

さて、この違い、違和感、最近感じたなにかと共通する、とふと思った。さてなんだろう、としばし考えて思い当たった。藤沢周平の文章のきめの細かさと、その他さいきんの作家の文章のきめの粗さ、の問題である。いったん藤沢の行間からにおい立つような文章の味を知ってしまうと、他の多くの作品の「走査線」がいやでも鼻につき始めるのだ。

こんなことを感じるのは、は僕が歳をとったせいなのだろうか。それとも、小説に文章のうまさが必要とされない時代になった、ということなのであろうか。

いずれにせよ、藤沢の文章のきめ細かさは、間違いなく、彼が俳句の鍛錬を若い頃に積んだ結果ではないだろうか、ということが「海坂」から想像できるのである。

=この項つづく
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