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112 カンパリ (CAMPARI)
2010年7月12日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。

カンパリ (CAMPARI)


日本にもありますが、イタリアにも、人名が転じて商品名や料理名になってしまったものが、有名なものの中にもけっこうありますという実例として、昔、「カルパッチョ」という記事を書いたことがありました。以下のURLをご覧いただきますと、2005年7月に書き込んだ記事があります。よろしければお試しください。

http://www.el-saito.co.jp/cgi-bin/el_cafe/cafe.cgi?mode=res&one=1&no=2932

イタリア式お刺身と言ってもよいあの料理は、実はヴィットーレ・カルパッチョ (Vittore CARPACCIO 1460頃 〜 1526) という、ルネッサンス期のヴェネツィア派の画家の名前から、後世、こじつけのようにとられたもので、画家本人とはまったく関係ないのですが、結果的に人名がその由来となった事情が書いてあります。

ここでは、もうひとつの実例をご紹介しようと思います。それは上の写真にもありますように、きっとあなたもご存じのイタリア産のリキュール、「カンパリ」(CAMPARI) です。

アルコールに決して強くない私は、カクテルや食前酒を飲まざるを得ない時には、よく食前酒 (イタリア式に言うと、アペリティーボ = aperitivo) として、カンパリ・ソーダを愛飲しています。

この赤い色の、ちょっと甘くてほろ苦いリキュールは、たしかに食欲を増進させ、気分もちょっと高揚させる働きがあるような気がするのですが、その由来や歴史などについてはまったく知りませんでした。ところが最近、ちょっとしたきっかけで、この「カンパリ」という名前は、実は開発者の名前から来たもので、はじめて登場したのは、1860年 (日本の明治維新の7年前、つまり幕末期) であったということを知りました。

カンパリを作ったのは、イタリア・ピエモンテ州ノヴァラ (Novara) 出身のガスパーレ・カンパリ氏(Gaspare Campari 1828-1882)という人物です。

ノヴァラは、イタリア北西部、ロンバルディア州の州都ミラノと、ピエモンテ州都のトリノの間にある(いくぶんミラノ寄り)平野の中の町です。まさに平野のまっただ中、農村地帯にあります。そもそも「カンパリ」というファミリーネーム自体が、イタリア語で、田園とか野原を意味する「カンパーレ(campale)」から来たのだそうですから、本当に田園地帯の中にあるのでしょうね。

ガスパーレ・カンパリ氏は、1842年、14歳でトリノ市の酒場の見習いになりました。それが彼とお酒とのご縁の始まりでした。彼はそこで酒を扱う知識や技術を身につけた後、出身地のノヴァラに戻って、カフェの経営を始めました。さらに、1860年にはミラノに進出し、ドゥオーモ(大聖堂)近くの広場の一角に、バール(居酒屋)を開きました。

そしてその同じ年、ガスパーレ氏は、しばらく前から試みていた新しいリキュールを完成させ、それを「ビッテル・アルーソ・ドランディア (bitter all’uso d’hollandia)」= 「オランダ風苦味酒」と名付けて売り出したのです。

この「オランダ風苦味酒」という、氏のオリジナル・リキュールは、期待以上にヒットし、カンパリ氏が経営する「カフェ・カンパリ」は、場所もさらによい所に移り、次第にミラノを代表するバールの名店になりました。

ガスパーレは1882年に亡くなったのですが、後継者となった息子、ダヴィデはその後、「ビッテル・アルーソ・ドランディア」という長ったらしい名前を、家名の「カンパリ」に改名して、リキュール製造事業として拡大していきました。

現在の製造元も、その息子の名前を取った、ダヴィデ・カンパリ社ですから、以来営々と続いているのです。同社は、ヴェルモットのチンザノなどを傘下におさめる、酒造業界の一大グループとなっています。

今年は、ガスパーレ氏がカンパリを世に出した1860年から数えて、ちょうど150年目にあたるというので、これからしばらくは、この名前がメディアに登場することが多くなるかもしれません。

カンパリの成分や製法は厳重な企業秘密のようでして、まったく明らかにされていませんが、ビター・オレンジ、キャラウェイ、コリアンダー、リンドウの根など、数十種類にのぼる材料が使われていると言われています。

鮮やかな赤い色と苦味を特徴としており、たいていは何かで割って飲んだり、カクテルのベースとして使われることが多いようです。ストレートでも飲むことができるのだそうですが、私にはそれは無理です。イタリアでは白ワインと1:1で割って飲むことが多いと聞きます。

カンパリは、ソーダで割るのが最も一般的かと思っていましたら、ワインやオレンジジュースで割るのも、とても人気があるようですね。

ところで、私にとって最も自然な飲み方、カンパリ・ソーダも、やみくもにジャバジャバと作ればよいのではないようです。カクテルに関しては、まったく知識も関心もないものですから、あらためてお酒の道の奥行きに関心している次第です。

では、ついでですから、最も簡単なカクテル、カンパリ・ソーダの作り方について一言。カンパリ・ソーダを作るコツは、以下の通りなのだそうです。

1)カンパリそのものをよく冷やしておくこと。室温では絶対にダメなのだそうです。できあがりの味がまったく違ってくるとのこと。もしも、カンパリが冷えていない場合には、ソーダを入れる前に、カンパリに氷を少し混ぜて冷やすこと。そのくらい、カンパリ自体の温度が大切なのだそうです。


2)グラスもよく冷やしておくこと。

3)混合比率ですが、これには諸説があります。まず、カンパリのボトルに書いてあるのだそうですが、製造メーカーのお奨めは、カンパリとソーダの比率が、2:1 です。ですから、ロックグラスに45ミリリットルのカンパリを入れたら、ソーダはその半分の22ミリリットルくらいしか入れられないことになります。

私見ですが、これでは私には濃すぎます。私の場合は、逆に1:1.5 とか、1:2 くらいの方が快適に感じます。通の人達の意見では、「やっぱり濃いめにつくりたい」とのことですし、「ソーダは、カンパリを薄めるためではなく、カンパリの味を際だたせるためのもの」だそうですから、1:3 とか、1:4 ではいけないようです。

以上、「カンパリ」誕生150年を祝して、カンパリにちょっと敬意を表しました。

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