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僕の偏見紀行
175 僕とウチナー(2)聖地
2014年7月6日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 久高島のフボーウタキ入り口。道の中ほど、簡素な石積みが祭壇として使われていた。お祈りする人はここにお供物を並べ、手前に座る。この石積みから先はなんびとも立ち入ることは許されない。
▲ 斎場御嶽。清浄で厳かな雰囲気だがとても観光客が多い。
▲ 久高島待合所で会ったネコ。細身で優雅だが野生ネコ、たくましく油断ならない。
梅雨の中休みなのか、今日は朝からよく晴れている。南国の日差しは強いが、バスセンターの日陰は爽やかな風が吹いていた。

沢山のバスが待機する広場をぐるりと囲むように乗場が並び、行き先毎の標示板とベンチが置いてある。モノレール以外に鉄道のない沖縄ではバスは重要な公共交通手段であり、複数のバス会社が無数の路線を走る。この巨大な那覇バスセンターは、タイのローカルバスのような雰囲気が漂い、思わず嬉しくなる。

これからバスで約1時間、本島南部の安座真ビーチに向かう。さらにそこからフェリーで20分の久高島が本日の目的地。島は琉球の七大御嶽(ウタキ)の一つ、フボー御嶽がある聖地として知られている。

島には総有制という独自の土地制度があり、土地を個人が所有するという概念が無い。この制度によって外部資本が乱入することを防ぎ、聖地としての島の存在を守っている。

沖縄に何度か通っていると、みんな必ずこの御嶽の存在を知ることになる。琉球の国造り神話ではこの国が七つの御嶽から出来たとされ、今も神が鎮座する男子禁制の聖地として人々の篤い信仰を集めている。

バスはまぶしい太陽の下をノンビリと走る。町を出ると青々としたサトウキビ畑が広がり、ウキウキした気分になってくる。やがてバスは真っ青な海と空の安座真ビーチへ到着、港には小型のフェリーが待っていた。

フェリー待合室には既に沢山の客がいた。地元の人に混じって数人の観光客らしい人達もいる。船が港を出るとすぐに久高島が見えてきた。全体がなだらかな丘陵のようで山らしいものは見当たらない。近づくにつれ海岸線の白い砂浜と丘陵の緑の対比が美しい。

到着した港から少し坂を上がったところにフェリー待合所があった。入るとおにぎりや飲み物を並べた売店があり、若いお母さんと幼子が店番をしている。小腹がすいたのでおにぎりとスイカを買う。

待合室でおにぎりを食べていたら、どこからか現れたネコがじっとこちらを見つめる。未だ若い、細身だが油断ならない目つきのネコ。しょうがないのでおにぎりをおすそ分けする。ネコは近寄ると素早くかっさらって逃げ去った。

人間の手からは食べないのです、たまには店のおにぎりをくわえていったり、野鳥を獲ったりしています、野生ネコなんです、他にもたくさんいますよ、と店のお母さんが教えてくれた。聖地はネコの島でもあるようだ。

売店でレンタサイクルを借りて島巡りに出た。港の周辺に家屋の集った集落があるが、少し走るとすぐに家並みは途切れる。炎天下を久しぶりの自転車で走るのはちょっとしんどい、集落を出ると水道も自動販売機も日陰もない。のんびりと島巡りというわけには行かないようだ。気合を入れなおす。

島の真ん中を貫く一本道をズンズン走った。両側の潅木の中に時おりアダンやブーゲンビリアが見えてくる。日差しは強いけど心地よい海風が道を吹き抜ける。

やがて標識の立つ脇道にぶつかった。フボー御嶽へつながる道だ。自転車を乗り入れると、潅木の繁みに囲まれた細い道は石ころが多く、進むのに難渋する。ほどなく御嶽の入り口が見えた。そこは深い緑の森の、ほの暗い裂け目のようにも見える。

かたわらには、なんびとたりとも立ち入りを禁ず、石ころ・草木など何一つ持ち出してはならない、と注意書きがあった。

入り口に立つと、うす暗い森の奥へ細い道が続き、地面に積まれた低い石の前に額ずく二人の後姿が見えた。石積みは祭壇のようで、お供物が並べられている。二人は頭を垂れ手を合わせて一心に祈っている。

よく分からないが、若い娘と中年の女性、親子のように見える。ひたすら何を祈るのか、二人の後姿は軽々に近寄ることを許さない厳しさを見せていた。祭壇の先、暗い木々の向こうは草の茂る広場のようにも見える。

ここは全ての人の立ち入りが禁じられているが、ノロと呼ばれる巫女だけが神事の際に立ち入ることが出来る。僕はあたりに漂う霊気に圧倒され、離れた場所から早々にお参りを済ませた。

再び一本道を走り、海岸線への脇道に入った。突き当りで自転車を降り、林の中を歩いて進む。いきなり視界が開け、明るい崖の上に出た。眼前に真っ青な海と空が広がり、白い雲がまぶしい。見下ろすとゴツゴツした岩の間に純白の砂浜に波が打ち寄せている。前方には本島の緑の島影が見える。あたりは人影も無く、空と海の間に僕一人、贅沢なものだ。

港へ戻る途中、一本道を歩いてきた別の二人連れとすれ違った。この炎天下を港から歩いてきたとしか思えない。そういえばこの女二人、フェリーで見かけた気がする。年恰好からこちらも親子のようだ。

それにしても自転車でも難儀な道中を歩いて来たとは、一体どこへ行こうというのだろう。これから先、フボー御嶽以外何も無いははずだ。やはりこの人達も琉球の神様を訪ねていくのだろうか。

港へ戻り待合所で一休みする。例のネコがいた。中年オジサンがメシを食うそばにへばりついている。すきあらば、とチャンスをうかがっている。ついに根負けしたオジサンがご飯を分けてあげた。

午後の便で本島へ戻り、近くの「斎場御嶽、セーファーウタキ」へ向かった。バスを降り案内所で入場券を買う。周りのレストランや土産物屋は観光客であふれ、駐車場も満杯だ。

七大御嶽でも最高の御嶽として知られる斎場御嶽は世界遺産に登録され、訪れる観光客も多い。かつて琉球最高神職の女性、「聞得大君、キコエオオキミ」の就任式はここで行なわれたらしい。

男子禁制であるはずの御嶽だが、何故か今は男性も見学が許されている。そのうち男性は禁止されるという話もあるようだが。

御嶽の深い森を巡る順路は清浄な大気が満ちていた。折り重なる巨岩の下をくぐると参拝場があった。かつては王室の女性たちも祈ったという神聖な場所だ。

僕も手を合わせたものの、まわりが観光客で混雑し落ち着かない。さらに説明するガイドの声もあちこちから聞こえてくる。これでは神様も大変だろうな。静謐であるべき聖域が世界遺産になって、人々が溢れるのはいいことだろうか。

久高島のフボー御嶽は、僕には近寄ることも長居することも憚られる雰囲気があった。斎場御嶽の賑わいを、神々はどうご覧になっているのだろう。

バス停へ戻る途中、賑やかなノボリを立てた茶店で地元産のマンゴージュースを飲んだ。独特の香りと強い甘み、美味しかった。

那覇へ帰ろうとバス停に行ったが誰もいない。バスの時刻を確認したが間違いない。結局定刻に来たバスに乗り込んだのは僕一人だった。みんな貸し切りバスやレンタカーなんだ。やっぱりローカルバスを面白がる物好きは少ないんだ。(続く)
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60 南会津の旅 弁愡浚村)
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26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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1 東北紅葉雪見風呂
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