1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
老舗の店頭から
110 美術展作品の輸送について
2010年5月2日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。

























美術展作品の輸送について


現在の日本社会では、自由な時間と十分な体力をお持ちのシニア世代が増えたせいか(かくいう私もそのひとりなのですが)、全国で美術展が大いに盛んになっています。昨年、奈良・興福寺の阿修羅像が、東京と福岡の展覧会で合計165万人もの人々を集めて、無事奈良に凱旋されたようですが、ともかく国内・国外の作品を問わず、すばらしいものには大勢の人が集まります。とてもよいことだと思います。

ところで最近読んだ雑誌に、その美術展を開催するための作品の輸送についての内幕話が掲載されておりました。筆者は、井上さんという、日本経済新聞社の文化事業局の幹部の方で、美術展のプロデューサーとしての経験が長い方です。

昨年の奈良・興福寺の阿修羅像の場合は、日本国内のことですから、美術品輸送を専門とする運送会社に依頼して、専用トラックを使えば済みます。ちなみに、これまで何ヶ所かの社寺で、日本通運の美術品輸送部門のスタッフや機材を見かけたことがあります。調べたみたら、東京や大阪には、日通の美術品支店という独立した部門があるようです。相当なノウハウが必要なことでしょう。ところで、海外からとか、海外へという場合には、どうやって運ぶのでしょうか? 

かつては、船で何ヶ月もかけて運んだとか、軍用機で運んだこともあったようですが、現在では、ほとんどの場合、民間航空機を使うのだそうです。でもそれがなかなかたいへんらしいのです。

まず美術品の価格とリスクの分散の問題があります。「総額では数百億円から1千億円にもなってしまう美術品を載せた飛行機に、もしも何かあったらどうするの?」

誰にでも湧く疑問ですよね。これに対しては関係業界には暗黙の (でも公然たる)了解事項があるのだそうです。それは、ひとつの美術館から作品を借りる場合、飛行機1機あたり、百億円程度までのヴァリューの美術品しか搭載しない。これが、借りる側、貸す側、それに航空会社間の了解事項なのだそうです。

ですから、ちょっと規模の大きい美術展の場合、展示される作品は、5〜6便から、多い場合は10便くらいに分かれてやって来るのだそうです。うーん、知りませんでした。

でもこれは1つの美術館から借りる場合の話でして、たいていはもっとたいへんなことになるのだそうです。

たとえば、モディリアーニ展とか、フェルメール展などのように、1人のアーティストについての美術展の場合は、世界中の所有者から1点〜数点の作品を借りることになります。多い時には、数十ヶ所の美術館や個人所有者と交渉して、作品を借りる承諾を取り付けるわけですが、それぞれに金額以外にも様々な貸出条件があります。代替のきかない、貴重品ですから当然のことですが。

この場合は、価値とリスクの分散にではなくて、それぞれの飛行機の段取りが、ものすごく大変なことになります。それはそうでしょうね。陸上交通と飛行機の併用や、飛行機の乗り継ぎなどもよくあるケースだそうです。

そもそも、航空会社にとっては、美術品は貨物としては割のよいものではないようです。もちろん一般の貨物よりは高い料金を取るのですが、美術品輸送というのは、とにかくダメダメ尽くしなのだそうです。例えば、

1)扱いのデリケートさは精密機械以上でないとダメ。
2)他の荷物との混載 (同じ輸送パレットに載せること) はダメ。
3)美術品の木箱の上に、まったく別の貨物はおろか、他の美術品が入った木箱を積み上げる(段積み)こともダメ。
4)空調のととのった貨物室でないとダメ。

という次第です。航空会社にとっては、ある貨物用の空間があれば、そこには段積みをしようと、最大限に貨物を積み込むことが、当然ですが最も効率がよいはずです。その意味では、パレットに一段しか載せられず、他の貨物とは決して混ぜることのできない美術品は、まさに 「わがままな女王様」 扱いです。運ぶ方にとってはあまり歓迎できないお客様です。

美術展プロデューサーの世界には、「11月にオープンするフランス美術展には気をつけろ!」 という鉄則があるのだそうです。

11月第3木曜日は、あの新作ワイン、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日です。その直前何週間かの、フランスから日本へ飛ぶ飛行機の貨物室は、ものの見事にこの新ワインによって占拠されます。こんな時に出くわした美術品はたいへんなことになります。なぜって、当然のことですが、航空会社は面倒な美術品などよりも、ヴォリュームがあって、文句の少ないワインを圧倒的に優先するからなのだそうです。

昨年暮れ、六本木の国立新美術館では、12月14日まで、ハプスブルグ展を開催していました。オーストリアのウィーン美術史美術館と、ハンガリーのブダペスト国立西洋美術館の所蔵品から、絵画75点と工芸品の合計120点を借りて展示していました。上の写真は、そのうちの1枚、ウィーン美術史美術館蔵の、ディエゴ・ベラスケス作 「白衣の王女 マルガリータ・テレサ」 です。

この場合は、出品元が2つの美術館ですから、輸送ルートの段取りにではなくて、リスクの分散の方に気を遣ったことでしょうね。美術展も、こういう苦労を知って見ると、さらにひと味、価値が上がるような気がします。さあ、今年はどこの美術館に出かけましょうか?
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
166 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 2
165 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 1
164 優れた作家の感受性のすごさ
163 「アウトドア般若心経」
162 紫紺の闇 (しこんのやみ)
161 言論を奪われ、異論を排除した時、戦争は止められなくなる。
160 法の精神(8月15日に際して)
159 戦争は、防衛を名目に始まる。
158 平泉 澄(きよし)
157 アンビグラム (Ambigram)
156 白虹事件
155 山崎と大山崎 その4 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 後編)
154 山崎と大山崎 その3 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 前編)
153 山崎と大山崎 その2 (大山崎山荘の誕生)
152 山崎と大山崎 その1
151 修学院離宮 Part 2
150 修学院離宮 Part 1
149 「漢詩のリズム」
148 最澄と空海 その3 (まとめ) 両雄並び立たず
147 最澄と空海 その2 薬子の変
146 最澄と空海 その1 還学生と留学生
145 桂離宮と豊臣秀吉
144 「漱石枕流」
143 忘れられない写真
142 松方コレクションと国立西洋美術館
141 カタロニア讃歌 (Homage to Catalonia)
140 「乱」と「変」
139 パナマ運河疑獄事件
138 水晶栓 (Le bouchon de cristal)
137 シュール・リー (sur lie)
136 「斉藤」、「斎藤」、「齊藤」、「齋藤」
135 宋靄齢・宋慶齢・宋美齢
134 マカオ今昔 その4 (最終回)
133 マカオ今昔 その3
132 マカオ今昔 その2
131 マカオ今昔 その1
130 四神(しじん)
129 森 恪 (読みにくい名前を、もう1件)
128 大給 恒
127 ローマの休日 (Roman Holiday)
126 ラファエル前派
125 京都名刹めぐり その29 大覚寺
124 京都名刹めぐり その28 金戒光明寺
123 京都名刹めぐり その27 清閑寺
122 京都名刹めぐり その26 山科の毘沙門堂
121 京都名刹めぐり その25  正伝寺と圓通寺の借景
120 BYO ワインクラブ
119 「懐石料理」と「会席料理」
118 ナイト・ホークス
117 景徳鎮・有田・マイセン
116 瑠璃光院の不思議
115 葭と葦 (永源寺にて)
114 「プラハの春」、「ベルリンの秋」、「ウィーンの冬」
113 アルクイユ (Arcueil)
112 カンパリ (CAMPARI)
111 耕論 「ミシュラン、おいでやす」
110 美術展作品の輸送について
109 エトルタの針は空洞か? 
108 「無縁社会」
107 秋艸道人
106 白毫寺(びゃくごうじ)
105 2人のラ・トゥール
104 ブラジリアン・マジック
102 ジュール・シュレ美術館の盗難事件
101 シャントルイユの「空」
100 白凛居へ行って参りました。
99 イコン異聞 (日本人イコン画家 山下りん)
98 新たな気持で
97 セザンヌ、その光と陰
96 「マキシミリアン」の謎解き
95 マキシミリアン (Maximilian)
94 土佐派
93 カトリーヌ & マリー
92 真珠の 「耳飾り」 と 「首飾り」
91 ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル
90 私と絵画
89 八点鐘 (はちてんしょう)
88 五山の送り火クイズ
87 白い送り火
86 春 (La Primavera)
85 カラバッジオ (Caravaggio)
84 一度は消えた画家
83 マニュエル・ゴドイ (Manuel Godoy)
82 フリーダ・カーロ (Frida Kahlo)
81 ジョージア・オキーフ (Georgia O’Keeffe)
80 ラ・リュッシュ (La Ruche)
79 マルディ・グラ (Mardi Gras)
78 接吻 (Der Kuss)
77 ワイエス
76 ラス・メニーナス (Las Meninas)
75 オールドホーム (The Old Home)
74 私と村 (Moi et le village)
73 メデューズの筏
72 破戒僧と尼僧
71 遠近法とパオロ・ウッチェルロ
70 オシュデ (The Hoschede)
69 アプサント (L’absinthe)
68 草上の昼食 (Le dejeuner sur l’herbe)
67 オランピア (Olympia)
66 ジオットとEU
65 オルナンの埋葬
64 フェルメールの魅力
63 レカミエ夫人の肖像
62 コタン小路
61 上七軒(かみひちけん)
60 祇園のお座敷便り その1
59 サント・ヴィクトワール山 (La Montagne Sainte-Victoire)
58 ワインのホワイト・ホース、シュヴァル・ブラン
57 京都花街概論
56 ネゴーシアン (negociant)
55 オノレ・ドーミエ (Honore Daumier) のカリカチュア
54 AOC
53 世田谷美術館へ出かけませんか?
52 シャトー・ラトゥール
51 セーヌ川をはさんで
50 グランド・ジャット島の日曜日の午後
49 ムートン・ロートシルト
48 ポール・デュラン−リュエル (Paul Durand-Ruel)
47 イケーム (Yquem)
46 タリスマン (Le talisman)
45 アリスカン (Les Alyscamps)
44 月と六ペンス (The Moon and Sixpence)
43 京都名刹めぐり その24 古知谷 阿弥陀寺
42 オルセー美術館にある方が模写なのです (ガシェ医師の肖像)
41 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 本編
40 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 前置き編
39 パリ市民とバリケード (barricade)
38 シャトー・ペトリュス (Chateau Petrus)
37 返却されなかった名画 <アルルの寝室>
36 真夏の夜のワインの夢 in ロンドン   
35 ヴィンセント・ファン・ゴッホとオーヴェールの教会
34 Ullage (アリッジ)
33 複雑な素朴派、アンリ・ルソー
32 フランス・ワイン通史 その2
31 フランス・ワイン通史 その1
30 風の花嫁
29 カナの婚礼
28 切り分けられた名画、ショパンとジョルジュ・サンド
27 「都会の踊り」 と 「田舎の踊り」
26 京都名刹めぐり その23 高台寺
25 京都名刹めぐり その22 法然院
24 京都名刹めぐり その21 平等院(宇治)
23 京都名刹めぐり その20 東福寺
22 京都名刹めぐり その19 泉涌寺
21 京都名刹めぐり その18 智積院
20 (突然ですが・・・)ドレフュス事件とエミール・ガレ
19 京都名刹めぐり その17 六波羅蜜寺
18 京都名刹めぐり その16 実相院
17 賀茂一族
16 京都名刹めぐり その15 正伝寺
15 京都名刹めぐり その14 六道珍皇寺
14 閑話休題 「I have a reservation.」 
13 京都名刹めぐり その13 狸谷山不動院
12 京都名刹めぐり その12 安井金比羅宮
11 京都名刹めぐり その11 圓光寺 (えんこうじ)
10 京都名刹めぐり その10 金福寺 (こんぷくじ)
9 京都名刹めぐり その9 東山大文字の火床はこうなっておりました。
8 京都名刹めぐり その8 五山の送り火異聞
7 京都名刹めぐり その7 大河内山荘
6 京都名刹めぐり その6 京都五山の送り火(大文字焼き)体験記
5 京都名刹めぐり その5 上賀茂神社の斎王代
4 京都名刹めぐり その4 祇王寺
3 京都名刹めぐり その3 光悦寺
2 京都名刹めぐり その2 善峯寺
1 京都名刹めぐり その1 西山光明寺
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 6 7 5 8
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 1 2 7 3