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ボーダーを越えて
145 子ども好き
2009年3月29日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ プレゼントした結婚披露フィエスタのコラージュ
▲ 親類の子どもたちと花嫁
今月始めにトップページで作業長夫婦の息子(トニー)の結婚式のことをご報告しましたが、その写真をやっと整理してコラージュにまとめて額縁にいれ、新婚夫婦にプレゼントしました。作業長の家族にお祝い事があると、いつもこういう写真のプレゼントを期待されるのですが、なにしろここ数週間はモーレツに忙しくて1ヶ月近くもかかってしまいました。それでも大いに喜ばれて、めでたしめでたし。

次に写真撮影を頼まれるのは、新婚夫婦に子どもが生まれたときでしょう。とすると、10月頃。つまりこの結婚式はいわば「できちゃった婚」だったのです。といっても、かなり前から新婦(ジャスミン)は作業長の家にトニーと一緒に暮らすようになっていましたし、トニーの母親(フリア)は大分前に私に「二人は結婚する」と言っていましたから、結婚式は生まれる子どものための最終手続きだったようでもあります。式の日を決めるのも、披露宴というべきフィエスタ(パーティー)が野外でできるようにと、最初に予定していた日は雨が降って寒いという予報だったので2週間延期したくらいで、まあいたって気楽でのんびりしたものです。「フィエスタ」のもともとの意味は「お祭り」で、まさにトニーとジャスミンの結婚を楽しく賑やかにお祭りするムードに溢れていました。私は「二人は結婚する」と聞かされたときには、こんなに若くて結婚しちゃっていいのかなぁという懸念の方が大きかったのですが、家族や親類たちや友人たちに祝福されている二人を見ていると、懸念など吹っ飛んでしまいました。

この二人の出発は、トニーの姉アレハンドラのとは対象的です。3年ちょっと前のアレハンドラの結婚は、まさに「できちゃった婚」で、彼女は特定の男性と付き合っていることさえ親には話していなかったのですから、妊娠したから結婚したいと言われて、親はもうびっくり仰天。特に母親のフリアにはショックでした。というのは、フリアはアレハンドラに大変な期待をかけていたのです。

フリアはメキシコ内部の村の出身です。作業長とは再婚で、アレハンドラとトニーは彼女の連れ子でした。作業長との間に娘がいますが、アメリカ生まれなのはその末娘だけです。長女のアレハンドラが小学校を卒業したとき、私は卒業式に呼ばれ、その後のパーティーにも呼ばれました。小学校を卒業したくらいでなんでこんなに大袈裟にお祝いするのだろうと不可思議だったのですが、思い当たりました。フリア自身が多分小学校を出ていないのですね。大変に聡明でやり手の彼女ですから、自分がちゃんと学校教育を受けていないのは悔しいことでしょう。作業長も州は違いますが、メキシコ内部の村の出身で,小学校をやっと出たくらいの教育しか受けていないと思われます。彼の書くスペイン語からそのことが伺われるのです。だからこそ、フリアは子どもたちが着々と進学していくのがうれしかったのでしょう。

フリアは、頭はトニーの方がよさそうだけれど勉強が嫌いで成績が悪いのに対して、アレハンドラは頑張って勉強するから必ず大学へ行く、とよく言っていました。確かに、トニーはハイスクールに入ってから養父である作業長に反抗して、しばらくラスベガスの叔父の元に身を寄せ、レストランの皿洗いなどをしました。反抗期も過ぎて家に戻り、いまは家族全員仲良くやっていますが、トニーにはハイスクール卒業資格を取ろうという気はなさそうです。それに対してアレハンドラは直実に進学し、コミュニティーカレッジに入学しました。コミュニティーカレッジは誰でも入れる公立の短期大学ですが、成績がいいとそこから4年制大学に転入できるのです。必ずそうするつもりだ、とフリアは何度も私に話したものです。多分、フリアや作業長の親類の中で高校を卒業したのはアレハンドラが初めてで、さらに高等教育を受けるなどというのは、夢のまた夢のようなできごとだったのでしょう。アメリカに移住したからこそ可能なことで、アレハンドラは成功移民として語られるようになるはずだったのです。

そのアレハンドラが電撃発言をしたのは、まだコミュニティーカレッジに在学中のことでした。結婚して子どもを産みたいという本人の強い意思に、親といえども反対はできません。それで急遽結婚を登録し、いつもパーティーをやるアボカド園でフィエスタをすることにしました。私たちはたまたま留守で出席できなかったのですが、後で聞いたところによると、なにしろ12月でしたから寒くて集まりも悪かったそうです。

フリアの落胆ぶりは見ていて気の毒なくらいでした。「できちゃった婚」はいまでは珍しくも恥ずかしくもありません。大きなお腹をした花嫁さんでも堂々としていて見事なものですし、結婚しないでシングルマザーになるという選択だって受け入れられますから、世間体というようなことをフリアは気にしていたのではありません。娘に託した夢が突然崩れてしまったことに、呆然としているようでした。アレハンドラは子どもが生まれてからもカレッジは続けると言ったそうですが、相手の男性はおそらく中学校も卒業していないだろうと思われる若いホンジュラス人なので教育に関心などなさそうですし、妻を通学させるだけの財力もありません。フリアの夢は完全に破れてしまったのです。アレハンドラの養父である作業長も、ただ仕方がないと諦めるだけだったようです。

そうしてアレハンドラに男の子が生まれました。不思議ですねぇ(いや、それが自然なのでしょうか)、一旦子どもが生まれると、フリアに元気が戻ってきました。渋い顔をしていた作業長も孫が可愛くてたまらないという感じでよく孫の面倒を見て、家族全体が幸せムードでいっぱいになったのです。それから1年も経たないうちに、フリアが「うちにまた結婚式がありそうだ」と言ったのは。トニーとジャスミンのことです。そう言った時の彼女の顔はとってもうれしそうでした。
「へぇー、本当に?」としか、私は反応できませんでした。本当にそれでいいの?と聞きたかったのですが…

だって、そのときトニーはまだ十代でしたから。ハイスクールは中退のままだし、仕事はトーマスの農園の労働者です。いずれは養父の地位を受け継いで作業長になるつもりでいるのかもしれませんが、将来性はゼロですし、いつまでも農園が続くという保証もありません。もっと広い世界に出て行ける技能を身に付けることもなく、人生設計ということなど考えないままに結婚しちゃって、本当にいいの?と、私はフリアに聞きたいところでした。

かく言う私も、人生設計なしでここまで生きてきてしまったのですから、人のことは言えないのですが、子どもを持つということには非常に慎重になってしまったものです。慎重になり過ぎて子どもを持つ契機を見逃してしまったとも言えますが、子どもに安定した生活とできるだけの教育を与えられるという経済力と自信がなければ、とてもこわくて子どもなど持てません。でも、メキシコ人の多くにはそういう考え方はなさそうに見えます。だから子だくさん。フィエスタにもどっさり子どもがやって来て、それはそれは賑やかなこと。

以前、トーマスの農園に大変に有能な青年が働いていました。大学で機械工学を勉強するために学資を稼ぐのだと言って、一生懸命働いていました。が、2年ぐらい働いた後、こちらで知り合った女性と結婚し、別な職場へ移っていきました。それはそれでいいのですが、まもなく子どもが生まれたという知らせをもらいました。彼もまだ二十歳そこそこなのに。大学で勉強する計画はもうおしまいです。彼たちの場合はできちゃった婚ではなかったのに、どうして経済基盤をしっかり築いてから子どもを持つことにしないのでしょう?

メキシコ系人でアメリカの大学も出ている人に聞いてみました。彼女曰く、「メキシコ人はね、とっても子ども好きなのよ」

確かに、それは伺われます。実はトーマスにはメキシコ人と結婚している甥がいるのですが、その子どもの洗礼式が妻の実家のあるメキシコのクエルナバカというところで行われ、イギリスからも甥の母親(トーマスの妹)や兄弟たちが出席しました。そこで大のメキシコ人紳士が小さな子どもをあやしたりするのを見て、トーマスの妹は「イギリス人の男にはああいうことはできないわ」と感心していました。日本人の男にもできそうもありません。私自身、赤ちゃんをあやすのは下手なのです。

メキシコ人のおおらかさにはうらやましいと思う反面、おおらかなままに無計画に子どもを持つことは、私には到底できそうもないとも、フィエスタでつくずく思った次第です。

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