1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
かくてありけり
15 親密な見知らぬ他人=Intimate Stranger
2003年7月21日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 ある方言サイトの掲示板に加わり、意見交換を始めて1年半がたちました。
 そこは会員制ではないので、だれでも閲覧し、書き込むことができます。名前はハンドルネームでOK。また、自分のメールアカウントを記入しなくてもよい作りになっていて、ほとんどの人は記入なし。

 つまり接触は掲示板上限りです。方言に関心があるという一点でご縁がある。それ以外、相手がどこの誰か、年齢、職業も分かりません。性別すら分かりません。男性が女性を装って振る舞う「ネットおかま」の存在もあり得ます。

 なぜハンドルネームだけかと言う点は、今更言うまでもありませんが個人情報の露出に対する危惧があるからでしょう。
 でも、掲示板でつきあいを重ねていくと、主題の方言に関する意見だけでなく、時候のあいさつやら身の回りの一寸した出来事が話題に上り、差し支えのない範囲でプロフィルが少しづつ吐露され、おおよその輪郭が推測されるようになります。

 先日、その内の1人の女性から個人的に調べものの依頼を受けました。その人が掲示板で自分のメールアカウントを示したのは多分初めてです。私はそこに用件を尋ねるメールを送りました。私も相手に自分のアカウントを知らせたわけです。1週間後、依頼の用件を半日掛けて調べ、レポートをメールで送りました。

 折り返し彼女から礼のメールが届き、それには本名(あるいはペンネーム)を名乗って住所も書いてありました。彼女は礼を尽くしたのです。試しにその名前をネットで検索したら少なからぬ件数がヒット。言葉を紡ぐことを職業としている人で、そのジャンルでは名の通っている人でした。
 末尾に、お礼をしたいので住所をお知らせくださいとありましたが、お気持ちだけで結構です、今後とも掲示板でおつきあいくださいと返事しました。私も本名を書き添えました。

 その数日後、もう1人の常連の女性(?)が自費出版の方言集の完成を掲示板で紹介しました。ここで彼女もメールアカウントを初めて明記し、注文を受け付けました。私もすぐ申し込み。送り先として自宅住所を明記しました。

 本が届いて奥付けをみると70代の男性の名前と、30代の女性の名前を併記、共著の形になっていました。掲示板で私が対話してきたのは女性の方と思われます。男性の名前をネット上で検索すると地域の有名人であることも分かりました。

 今回、2つのケースとも品物の受け取りという事態が起きて初めてバーチャル世界と現実世界の接点が生じました。互いに自分の本名と住所を知らせ合ったわけです。

 面白いと思うのは、これまで掲示板でのやりとりだけで、互いに相手の名前も住所も電話番号も知らない、顔を見たことも声を聞いたこともない、それでも共通の話題で意見交換が1年以上重ねられると、決して見ず知らずの他人のような気がしないこと。不思議でもあり、ある意味、怖さも感じます。

 その辺のことを、昨年1月11日の朝日新聞で仏教大学教授の富田英典氏が解説していました。以下にその抜粋を引用します。

 本来、匿名性と親密性は相入れないものだった。しかし今日のメディア社会は匿名であるからかえって親密になれるという「インティメイト・ストレンジャー」現象を生み出している。

 −中略−

 インターネット上の匿名性により私たちはいくつもの自分を簡単に演じることができるようになった。臨床心理学者のシェリー・タークルはそれを「オンライン・ペルソナ(仮面)」と呼んだ。「インティメイト・ストレンジャー」はこの「オンライン・ペルソナ」によって生まれる。

 それは、メディア上の匿名性が社会のしがらみから私たちを解放するからである。地位や役割、物理的な空間や肉体、社会的なスティグマ(らく印)、さらには年齢や性別からも私たちを解き放つ。それによって私たちはかえって心の中を打ち明け、親密な関係を作り上げることが出来るのである。−後略−

 富田氏は宮部みゆきの「R.P.G」の疑似家族や、ネット上で出会い結婚に至る人も例に上げて解説し、最後は「私たちは、日常生活の中でインティメイト・ストレンジャーが重要な位置を占める時代に足を踏み入れようとしている」と結んでいます。

 おそまきながら私もその一端を感じていたので、氏の説明はストンと腑に落ちた次第です。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
66 追悼−西永奨さん
65 ご破算で願いましては−14回目の引っ越し
64 続・原爆を撮った男
63 再び・硫黄島の星条旗
62 日曜農園から 「農閑期」
61 富士山頂の星条旗−古写真探偵が行く
60 日曜農園から(4) 「収穫祭」
59 日曜農園から(3) 会計担当
58 日曜農園から(2)−農事暦
57 日曜農園から(1)
56 「トリアージ」再び
55 刷り込み
54 遷宮の撮影
53 定点観測
52 解約返戻金
51 仰げば尊し
50 在宅勤務
49 睡眠時無呼吸症候群
48 映画館今昔(補遺)
47 映画館今昔(下)
46 映画館今昔(上)
45 原爆を撮った男
44 標準温度計
43 続・硫黄島の星条旗
42 knot=結び目
41 硫黄島の星条旗
40 五十嵐君のこと
39 ホケマクイ
38 百科事典
37 白魔
36 私は嘘を申しません
35 再び転勤
34 高所作業車
33 撮影時間の怪
32 色再現
31 空き缶回収の主役
30 続・ビルの谷間に蝶
29 代表撮影
28 人名用漢字
27 ビルの谷間に蝶
26 ホウレンソウに虫
25 残酷でも放送して!
24 人力飛行機
23 ペーパーレス
22 接触を拒否する企業サイト
21 今様1K住宅事情
20 credibility=信憑性
19 超小型走査電子顕微鏡に賭けた二人の男(下)
18 超小型走査電子顕微鏡に賭けた二人の男(上)
17 クレジットの怪
16 遺体写真
15 親密な見知らぬ他人=Intimate Stranger
14 走査型電子顕微鏡写真
13 気送管
12 カメラ付き携帯電話
11 続・合成写真
10 合成写真
9 帰還不能点
8 藤子不二雄の先見性
7 図書館は今
6 裏焼き
5 デジタルカメラ
4 Made in occupied Japan
3 トリアージ=負傷者選別
2 怖い夢
1 亡命
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 6 0 4 5 5 6
昨日の訪問者数0 5 5 1 8 本日の現在までの訪問者数0 3 5 5 3