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僕の偏見紀行
179 メコンクルーズ(3)チェンマイパラダイス
2015年1月1日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ゲストハウス街のカフェで一休み。写真右上に出ているように、ここの看板メニューは朝食のベジタリアン・ビュッフェ、およそ460円。円安でずい分高くなった。
▲ よく分からないタイ料理の一品。かわいらしく美味しかった。
▲ カフェの隅で水を飲むクロネコ。ここの看板ネコ。
チェンマイの旧市街は緑に囲まれた寺院が多い。南国の木々が勢いよく伸び、道路に濃い影を落としている。時には道路の向こう側まで枝を伸ばすものある。金色に輝く寺院は観光客や地元の人達で賑わっていた。僕らも寺院に出会うと、旅の無事を願って手を合わせた。

10時を過ぎると日差しが一段と強まり、日本の真夏の暑さになる。僕らは日陰を選びながらゆるゆる歩き、時々カフェで一休みした。その時に飲むのはココナツジュースが一番。

注文すると、よく冷えたヤシの実の上部に切り口を開け、ストローを差しこんでもってくる。冷たくうす甘い果汁が身体にしみわたる。大体1個100円から200円、ゲストハウス街のカフェが一番安かった。安くて美味しい、しかも安全なアジアの飲み物。僕はいろんな国で飲んだ。

ブラブラ歩いていたら賑やかな声が聞こえてきた。塀の中の木々を通して、広場を駆け回る子供達が見えた。学校のようだ。子供達はそれぞれ飲み物やお菓子を手にしている。お昼休みのようで、校門脇の屋台ではカップ麺がよく売れていた。

両親とも働いている子が多いのだろう。買い食いは学校公認のようだ。昼休みに買い食いができるなんて、羨ましい。

隣りの学校前にはバイクがギッシリ停まっていた。バイクでどこか出かけて戻ってくる子もいる。高校生くらいだが、昼休みの外出は自由なんだろうか。僕の高校時代は、昼休みに校門前のラーメン屋に行っただけで職員室に呼ばれて怒られた。

大通りの角を曲がると様々な食堂が並ぶ一角に出た。それぞれ店頭では、大釜で麺を茹でたり、串焼きを炭火で焙ったり、忙しく店員が働いている。店内はどこも客で溢れている。どこか中華街のような雰囲気だ。僕らもここで昼飯にしようと、鶏飯屋に入った。

いろんなものを食べたいので一人前しか頼まなかった。横に広がった巨体のオバチャンは、その注文を聞いて怪訝な顔をした。可哀そうこの2人連れはカネがないんだ、そう思われたかもしれない。蒸し鶏にご飯を添えた鶏飯は素朴な味わいでうまかった。

次に麺の店でヌードルスープを食べたらそれで2人とも満足した。ホントはもっと旨そうな店があったが、旅行中の大食いは年を考えて控えることにした。

同じ通りに、小さな和菓子に似たものを売る店を見つけた。面白そうなので覗いてみる。いろんな形の小さなお惣菜?その隣りは鮮やかな彩りのお菓子?一体ここは何の店なんだろう。

これはケーキの類か、僕は若い女性の店員に尋ねた。答えは、否、料理の一種らしい。それでは結婚式のような特別なお祝いの日の料理か、重ねて尋ねると、これも、否。日常の料理だという。タイ料理の知識が無い僕には見当のつかない食べ物だが、あまりに綺麗で美味しそうなのでいくつか購入する。

食堂街から少し歩いたところの公園のベンチで一休み。傍らに大型テントが張られ、中に10数人の戦闘服姿の兵士がいた。大通りを監視しているようにみえる。そういえばタイはクーデターによる軍政が今も続いているのだった。しかし街の様子にそれをうかがわせる緊張感は無かった。

戦闘服の集団はあまり愉快な存在ではない。しかしよく見ると、熱心にスマホをチェック中の兵士も数人いる。テント内はどこかノンビリした雰囲気にみえる。律儀な日本人には分かりにくい国だ。

旧市街の片隅に小さな市場があった。野菜・果物・肉・魚等の日常の食品類、香辛料が山積みされ、果物屋の店頭は、お花畑を思わせる豊かな色彩で溢れていた。魚屋では、タライで魚が跳ね、かたわらでは炭火で焙られた魚が旨そうな匂いを漂わせている。

オヤジが忙しく魚をさばくすぐ後ろは洋服屋で、色とりどりのモンペがぶら下がっている。なんでもありの市場、眺めるだけで楽しい。

細い路地を奥へ進むとゲストハウス街にだ。古い民家を改造したもの、新しいコンクリート造り等々、様々なスタイルのゲストハウスが林立し、雨後のタケノコ状態だ。たまに門を閉ざした一般住宅がいくつか残っている。きっと旧市街の静かな生活が一変して迷惑しているだろうなあ。

ゲストハウスが増えてくると、あたりには食堂・カフェ・ランドリー・レンタルバイク・両替屋・旅行社等が軒を連ねるようになる。そして世界中からバックパッカーが集ってくるのだ。アジア各国共通の現象だ。

そんなゲストハウス街をあてもなくぶらつくのはとても楽しい。歩くだけでワクワクしてくる。もっと若い頃にこんな世界を知っていたら、僕はきっとその魅力にとりつかれ、安宿を渡り歩く旅を繰り返したに違いない。

しかし諦めることはない。年齢にふさわしい旅のかたちがあってもいいだろう。なにも汚いなりで安宿に泊るだけがバックパッカーではない。普通のホテルに泊まり、ザックの代わりにスーツケースを引きずっていても、要は精神の問題だ。

しがらみを捨て人目を気にせず、自分の流儀で行きたいところに行く、そしてその土地の人と語り、風物にふれ、食べ物を食べる、そんな旅が出来れば、それはそれで僕にふさわしいバックパッカーの旅だ。

クロネコのいる小さなカフェに入りお茶を頼む。美味しい緑茶が出てきた。それをゆっくりと飲みながら、先ほどの和菓子のようなタイ料理を味わう。それは薄甘く、しかし出汁のような風味があり、口の中でホロホロと溶け去った。たしかにお菓子とも、お惣菜とも言い難いような、結局よく分からない。

イスにもたれて通りを行き交う人をボンヤリ眺める。心地よい風が吹いてくる。カフェの隅でネコが静かに水を飲む。奥のテーブルでは年老いた白人女がパソコンの画面をみつめている。チェンマイの午後、ゆっくり流れる時間。 (続く)
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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78 シルクロードの旅(1)タシュケント到着
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76 小笠原の旅(6)小笠原海洋センター
75 小笠原の旅(5)母島列島
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73 小笠原の旅(3)ザトウクジラの海
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
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14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
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10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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