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寄り道まわり道
22 クヮナクの友人たち
2005年2月13日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲   「明るいブルーの櫛」という
        友人の注文でつくった。
    ヴェネチアンビーズ使用(上)
    チェコビーズと日本の丸小ビーズ使用(下)
▲   チェコビーズを編んで台に付け、
       金色のビーズで縁取りした。
韓国語のクラスは入学した時期によって分けられ、初級、中級、上級をそれぞれ3か月ずつ終えると卒業できることになっていた。月曜日から土曜日まで週5日、朝9時から午後1時まで4時間の授業だった。

クラスメイトは、日本や台湾、タイ、インド、アルゼンチン、イタリア、ドイツなどさまざまな国からの留学生たちだったが、大きくは国費留学生たちと、社会人になったものの休職し私費で留学してきた学生たちに分けられた。日本から来たのは6人、主婦は私と在日韓国人で韓国の男性と結婚したばかりのヨンジャという女性の2人だった。

当時、欧米でなく韓国をあえて留学先に選び、韓国語を学ぶ学生たちはどちからといえば地味な学生が多かったように思う。実際、欧米からの学生の中には、第一希望であった日本への留学が叶わず隣国の韓国に留学先を変えたという学生たちもいたが、それは当時の日本の経済成長と大いに関係があったろうし、今思えば日本からの学生たちへのリップサービスでもあったろう。

それでも、この1、2年のように、アジアを中心に韓国や韓国文化にこれほど関心が寄せられるようになろうとは、当時はおろかつい最近まで想像だにできなかった。韓国は以前から自国の伝統文化の伝承にとても熱心な国だったが、今は現代文化の面においても自信と余裕さえ感じられ、また韓国語に対する日本人たち(とくに女性たち)の見方が変わったことなどをみると、隔世の感がある。

授業が終わるとたいてい、私たちは何人か連れだってよく街に出かけた。買う気もないくせしてソウルで一番大きく近代的なロッテデパートの地下食料品売り場をうろつき、販売員たちを相手に習ったばかりの韓国語を試したりした。

あまり頻繁に行くので、そのうち販売員たちは私たちが単なる冷やかしで、自分たちは韓国語実習の材料にされているだけだと気づいたようだったが、おかしな集団の私たちを面白がってか、いやな顔もせずキムチや伝統菓子や惣菜を試食させてくれた。別に約束をしたわけでもないのになぜかそこにはクラスのおおかたのメンバーが顔を揃えていることもあった。

近くにはソウル一番の繁華街、明洞(ミョンドン)があった。学校に通いはじめて間もない頃、在日韓国人のヨンスンがサボイホテル前のトッポッキというお餅でできたおやつを売る屋台に私たちを連れて行った。

「甘くてとても美味しいから…」
ミョンスンのことばに、私たちは勢いよく真っ赤なソース和えのトッポッキにパクついた。ケチャップに見えたソースは実は激辛のコチュジャン(唐辛子味噌味)だった。私たちは顔の下半分がしびれたようになって、彼女に抗議しようとしたが口がきけず、それを見たヨンスンは本当に楽しそうに笑っていた。

そのトッポッキの半端でない辛さや、その近くにある南大門市場の路地に臓物といっしょに無造作に並べられている豚や牛の頭の横を抜けるとき蹴つまづきそうになるのが無性に可笑しく、私たちは笑いころげてばかりいた。

トニーは、ナポリ大学出身というイタリア人だった。南イタリア出身とあっていかにも陽気な感じだった。校内であろうが町中であろうが、会うといつも仰々しく、だがいかにも自然な動きで女性の手をとり手の甲にキスをする。私はそれが照れくさく身が縮む思いだったが、要領の悪い私はそれをどうかわせばいいのかわからなかった。

語学学校をいつまでたっても卒業しようとせず、次のステップである韓国国内の大学か大学院への入学を先送りにしていたのはトニーだけではなかった。本当は若いのかもしれないがその格好からか、私たちにはいい年齢に見える、帽子とポンチョ姿のアルゼンチンからの留学生、真面目に勉強しているところはあまり見たことないボン大学出身のマーク、そしてトニーを含めた3人はいわば“問題児”だった。

彼らは、学校生活よりは人生をエンジョイしていた。学校へは来たり来なかったりだったが、学校へ姿を現さない日の午後に街中でたまにすれ違うことがあったが、たいていはきれいな女性を連れていて、だからなのかいつも機嫌よく、遠くから鷹揚に手を振ってあいさつしてきた。

台湾からの2人は対照的だった。2人は小さな教室のなかで、(これは私の一方的な想像だが)大陸派と現地派(もともと台湾に住み着いている人びと)という違いからか、はたまた単に相性が悪いのか、お互いを見る目はなかなか厳しいものがあった。

初級の間は英語で授業が進められたが、現地派の王(ワン)氏は英語があまり得意でなく苦労しているように見えた。当時、どういうわけか韓中辞典がなかったようで、気の毒なことに、彼は単語の意味を調べるのにまず韓英辞典を引き、それから英中辞典を引かねばならず、他の学生たちの何倍もの労力と時間をかけねばならなかった。彼のまねは誰にもできなかった。

教師に難癖のような質問をぶつけては授業が進まないよう涙ぐましい努力をしているように見えたのは、アラブの3人組だった。彼らはわかるまで一歩も引こうとしなかったので、若い教師に「その質問には後で…」といなされることがあった。すると怒って教室を出て行くことがあったが、教室以外では気のいい人たちだった。

私を含め日本からきた学生たちは他のクラスメイトたちに比べるとおとなしい方だった。授業の度々の中断には閉口したが反論することもなく、頭上の嵐がすぎさるのを待つだけだった。

中級から入ってきたのは、フランス育ちの韓国人で19歳の具(クゥ)君だった。彼は家庭では韓国語を使っていて日常会話には困らないが読み書きはまだまだこれからだった。授業中は漢字の書き取りに余念がなかった。韓国の大学を受験するにはある程度漢字も書けなくてはいけないのに習得した漢字はほんのいくつかで…といいながらさして困った様子も見せず、それを聞いた私の方がうろたえた。

なんだかんだいいながらも楽しいクラスだった。こうしてさまざまな世代や人種の仲間たちと一緒に私はヨチヨチ歩きの韓国語をスタートした。そしてその後、韓国人の友人もたくさん出来た。当時台頭していた現地社員の労働運動への対応に苦心する夫に支えられながら、クヮナク山麓に始った交友と私の韓国体験は、広く浅く、そして徐々に深まっていった。
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