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僕の偏見紀行
181 メコンクルーズ(5)ラオ ボーダー
2015年1月31日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ タイ国境、チェンコンの朝、メコン川と托鉢中の僧侶たち。
▲ 新しくなったタイ・ラオスの国境。この先に友好橋があり、そこを連絡バスで渡る。
▲ メコンの夜明け。ラオスのフェイサイのホテルから。対岸はタイのチェンコン。
国境越えの朝、僕らはホテルの前からトゥクトゥクに乗り込んだ。国境まで30分くらいかかるという。1人100バーツ、高いと文句をいうと、これが協定価格だ、とドライバーから一蹴された。

1年前まではメコン川をボートで渡ればよかった。イミグレーションもそれぞれの岸辺にあり、簡単に国境越えが出来た。費用はわずかなボート代のみ、実に手軽な国境だった。

トゥクトゥクは町を出ると造成したばかりの工業団地のような野原を走った。あたりには何も見当たらず、一本の舗装道路がどこまでもまっすぐに延びているのみ。容赦なく砂まじりの風がトゥクトゥクに吹き込んでくる。日差しは強いのに吹き込む風に体温が奪われていく。

はるか前方に建造物が見えて来た。近づくとそこが国境ゲートだった。派手な色彩の真新しいコンクリートのゲートはまるで城塞都市の楼門のようだ。

中に入ると、ガランとした広いロビー奥の窓口に数名の旅行者が並んでいる。僕らもその後に並んで手続きを終え外へ出るとラオス行き連絡連絡バスが待っていた。

旅行者が集るのを待ってバスは発車した。友好橋を渡りわずか数分でラオス側に到着。タイとラオスは、車の通行レーンが左右異なるため、連絡道路は中間点でクロスしている。マニアの間では話題のポイントだが、あっという間に通り過ぎるので注意していないと分からない。

ラオス入国手続きも簡単に済んだ。ただよく分からない手数料10,000キープ(約120円)を徴収された。そのレシートには、OVER TIME FEE、と記載されていた。たまたまその日(11月30日)は日曜日だった。ラオスの公務員は外国人から時間外手当を取るのだろうか。

ラオス側にも数台のトゥクトゥクが待っていた。一人のオジサンが旅行者を振り分けて車に乗せている。町までいくらか尋ねると1人100バーツ、ヤレヤレここも協定価格だ。以前はボート代だけだったのに、すっかり金と時間のかかる国境越えになってしまった。

車は30分ほどでフェイサイの町に到着、予約したゲストハウスまで歩いて数分だった。メコン川に面し、眺めのいいレストランとホテルが同じ敷地に建っている。前回泊った宿があまりよくなかったので比較的新しそうなここにした。

昼過ぎのゲストハウスは人影が無く声をかけても誰も出てこない。仕方ないので隣接するレストランにいって声をかけると若者が出てきた。あまり愛想のよくないこの男、言葉がよく通じない。僕のいい加減英語と身振り手振りをやっと理解したのか、若者は僕らを3階の部屋へ案内した。

木造4階建てのこのゲストハウス、見た目はまあまあだったが内部はいろいろ問題だった。エレベーターが無いのは仕方ないとして、分厚い板材の階段は造りが杜撰で、階段の高さがまちまちなのでとても危ない。バッグを運び上げるのに一苦労した。

部屋についてドアを開けようとしたがキーが回らない。若者に苦情をいうと、ノブを手前に引きつつ回すのだと身振りで教えてくれた。なかなか一筋縄では行かない宿なのだ。

部屋に入ってみると窓の様子がおかしい。よく見るとガラス戸の代わりに派手なビニールシートが貼り付けてある。壊れた窓をビニールシートでごまかしている。しかしここは辺境の地、夜風が防げればそれでよしとしよう。

ガランとした薄暗いバスルームには一応ホットシャワーがあった。念のためにお湯を出してみたら、シャワーヘッド下部のホースから水が噴出した。あわてて調べてみると、ホースが大きく裂け、そこから大量の水が漏れている。

あわてて若者を呼び戻して文句をいう。まくし立てる僕を前にして、こんなことでなんでそんな騒ぐのか、と彼はピンとこない様子だ。これではらちがあかない、僕はこんな部屋には泊れない、部屋を換えろ、と叫んだ。するとさすがの彼も、コイツは本気で怒ってる、とあわてて誰かを呼びに行った。

すぐに英語を話す若い娘がやってきた。オーナー家族と思しき彼女は、どうしましたか、と落ち着いた口調で尋ねた。僕はシャワーの水もれを示しながら、こんな部屋には泊れない、部屋を変えろ、と再び要求した。

すると娘は、申し訳ないが今日は満室でこの部屋しかないと突っぱねる。アタマに来た僕は、そんなら他の宿に行くからカネを返せと迫った。

さすがにこれには困ったのか、娘は、それではすぐに修理すればいいのか、といい出した。こんな辺鄙なところでそう簡単に修理なんかできるはずが無い、それに部品は揃うのか、工事業者はすぐ来るのか、そんな疑問が僕の頭をよぎる。

一体誰がどうやって修理するのか、僕は尋ねた。すると娘は、とにかく修理するから、と事もなげにいう。悪びれることもなく自信ありげな様子に、僕は仕方なく任せることにした。

一旦どこかへ消えた娘は、数分後ホース付きのシャワーヘッドとスパナを抱えて現れた。えっ?コイツが修理するのか、僕は我が眼を疑った。呆れた僕を尻目に、娘は慣れた手つきでスパナをあやつり、ものの10分ほどでシャワーを交換した。

ちゃんとお湯が出るのをチェックしながら娘は、これで満足か、と尋ねた。キツネにつままれた思いで僕はうなずくしかなかった。すると娘は何事も無かったかのように、平然と戻って行った。

僕はあらためてシャワーを点検した。するとそれが新品でないことが分かった。そして僕はこの騒ぎから透けて見える現実に気付いた。

僕のクレームを受け、娘は他の部屋から適当なシャワーをはずして持って来た。そして何食わぬ顔で交換を済ませ、壊れたシャワーはその部屋に付けたのだ。

あくまでも推測にすぎないが、客が壊れたシャワーに文句をつけたら他の部屋の適当なシャワーと交換する、もしつけなければそのまま放置する、このやり方で彼らはこの問題をしのいできたのだろう。だから彼らにとってこんな騒動は日常茶飯事なのだ。そういえば娘の仕事ぶりは随分手慣れたものだった。

これなら交換部品も業者も不要だ。僕の推測が間違っていたら申し訳ないが、これも都会から遠い田舎で宿を経営するためのノウハウの一つなんだろう。

こんな辺境に来て、たかがシャワーのことでわめき立てる僕を彼らはどう思っただろうか。もれるぐらいで騒ぐとは、日本人は困ったもんだ、お湯がでるだけでもあり難いと思え、そう思ったかもしれない。

翌朝、目覚ましに起こされて宿のレストランへ行った。朝食は6時からと聞いていたので、6時に目覚ましをセットしていた。朝6時といっても時差が2時間あるので、日本時間では8時にあたり、東南アジアでの早起きは苦にならない。

ところがレストランのあたりは真っ暗で未だ誰もいない。ドラム缶のカマドで燃えさかる薪の炎だけが明るい。ウロウロしていたら奥から男がひとり現れた。暗がりの僕らを見てぎょっとした様子だ。

6時だから朝飯を食いに来た、と僕は身振り手振りで伝えた。しばらくそれを見ていた男はようやく理解したようだったが、しきりに未だダメだ、朝飯は6時からだ、といわんばかりに、シックス、シックスと繰り返す。

僕は、もう6時過ぎだ、と彼に腕時計を示そうとして驚いた。未だ午前4時過ぎだった。どうしてこんなことが起こったのか。

実は僕の目覚ましには、電波を受信して時刻を自動修正する機能がついている。勿論日本国内だけの機能なので、こちらに着いてすぐに腕時計と共に現地時間に修正していた。

それがどう間違ったのか、こちらの何かの電波に反応したのだろう、目覚ましは日本時間に戻っていた。そのため日本時間の6時、こちらの4時に鳴ったというわけだ。

とんだ間違いでバツの悪い思いをした僕らは、一旦部屋へ戻り、再び6時にレストランへ行った。そして一番乗りで熱いヌードルスープを食べた。それは早起きして空いた腹にしみわたった。

やがて東の空が白み始め、あたりは明るくなってきた。しだいにメコン川の水面が明るくなり、雲と川面が赤く染まっていった。レストランからは、朝もやに浮かぶ対岸のチェンコンのホテルがよく見えた。(続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
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47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
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16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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4 憧れのフルム-ン法師の湯
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1 東北紅葉雪見風呂
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