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僕の偏見紀行
178 メコンクルーズ(2)チェンマイ食堂
2014年12月28日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ トゥクトゥクに乗り込みいざ買い物へ
▲ 山岳民族、カレン族の「ネコ」、力と勇気のシンボル
▲ お気に入り食堂の入り口正面の掲示板(警告板?)
3年前に初めてチェンマイを訪れて驚いた。タイ北部の静かな古都という僕の予想と違い、大型ホテルが立ち並ぶ都会だった。大通りを乗用車や乗り合いタクシーのソンテオやトゥクトゥクが派手に排気ガスを撒き散らして走っていた。

しかし数日滞在してみると食い物は安くて旨いし、なじみの食堂やランドリーができると、僕には居心地のいい町になった。この時は日帰りツアーなどに1人でせっせと出かけ、街の中央の堀と城壁に囲まれた旧市街はゆっくり散策できなかった。今回はこの旧市街あたりをカミサンと気ままに歩こうと決めている。

ホテルと堀を挟んですぐのターペー門から旧市街に入った。カフェ・食堂・両替屋・土産物屋、雑多な店が軒を連ねている。厳しい日差しの通りを歩くと自然に心が弾んでくる。ここはアジア、何かが起こりそう、こちらから何も仕掛けなくても、SOMETHING HAPPENS!

日本や欧米諸国のように社会システムが出来上がった国では期待できない、予期せぬ出来事が。それは時としてトラブルだったりリスクだったりするが、それをなんとかしのぐのが旅する醍醐味だ。

両替屋を何軒か回ってレートの一番いいところで両替をする。軍資金が出来たところで、まずお買い物。カミサンはこれが済まないと落ち着かない。最初は下見であちこち冷やかして回る。そして気に入ったところで購入、場合によっては追加購入のため再度出かけることもある。

道路脇で居眠り中のドライバーを起こしてトゥクトゥクに乗り込んで目的の店を目指した。カミサンはトゥクトゥク初体験、いわば手作りの改造車なので形は様々、屋根付き荷車をバイクで引っ張るようなもの、乗り込むのに一苦労することもある。

やがて到着したのは絹の店、東南アジアは古くから養蚕が盛んで、地域ごとに特徴ある絹製品がが造られてきた。ここは欧米系のNPOが運営し、タイの山岳民族、カレン族の伝統文化を生かした絹製品を製造販売している。NPOが企画・デザインから製造販売をサポートし、その事業による雇用と収益によってカレン族の人々を支援しているという。

店内には壁掛け・テーブルクロス類からバッグや小物まで、伝統的なデザインの洒落た製品が並んでいた。あまり関心の無い僕の目にも様々な絹製品は美しく見えた。これは時間がかかる、目を輝かせながら店内を歩くカミサンを見て僕は覚悟した。これも大事な旅する楽しみのひとつ。僕は店を出て周りを散策することにした。

外に出ると店の看板に見慣れぬ面白い模様があった。ネコに似た動物が組み込まれた、白地に黒い太線の力強いデザイン、一体何だろう。買い物を済ませた後、僕は店員の女性に尋ねた。

「これはネコです、ネコはカレン族にとって力と勇気のシンボルなのです。その昔カレン族の戦士はこれを身体にペイントして戦いました。」
彼女はいささか誇らしげにこう説明してくれた。

なるほど、だから力強く美しいのだろう。気付いてみたら店内のあちこちにこの「ネコ」の姿があり、店の紙袋にもこのデザインが施されている。申し訳ないが僕には絹製品よりこの「ネコ」がとても気に入った。僕は、家に戻ったら額にいれて飾ろうと、店員に頼んでこの紙袋を少し余分にもらうことにした。

ホテルに戻ると昼時だった。再び荷物を置いて、食堂を探しにホテルを出た。ホテルの並びに気になる店があった。何の看板も出ていないが、塀の間から見える店内には白いテーブルとイスが並び、食事中の人の姿がチラホラ見えている。

ガランとした店内は一昔前の社員食堂風だが、入り口に近づくといい匂いがする。思い切って中へ入り、責任者らしいオバサンに麺類は何かやっているか、と尋ねた。すると、無い、麺類は隣り、と素っ気無い返事。

それではどんな料理があるのか、尋ねたが僕のいい加減英語のせいか話がかみ合わない。諦めてほかの店で昼食を済ませた。

しかしどうしても気になるので夕方再度その食堂へ出かけた。なにせホテルのすぐそばだから行きやすい。オバサンはまた来たか、とはいわなかったが相変わらず素っ気無い。

お昼には気付かなかったが、店の入り口を入ると正面に大きな注意書きがあった。書いてあるのは、アルコール禁止、だらしない服装お断り。これはただ事ではない。庶民相手の町の食堂でこんな掲示板が入り口に掲げているのは初めてだ。

ただ覚悟を決めて席に着くとちゃんとお客扱いになった。持ってきたメニューは写真付きでタイ語と英語が併記されている。値段も手頃でむしろ安いくらいだ。地元の家庭料理の店のようだ。入ってくる客は地元の人ばかり、中に一組白人の老人と現地女性のカップルがいたが、彼らは僕らが行くたびに同じ席で食事をしていた。きっとチェンマイに住んでいるのだろう。

他に夕飯のおかずを買いにくる客も多かった。僕らがいる間、持ち帰る料理をキッチンの前で待つ客の絶えることが無かった。地元では評判の店なんだ。僕の理想的な食堂が見つかって良かった。

簡素で清潔な造り、店内は白い壁にありふれたイスとテーブル、客席の奥がオープンキッチンになっている。数人のオバサンが忙しげに立ち働いている。素っ気無いオバサンも無駄なことを言わないだけで礼儀正しい人だった。

料理を待つ間、何の気なしに店内の壁時計を見て驚いた。くすんでいたが文字盤に金色のロレックスのロゴがあったのだ。時計に無知な僕はそんなものがあるとは今まで全く知らなかった。ストレートな警告の掲示板を掲げ、無造作にロレックスの壁時計をかけた大衆食堂、不思議な店だ。

メニューの写真を頼りに頼んだ料理はいかにも家庭料理というやさしい味わいでとても旨かった。帰りに、美味しかった、とオバサンに挨拶すると嬉しそうにうなづいてくれた。いい食堂が見つかり僕はシアワセな気分だった。

さらにその後、ホテル付近で散髪屋兼業のランドリーも見つかり、これでチェンマイの生活基盤が整った。   (続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
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21 春の東北ローカル線の旅
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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