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かくてありけり
11 続・合成写真
2003年5月7日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 前回「ナショナル・ジオグラフィック」のやった合成について、「ギゼーのピラミッドとスフィンクスの位置を変えた」と書きましたがこれは「2つのピラミッドの位置関係を変えた」と訂正します。手元の資料が出てこないで、うろ覚えのまま書いて間違いました。お詫びします。

 これを機会に調べ直し、画像のデジタル化やコンピューター処理の歩みと、そこから派生した写真の改ざんの歴史をおさらいしました。以下に時系列で示します。

79年 イスラエルのScitex社が世界初の画像処理専門のワークステーション、Scitex Response Systemを発表。値段は5億円。画像をスキャナーでデジタル入力し、編集、製版の工程をコンピューター処理する画期的なもの。出版・印刷業界に一大変革をもたらした。

81年 ソニーが世界初の電子カメラ「マビカ」を発表。28万画素、アナログ式。

82年 ナショナル・ジオグラフィックが2月号の表紙で、2つのピラミッドを写したヨコ位置の写真をScitexのシステムで処理して、ピラミッドを動かしタテ位置にして掲載。さらに2カ月後の4月号でも同様なことをやり、再び非難を浴びて初めて同社は、今後は絶対に改ざんをしないと声明を発表した。この事件で同社の信頼性は打撃を受けたが、デジタル化に伴う危うさを示す先駆的な事件として歴史に残っている。

89年 TVGuideが表紙写真でOprah Winfreyの顔とAnn  Margretの体を合成して掲載。

90年 Adobe社が画像加工ソフトPhotoshop 1.0をリリース。これで画像加工が一般にも普及することになった。

90年 AP通信社が報道写真における画像処理のガイドラインを発表。

91年 全米報道写真家協会(NPPA)が報道写真の倫理について声明を発表。

91年 米KODAK社が130万画素(1280×1024)のデジタルカメラ「DCS(Digital Camera Sysytem)」を発表

94年 フィギュアスケートのケリガンがライバルのハーディング側に襲撃された事件の後、2月のリレハンメル五輪の公式練習の前日に、2人の一緒の練習場面をNewsdayがいち早く掲載。合成による創作写真であった。

94年 米誌TIME6月号は、妻殺しの容疑で逮捕されたO.J.シンプソンの警察発表の顔写真を、フォトイラストレーションで黒っぽく陰鬱な印象の肖像画に加工して表紙に掲載。有罪の予断を読者に与えるものと批判された。

95年 70年のピュリッツアー賞受賞作のJohn Filoの作品をライフが掲載した際、人物の背景に角が生えたように重なった杭を画像処理で消去した。

97年 TIMEとNewsweekの表紙を6つ子の両親が飾った。しかし母親の口元を見るとTIMEでは歯がぼろぼろなのに、Newsweekではきれいな歯並びに修正されていた。

00年 ニューヨーク・デイリーニューズ紙の9月8日号はクリントン米大統領とカストロ・キューバ首相の握手写真を掲載。両首脳が国連で会ったのは事実だがその場面の写真撮影はなかった。合成によるイメージ写真であった。しかも「photo image」の断り書きが小さかったため読者に誤解を与えた。

01年?Wisconsin-Madison大学の大学紹介パンフの表紙写真が合成写真であった。台はフットボールの応援風景。写っている学生が白人ばかりなので、黒人学生の顔を1枚はめ込んだもの。しかも顔の向きをそろえるために黒人学生の顔は裏焼きしてあった。

03年 ニューヨーク・デイリーニューズ紙の2月号でブッシュ米大統領とイラクのフセイン大統領がディベートしている写真を表紙に掲載。写真にはPHOTO ILLUSTRATIONと注釈があったが、実際に行われたかのような誤解を与えた。 

 以上を読んで分かることは、デジタル時代の写真改ざんの始まりは79年に発表されたイスラエルのScitex社のResponse Systemの普及と軌を一にしていることです。
 約10年後の90、91年にAPや全米報道写真家協会が画像処理のガイドラインを発表していることが注目されます。

 画像操作の問題を考えるときに、許容度の違いを考慮し「新聞と雑誌」、「生ニュースと読み物」、「ジャーナリズムとコマーシャリズム」という対比で見ると理解しやすいですね。

 すでにお気づきの方もいるでしょう。以上の年表に登場するのはほとんど米国の例ばかりです。確かに米国は良くも悪くもこの分野の先進国です。では後進の日本ではどうか、試しにインターネットで検索してもほとんどヒットしない。実態として例がないのか、それとも外部に出てこないだけなのか、単にWEBサイトへの対応が遅れているのか、今後の検証が必要です。

 英文の資料を調べていてたびたび出てくる言葉に気づきました。その中で次の2つが印象に残りました。

1、seamless=つなぎ目がない
 画像処理ソフトによる合成や修正ではつなぎ目が分からないほど滑らかになっている。デジタル時代を象徴する言葉に思えます。

2、integrity=品位、完全さ、保全
 33年前、新人研修で教わった言葉でした。講師の重役は「通信社のインティグリティ」、「ニュースのインテグリティ」について諄々と説きました。「integrity of news photo」を私は「報道写真がその役割を果たして本来あるべき姿を全うすること」と解釈しています。時代は変わっても、古くて新しい問題として対応を迫られています。

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